ミステリ&SF感想vol.30 |
2001.11.21 |
『ウサギ料理は殺しの味』 『マリオネット症候群』 『切られた首』 『第二の銃声』 |
ウサギ料理は殺しの味 Femmes Blafardes P・シニアック | |
1981年発表 (藤田宣永訳 中公文庫・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] フランス・ミステリの怪作です。序盤は事件そのものよりも町の人々の一風変わった様子に描写が費やされていて、繰り返しの多用と相まって一筋縄ではいかなさそうな一種独特の雰囲気をかもし出しています。この奇妙な味は、殺人事件とウサギ料理の関わりを暗示する怪文書の登場でさらに盛り上がります。
意外に早い段階で明かされる事件の真相は、想像を絶するというほどではありませんが、まぎれもなく奇想の産物です。また、やや強引ではあるものの、この真相を成立させるための伏線も見逃せないところです。さらに、真相が明らかになった後のまさかと思うような展開には苦笑せざるを得ません。いわゆる“バカミス”が好きな方にはおすすめです。 2001.11.11読了 [P.シニアック] |
ディー判事 四季屏風殺人事件 The Lacquer Screen R.ファン・フーリック |
1962年発表 (松平いを子訳 中公文庫 フ11-1) |
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マリオネット症候群 乾くるみ | |
2001年発表 (徳間デュアル文庫 い3-1) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 歴代メフィスト賞作家の中でも特に変な作風で知られる作者の、久々の新作です。少年の意識が少女の体の中に(あるいは逆)という状況はややありがちかもしれませんが、そこはさすがに一味違った展開で読ませます。この手の物語では内面と外見の違いによって起こる騒動が中心となる場合が多いと思いますが、この作品ではそうではありません。体を乗っ取られた“私”の方は森川先輩に意志を伝えることもできないため、状況を受け入れるしかないのは当然かもしれませんが、突然“私”の体に入り込んだ森川先輩の方もさほど動ずることなく事態を乗り切ろうとしていますし、事情を聞かされた他の登場人物たちも比較的簡単に納得してしまっています。
それでは森川先輩を殺した犯人を探すのがメインかと思いきや、これも意外にあっさりと判明してしまいます。かなり唖然とするような真相で、そこから事態はますます混迷を深めていきます。このあたりは非常にうまいと思います。 終盤にはやや息切れしているようにも感じられますが、なかなかよくできた作品です。 2001.11.13読了 [乾くるみ] |
切られた首 Heads You Lose クリスチアナ・ブランド | |
1941年発表 (三戸森 毅訳 ハヤカワ・ミステリ515) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 連続首切り殺人という猟奇的な事件で、しかもグレイス殺しでは被害者の生前の言葉をなぞるかのような不気味な装飾が施されています。しかし、意外に陰惨な雰囲気になっていないのは、フランセスカの明るさによるものでしょう。次第に事件の中心に位置することになっていく彼女ですが、その健康的な若さが周囲を救っているように思えます。
シリーズ探偵役のコックリル警部が初登場していますが、その役どころは意外に地味で、捜査においてもかなり苦戦しています。ほぼお手上げ状態になった終盤に明らかになる事件の真相は、正直なところ惜しいといわざるを得ません。なかなかよくできた作品ではありますが、ネタの使い方で損をしているように感じられます。 2001.11.15読了 [クリスチアナ・ブランド] |
第二の銃声 The Second Shot アントニイ・バークリー | |
1930年発表 (西崎 憲訳 国書刊行会 世界探偵小説全集2) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] プロローグとエピローグに挟まれた容疑者による手記という体裁、さらには殺人劇の最中に起こった殺人など、メタミステリ的ともいえる構造の作品です。前半は手記の主であるピンカートン氏に殺人の容疑がかかるまでが、そして後半ではシェリンガムがその容疑を晴らしていく過程が綿密に描かれています。
読後に最も印象に残るのはピンカートン氏の特異なキャラクターで、事件の渦中にありながらも関係者の女性と恋に落ちたり、シェリンガムに対して “僕は確かに自分の無実を証明したいのだが、誰かが法的に有罪になるという犠牲をともなわないで、証明したいのだ”(75頁)といったドンキホーテ的な台詞を口にしたり、挙げ句の果てには他人を救うために検屍法廷で殺人を自白(!)さえしています。 もちろん、シェリンガムの活躍も印象的です。スコットランド・ヤードの協力者という立場を最大限に利用して独自の捜査を行い、終盤には捜査陣と容疑者たちとの非公式の協議の場を設け、容疑者たちの自白合戦へと導いて捜査陣を当惑させています。ピンカートン氏の恋を後押ししているところも見逃せません。 結末は何ともいえないものですが、ここにもピンカートン氏の人柄が表れています。特殊な構成とも相まって、ユニークな傑作に仕上がっているといえるでしょう。 2001.11.17読了 [アントニイ・バークリー] |
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