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  4. ストラディヴァリウスを上手に盗む方法

ストラディヴァリウスを上手に盗む方法/深水黎一郎

2017年発表 (河出書房新社)

 一部の作品のみ。

「ストラディヴァリウスを上手に盗む方法」
 ヴァイオリンの構造からして不可能ではないとはいえ、貴重なストラディヴァリウスを“三枚におろして”(違)犯人たちの楽器に組み込むというのは、あまりにも大胆すぎるトリックといえるでしょう。しかしその一方で、余ったパーツを組み立てて予備の楽器に仕立てておくあたりは、実に周到です。
 瞬一郎が推理の端緒として、犯人が“何をしなかったか”*1――弓が盗まれなかったことを手がかりとしているのが秀逸。そこから先は、ヴァイオリンの構造を知らない読者には難しいかもしれませんが、“瞬一郎がどうやって犯人を見つけようとしているか”に着目すれば、“ヴァイオリンはヴァイオリンに隠せ(?)”というトリックの見当をつけることもできるように思います。

「或るワグネリアンの恋人」
 冷静に考えれば、“少しわかった気がする”(118頁)程度にしては、プロポーズにいきなりブリュンヒルデの台詞で応えるのはレベルが高すぎで、あからさまな手がかりとなっている――のですが、“恋は盲目”なので仕方ないところでしょうか。

「或るワグネリアンの栄光」
 日本ワーグナー協会理事長の三宅幸夫氏その人が、〈意外な語り手〉として登場する趣向がやはりユニークで、特別賞の贈呈役が自ら優勝した結末には苦笑を禁じ得ません。
 “日本ワーグナー協会の理事長”に関する問題での、“さすがに間違えませんね”(164頁)という司会者の一言が、かなり目につきやすい手がかりとなっていますが、これだけでは“マニアなら間違えるはずのない有名人”とも解釈できるので不十分。もう一つ、決勝直前の“これまで胸にずっとつけていた〈GUEST〉のバッジを外すように言われる”(160頁)という記述をみると、語り手の“俺”自身が本来は番組にゲストとして呼ばれる立場の人物ということになる*2ので、これを司会者の言葉と併せて考えれば、“俺”の正体を見抜くこともできるのではないでしょうか。

*1: ここで、「ピーター・ブリューゲル父子真贋殺人事件」『大癋見警部の事件簿リターンズ』収録)が引き合いに出されているのにニヤリとさせられます。
*2: 解答者はあくまでも(一般公募の)“参加者”であって、“ゲスト”として扱われるとは考えにくいものがありますし、予選の段階であればなおさらです(私が「カルトQ」の予選に参加した際にも、特に何もありませんでした)。

2017.05.27読了