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テンペスタ ―天然がぶり寄り娘と正義の七日間―/深水黎一郎

2014年発表 (幻冬舎)

 本書の〈六日目〉ではミドリが誘拐される事件が起きますが、一連の事件について序盤で詳しく説明されているため、いずれ物語の本筋に絡んでくることは予想できるでしょうし、賢一を訪ねてきた旧友・聖川の不自然な行動から、聖川が犯人グループの一人であることも見当がつくのではないでしょうか。また、ミドリが再三にわたって正義感からの大胆な行動に出ていたことが、わざと犯人の手に乗って誘拐されかける危険を犯したことを補強する、一種の伏線になっています。

 続く〈七日目〉には、ミドリの両親が突然の事故死を遂げる急展開が用意されており、その不可解な死の真相を探るミステリ的な興味が出てくることになります。そしてその真相――ミドリの母・百合子の不倫が、思わぬ形で事前に暗示されているのがすごいところ。

「わたくしの見たところでは、これは禁じられた愛だね。愛し合っているのに、ケッコンできないのよ」
  (中略)
「この二人は互いに相手のことが好きなのよ。でも何かの理由で一緒にはなれないから、男の人はわざと女の人から距離を置いて、でも何かあったらすぐに助けに駆けつけられるように、離れて見守っているの。(中略)もちろんこの子の父親は、女の人が結婚した別の男の人なんだけど、この女の人も心の中で本当にアイしているのは、この男の人なのよ。(後略)
  (213頁)

 上に引用したのは、(本書の題名にもなっている)ジョルジョーネの絵画『テンペスタ』についてのミドリの“新解釈”ですが、これが百合子と森岡卯一郎の関係にほぼそのまま当てはまる――実際には、ミドリも竜二の子供ではなかったという、より悲劇的な真相ですが――形になっています。もちろん、その解釈と真相との間に因果関係はなく、通常の意味での手がかり/伏線とはいえないのですが、少なくとも作者の某作品((以下伏せ字)『花窗玻璃』(ここまで))をお読みになった方にとっては、作者の意図するところは明らかではないでしょうか。

 つまり本書は、『トスカの接吻』と同様に“新解釈”を中心に据えたミステリであると同時に、前述の某作品と同じく、絵画のモチーフから物語を組み立てることでそれを読者への手がかり/伏線としたミステリでもあるわけで、実に作者らしい、というよりも作者ならではの作品といえるでしょう。

 さらに、ジョルジョーネの『テンペスタ』を模したカバーイラストは、引き離されてもなおミドリと賢一の間に存在する信頼関係を暗示し、本書の結末に呼応している――ようにも思われるのですが、これは穿ちすぎかもしれません。いずれにしても、この二人であれば“一ヶ月の苦境”をも乗り切ることができるだろうと思わせてくれる、後味のいい結末がお見事です。

2014.05.17読了