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リングワールドの子供たち/L.ニーヴン

Ringworld's Children/L.Niven

2004年発表 小隅 黎・梶元靖子訳 海外SFノヴェルズ(早川書房)

 まずはやはり、ハイパードライヴで3000光年の彼方まで飛んでいくリングワールドという結末が秀逸です。魔法も同然のナノテクによってそれが達成されているところは今ひとつ気に食わないのですが、ばかばかしいほどに壮大なイメージによってそれも帳消しになっている感があります。
 かつて「太陽系辺境空域」『太陽系辺境空域』収録)でベーオウルフ・シェイファーが口にし、あっさりと否定されてしまった“ハイパースペースの怪物”という仮説が、いきなり〈作曲家〉の口からいかにも事実であるかのように語られているのには、さすがに唖然とさせられました。しかし、巨大な質量の近くでハイパードライヴが使えないという設定のままでは、この豪快な結末もあり得なかったのですから、これはこれでよしとすべきではないかと思います。

 正体不明のウェンブレスがルイスとティーラの子供だったという真相には、やはり驚かされました。伏線も何もあったものではなく、唐突に感じられるのは否めませんが、“彼女はルイスの血に連なる子供を宿している”及び“それはウェンブレスの子供だ”(いずれも289頁)という、ミステリの叙述トリックめいた表現が印象的です。また、「登場人物一覧」の中の“ウェス・カールトン・ウー”と“ターニャ・ヘインズ・ウー”が単なるレッドヘリングでしかなかったのには苦笑。
 そしてそうなると、『リングワールドふたたび』におけるティーラの苦悩も、少々意味合いが違ってくるようにも思われます。ただ、ウェンブレスが〈他方海洋〉の側にいたとすれば放射能による被害は受けることはなかったはずですから、1兆5000億の人々よりもわが子を優先したりはしなかったということになるわけで、プロテクターにあるまじき利他主義といえるのかもしれません。

 ルイスのプロテクター化には「ついに来たか」という思いを抱いたのですが、自動医療装置でブリーダーに戻ってしまったのには驚きとともに納得。プロテクター化の際にも遺伝子は変化しないのですから、遺伝情報をもとに体を復元する自動医療装置ならば当然元の状態に戻すことになるわけです。
 これはまた、「序文」に記された、“プロテクターのクローンがつくれるかどうか”という議論(11頁)が間違っている理由でもあります(いかなる種族であれ、プロテクターからのクローニングによって誕生するのはブリーダーでしかありません)。

 なお、ラストでルイス・ウーと〈至後者〉はホーム星を目指していますが、
[↓以下、長編『プロテクター』をお読みになった方のみ範囲指定でご確認下さい]

ホーム星の植民地は『プロテクター』のラストでまずいことになっていたはず。 と思って、ハヤカワSFマガジン1998年7月号掲載の「詳細版:《ノウンスペース》年表」を確認してみると、2351年に“ホーム星の植民地崩壊”の後、2589年に“ホーム星に再入植”とあります。したがって、生命の樹のウイルスもすでに死滅してしまい、再び安全な環境に戻ったと考えていいでしょう。

 より詳しい年表である「The Up To Date Known Space Chronology」をみると、この年代設定はリングワールドを舞台にしたRPGが初出のようですが、
実は『リングワールドふたたび』に“しばらくホーム星に腰をすえて、植民者みたいに暮らしたこともある”(96頁)というルイス自身の台詞があるので、ホーム星がすでに安全になっているというのは小説でも保証された事実だと考えていいでしょう。

[↑ここまで伏せ字]

2006.08.27読了

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