山田正紀作品感想vol.1 |
神狩り 弥勒戦争 化石の城 氷河民族 襲撃のメロディ 崑崙遊撃隊 謀殺のチェス・ゲーム 火神を盗め 神々の埋葬 地球・精神分析記録 |
神狩り 山田正紀 |
1975年発表 (ハルキ文庫 や2-1) |
[紹介] [感想] 「想像できないことを想像する」というのが(特に初期の)山田正紀SFのキーワードになっているわけですが、デビュー作であるこの作品では“神との戦い”をテーマとし、冒頭に「語りえぬことについては、沈黙しなくてはならない」という、哲学者ヴィトゲンシュタインの言葉を引用しながら、真っ向からこれに挑戦しています。ここで山田正紀は、神の強大さを描くに際して抽象的な、あるいは陳腐な描写をもってするのではなく、神の“エッセンス”ともいえる古代文字を使って“論理レベルの違い”を浮き彫りにするという巧妙な手段を採用しています。
もう一つ特筆すべきは、その抜群の読みやすさです。ある意味ステレオタイプな登場人物たちが感情移入を容易にしている部分もありますが、やはりすぐれたストーリーテリングに負うところが大きいでしょう。ハードなテーマとリーダビリティが両立しうるということを具現化した、文句なしの傑作です。 2000.07.19再読了 (ミステリ&SF感想vol.11より移動) |
弥勒戦争 山田正紀 |
1975年発表 (ハヤカワ文庫JA89) |
[紹介] [感想] 独覚一族、そして弥勒に関する設定が秀逸です。物語の主役となるのは超常能力による戦闘ではなく、むしろ、独覚一族が受け入れざるを得ない滅びの運命です。仏教にヒントを得た設定をもとに、なぜ滅びていかなければならないのかが、鮮やかに描き出されています。仏陀の入滅後、56億7千万年を経て地上に降臨し、人々を救うはずの弥勒が、なぜ“悪しき独覚”と呼ばれるのか。真相を知った独覚たちの苦悩が印象に残ります。
2000.09.12再読了 |
化石の城 山田正紀 |
1976年発表 (二見書房サラ・ブックス・入手困難) |
[紹介] [感想] 前2作がストレートなSF作品であったのに対し、本書は国際謀略小説といった感じの作品で、長編3作目にしてすでに山田正紀の幅広さがうかがえます。ちなみにこの系列の作品としては、『火神を盗め』(傑作!)、『宿命の女』、『第四の敵』などが挙げられます。
さて本書は、いかにも山田正紀という展開、そして結末ですが、この予測される結末へ向けて暴走する登場人物たちの姿が非常に印象的です。SFから冒険小説、本格ミステリ、時代小説までもこなす器用さを持っている山田正紀ですが、その本質は青春の挫折と、かなうことのない虚しい希望がストレートに描かれたこの作品にこそ強く表れているのではないでしょうか。 2000.07.10読了 (ミステリ&SF感想vol.10より移動) |
氷河民族 山田正紀 | |
1976年発表 (角川文庫 緑446-2) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 現在はミステリの方により力を入れている、SF作家山田正紀の最初期の長編。
眠り続ける少女は、ほとんど冒頭にしか登場せず、全編を通じて、少女を取り巻く周囲の思惑に焦点が当てられています。少女を守ろうとする者、それと対立する者、そして少女に人生を狂わされた者……。これによって、逆に少女の神秘性が高められています。 その神秘的な少女の秘密はどのようなものなのか。作中で明らかにされるその秘密は、吸血鬼伝説の新解釈として非常に魅力的なものです。 バランスの悪い部分もありますが、不思議な魅力を持った作品です。 2000.03.17再読了 (ミステリ&SF感想vol.1より移動) |
襲撃のメロディ 山田正紀 |
1976年発表 (角川文庫 緑446-5・入手困難) |
[紹介と感想]
|
崑崙遊撃隊 山田正紀 |
1976年発表 (角川文庫 緑446-4) |
