バーニング・ダンサー
[紹介]
二年前に地上に落ちてきた隕石が原因で、様々な動詞に基づく“コトダマ”と呼ばれる特殊な能力を持つ能力者――“コトダマ遣い”が世界に百人誕生した。手にした能力を悪事に用いるコトダマ遣いに対抗すべく、日本では警視庁公安部にコトダマ犯罪調査課――通称SWORDが設立される。とある事件がきっかけで休職していたところをSWORDに配属されることになった、『入れ替える』のコトダマを遣う元捜査一課刑事・永嶺スバルは、ほとんど捜査経験のないメンバーたちに頭を抱えるが、SWORD発足早々に、炭化するほど燃やされた死体など奇怪な事件に遭遇することになり……。
[感想]
本書は阿津川辰海の新シリーズ(*1)で、ジェフリー・ディーヴァー(*2)を意識した警察小説をベースに、作者お得意の特殊設定で展開される能力バトルを組み合わせた快作です。その特殊設定――“コトダマ”は、百種類の動詞で表現される様々な特殊能力ですが、地球外から強制的に与えられた上に大まかな“取扱説明書”のようなものまでが用意されている(*3)ため、比較的少ない説明で“そういうもの”として受け入れやすくなっているところがよくできています。
ただし、そのコトダマ関連に突っ込みどころが多い(*4)のが少々困ったところ。本書では、“現象”を起こす“能力”こそが特殊設定であって、“現象”自体は必ずしも非現実的でない――少なくとも現実の延長線上にあるものが多く、それゆえに描写に不自然さが目につくところがありますし、能力自体よりもその名前が先にあるコトダマの設定のため、能力の切り分けが怪しくなっている部分もあります(*5)。さらに、とあるコトダマによる現象(の影響)については、(失礼ながら)作者が大きな勘違いをしている節があるのがいただけません。このあたりの細かいところは、気にならない方は気にならないかもしれませんが……。
それはさておき物語は、とある事件で相棒を失って心に傷を負った主人公・永嶺スバルの姿から始まりますが、新たに設立されたSWORDへ加入したと思えば早々に事件が発生するなど、序盤からスピーディな展開が目を引きます。犯人側の様子も時おり描かれます(*6)が、基本的にはSWORDによる事件の捜査に焦点が当てられており、地に足が着いた捜査と魅力的な能力バトル(*7)を通じて、それぞれの能力も含めて個性豊かなメンバーが“チーム”になっていく過程が一つの見どころではないでしょうか。
ミステリとしては、個人的な感覚でいえば、作者の作品にしては全体的にだいぶ見えやすくなっているきらいがありますが、フェアに書かれているがゆえに多少はやむを得ないところでしょう(*8)し、解明の手順はなかなかよくできていると思います。そして最後に明らかになる真相、さらにそれを受けた結末は、(ある程度予想できるとはいえ)いずれも破壊力十分で見ごたえがあります。この結末から続く次作では、どのような形で見せてくれるのか大いに楽しみです。
*2: 題名からして、『バーニング・ワイヤー』と『コフィン・ダンサー』を下敷きにしたもののようです。ちなみに、恥ずかしながらディーヴァーは未読なので、マイケル・スレイドやジャック・カーリイのイメージで読んでしまいましたが……。
*3: 『知る』のコトダマによって説明されるのがまたうまいところですが、その能力の作中での扱いが(不謹慎ながら)とぼけた味わいになっているのも見逃せません。
*4: コトダマ遣いが世界で百人しかいない割に、日本の警察関係者に偏り過ぎている――というのは個人的にさほど気になりませんし、『2025本格ミステリ・ベスト10』(原書房)での市川尚吾氏の“提案”で十分に補完できるように思います。
*5: 『軽くする』と『重くする』がわざわざ別にされている点は作中でも指摘されていますが、逆に序盤に登場する『腐る』のコトダマは、
“触れたものを腐らせる”とされているものの、金属の腐食と有機物の腐敗では機構が異なるので“二種類の能力”とも解釈できるように思います(さらによく考えると、別のコトダマに包含されてしまうような気も……)。
*6: 個人的には、このあたりが警察小説らしく感じられます(あくまでも(スレイドやカーリイの)イメージです)。
*7: 前述のように、コトダマ関連の描写には色々気になるところもありますが……。
*8: これについては、特殊設定ミステリならではの問題もあると思います。
2024.08.03読了 [阿津川辰海]