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割れたひづめ/H.マクロイ

Mr. Splitfoot/H.McCloy

1968年発表 好野理恵訳 世界探偵小説全集44(国書刊行会)

 まずはやはり、被害者の死因がかなり後になるまで明らかにされないところが気になります。特に、不吉な伝説のある部屋で伝説通りに死者が出たわけで、最初から自然死ではなく殺人の可能性が濃いはずですから、いくら見つかりにくい凶器とはいえ、あまりに不自然ではないでしょうか。

 死因が伏せられていた理由はもちろん、早い段階で容疑者が絞り込まれてしまうのを防ぐためです。本文289頁でウィリング博士が述べているように、この殺害方法が可能なのはオルコットとスウェインの二人だけになってしまいます。同じ“死の部屋”ものでも、例えばC.ディクスン『赤後家の殺人』では死因が明らかになっても容疑者が絞り込まれないような殺害方法が採用されているのですが、それに比べるとこの作品はかなり見劣りがします。

 結局、この作品では殺害方法と状況の組み合わせが悪かったということなのでしょう。うなじにピンを刺すという殺害方法は、原因不明の自然死に見せかけるためのものなのですから、最初から殺人が疑われる状況にはそぐわないのです。

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 また、オルコットではなくスウェインが犯人だとする根拠も、やや弱いように感じられます。ポイントとなるのは、動機、呼び鈴の設置、そして“ブルータスよ、おまえもか”というクロウの台詞などだと思いますが、動機や呼び鈴の問題についてはスウェインが犯人である可能性が高いというだけで、決定的な根拠とはいえないでしょう。また、うなじにピンを刺されたクロウが“ブルータスよ、おまえもか”という迂遠な台詞を口にすること自体、かなり不自然に思えます。結果としては、スウェインが真相の一部に気づいたウィリング博士の命を狙ったことで、スウェインが犯人だという真相に説得力が出ているのです。もし、彼のその行動がなかったとすれば、解決はかなり難しかったのではないでしょうか。

2003.03.25読了

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