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五骨の刃/三津田信三

2014年発表 角川ホラー文庫 み2-4(角川書店)

 本書ではまず、〈無辺館殺人事件〉と〈第二の無辺館事件〉の二つの事件*1が組み合わされているのが巧妙。〈骨の刃〉と〈骨の刃〉という別々の呪術*2が使われているにもかかわらず、同じく〈無辺館〉絡みの事件ということで無関係だとは考えにくいため、同一犯による事件だと思い込まされてしまい、真相を見通すのが難しくなっています。

 〈伍骨の刃〉の“伍”、すなわち〈第二の無辺館事件〉の被害者候補たちのミッシング・リンクにしても、映画『西山吾一惨殺劇場』に捧げられた〈無辺館殺人事件〉との関連から、同じく映画『首切り運動部』につながる“キャプテン”というダミーの真相にそれなりの説得力が備わり、(それとやや似て非なる)真相がうまく隠されているように思います。

 そのミッシング・リンク――“かんとく”は、それだけを取り出せば脱力もの。より正確にいえば、(映画監督・佐官甲子郎や舞台監督・石堂誠はともかく)管徳代の名前*3や鈴木健児の会社の略称“関特”といったダジャレに――呪術の恐ろしさとの落差も相まって――脱力せずにはいられません。

 鈴木健児の(一見不必要な)“関特”についての説明(276頁~277頁)や、大林脩三についての“まさか自分が監督局に勤めてるからってんで、それで映画監督好きになったとかじゃないでしょうな”(201頁;太字は原文では傍点)という曲矢刑事の台詞など、伏線が目につきやすくなっているのは確かですが、たとえ伏線があってもそれだけでは、(“キャプテン”と同様に)それがキーワードとして選ばれる意味が不明で納得しがたいところ。そこで、解決の手順として犯人とその動機先に明かしてあるのが非常に効果的です。

 佐官美羽の“扉、閉まる”という言葉(と、母親・奈那子がエレベータのボタンに残した血の痕(86頁))をもとに組み立てられる、〈無辺館殺人事件〉の隠された一幕――奈那子を見殺しにして逃げた、“かんとく”と呼ばれる目撃者の存在はなかなか強烈。そして、〈第二の無辺館事件〉の“犯人”である美羽の幼さと、それに付け込んだ黒術師の思惑、さらに〈伍骨の刃〉の“精度”の低さが相まって、ダジャレも含めたミッシング・リンクの真相に説得力が備わっているところが実によくできています。

 一方、〈無辺館殺人事件〉を起こした“ホラー殺人鬼”の正体については、“被害者=犯人”という真相こそありがちといえるかもしれませんが、映画『西山吾一惨殺劇場』にちなんだ犯行の順序――これも“西山吾一”を“にしさんごいち”と読むダジャレめいたものですが――によって隠蔽してあるのがうまいところ。死相が現れていながら“かんとく”に(当てはまりそうでいて)当てはまらないという手がかりも絶妙ですし、最後に祖母が言及している(331頁~332頁)“無念さ”にも納得です。

 “ホラー殺人鬼”の正体が明らかになってみると、「十二 事件関係者の独白」での犯人の独白――“そもそも私に、どうして死相が出るんだ?”(228頁)が、違った意味をもって浮かび上がってくるのも心憎いところで、某有名海外古典ミステリ*4へのオマージュともいえそうな巧みなトリックです。

*1: ついでにいえば、本書では“呪術のための殺人”(無辺館殺人事件)に加えて“呪術による殺人”(第二の無辺館事件)が盛り込まれることで、前作『六蠱の躯』のようにミステリに寄りすぎることなくホラーとの両立ができている、という効果もあるように思います。
*2: 似たようなネーミングになっているのも、ややあざとくはあるものの巧妙です。
*3: 作中では言及されていませんが、子供の頃に“かんとく”というあだ名がつけられた可能性も高いのではないでしょうか。
*4: (作家名)アガサ・クリスティ(ここまで)の長編(作品名)『そして誰もいなくなった』(ここまで)

2014.04.02読了