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氷河民族/山田正紀

1976年発表 角川文庫 緑446-2(角川書店)

 この作品で展開される吸血鬼伝説の新解釈は、非常に魅力的なものです。冬眠という習性を導入することで、吸血という行為を、目的ではなく手段としてとらえています。冬眠中の水分の損失のために血液中の塩濃度が高くなり、余分な塩分を涙として排出し、目覚めた後に、吸血によって失われた塩分を補給するという機構は、説得力のあるものです。塩の少ない環境に生息していたという伏線もありますし。

 しかし、その冬眠人種の秘密が、中盤ですべて明かされてしまうのが残念なところです。もちろん後半にも見所はありますが、この秘密に比べればやはり魅力に欠けています。結局、動的なクライマックス(アクション)が終盤に配置されているのに対し、知的なクライマックスが中盤に位置しているために、物語のバランスが崩れてしまっているといえるでしょう。

2000.03.17再読了