神曲法廷/山田正紀
1998年発表 講談社ノベルス(講談社)
まず大月判事殺しですが、判事が裁判官室から脱出したトリックは、いわゆる“見えない人”のバリエーションです。ただ、ここで判事が上着を脱がざるを得なかったことで、判事の死体には法服が着せられることになり、それが新たな謎を生みながら、見立ても補強することになっているのは面白いと思います。
綿抜殺しについては、なぜ死体が裸にされ、シャワーのお湯をかけられていたか、という謎がユニークです。服が濡れていたこと、さらにネクタイで絞殺されたことをごまかすという理由は秀逸といえるのではないでしょうか。また、“密室なんかどうでもいい”
(450頁)という台詞にも、ある種の皮肉が込められているようにも思います。
そしてこれらの事件は、鹿内弁護士が殺されたことに端を発し、藤堂の意を受けた(つもりで)東郷が引き起こしたものですが、そもそもの発端である鹿内弁護士殺しの真犯人が佐和子だったというのは、(すでに亡くなってはいますが)東郷にとっても、また佐伯にとっても、あまりにも皮肉です。凶器が金属でないことは十分に示唆されていますし、佐和子が解凍しかかった(逆に言えば半分凍ったままの)チキン・ウイングを持ったままだったことも明らかにされており、伏線は見事です。それだけに、ラストで鮮やかに体現された“神の意志”が強く印象に残ります。
2001.01.02再読了