[紹介] [感想] 戦前の中国を舞台にした、秘境冒険小説です。それぞれに事情を抱えながら、崑崙を目指す男たち。特に主人公の藤村の動機は切実ですが、カットバックを多用することによって、これがさらに際立っています。また、旅の途中で出会うラマ僧による予言も非常に印象的です。そして最後に登場するSF設定は意表を突いたもので、後の『宝石泥棒』にも通じるものを感じさせます。崑崙に到着した後の場面をもっと描いてほしかったとも思いますが、この若干の物足りなさも含め、いかにも山田正紀らしい作品です。
2000.07.29再読了 (ミステリ&SF感想vol.12より移動) |
謀殺のチェス・ゲーム 山田正紀 |
1976年発表 (ハルキ文庫 や2-11) |
[紹介] [感想] PS-8をかけた男たちの戦いを描いた傑作です。
実行部隊である立花と佐伯の戦いも迫力がありますし、新戦略専門家たちと愛桜会との自衛隊内部の覇権争い、さらには不確定要素を増すために導入された、少年少女のやくざからの逃避行なども見逃せませんが、やはり何といっても宗像と藤野の頭脳戦が圧巻です。完全に先手を取られながらも、わずかなチャンスを見逃さずに逆転を狙う宗像と、予期せぬアクシデントに見舞われながら、懸命に打開策を探る藤野。二人がそれぞれに繰り出す指し手はいずれもハイレベルで、見ごたえがあります。特に初期の山田正紀における重要なキーワードである“ゲーム性”が色濃く表れた作品です。 2000.08.28再読了 (ミステリ&SF感想vol.14より移動) |
火神{アグニ}を盗め 山田正紀 | |
1977年発表 (文春文庫284-3) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 山田正紀流の“ミッション・インポシブル”。頭脳と肉体を駆使して困難な目標に挑む男たちというモチーフは、『贋作ゲーム』など、他の作品でも再三描かれていますが、この作品は特によくできています。
緊張感をはらんだ序盤からスリリングな終盤まで、息をもつかせぬ展開で読者を引き込みますが、最大の魅力は何といってもその痛快さでしょう。国際スパイ戦、そして堅固なアグニという、巨大すぎるターゲットに対して、潜入チームは一人を除いてごく普通の、というよりはむしろ無能なサラリーマンという、あまりにも心もとない状況ですが、ダメサラリーマンだったはずのメンバーたちがいつしかチームとしての結束を高め、難題を解決していく展開は、鮮やかというほかありません。 山田正紀の代表作であり、絶対に読んで損はない大傑作です。 2000.09.16再読了 |
神々の埋葬 山田正紀 |
1977年発表 (角川文庫 緑446-6・入手困難) |
[紹介] [感想] 『神狩り』、『弥勒戦争』に続く、〈“神”三部作〉の第三弾。この三部作の特徴として、神と対決する主人公の能力が次第に強大なものとなっている点が挙げられますが、そのためこの作品では、人間を超越した存在であるはずの神の強大さが、伝わりにくくなっている面があるように感じます。代わりに、この作品で描かれているのは神の悲哀です。ラストの“神”の凄惨な姿には、胸を打たれずにはいられません。超越者の孤独を見事に描ききった作品といえるでしょう。
また、脇役の充実も見逃せません。“翁”の秘書・西丸や、乃理子の元級友・後藤、さらには榊兄妹と直接関わることのないCMマン・笠原にいたるまで、実に印象的に描かれています。 2000.09.16再読了 |
地球・精神分析記録 エルド・アナリュシス 山田正紀 |
1977年発表 (徳間文庫210-1・入手困難) |
[紹介] [感想] 精神分析の手法になぞらえた、「徴候分析 悲哀――ルゲンシウス――」、「既往歴分析 憎悪――オディウス――」、「無意識分析 愛――アモール――」、「連想分析 狂気――インサヌス――」、「総合診断 激情――エモツィオーン――」と題された5編の物語からなる連作です。
冒頭では、集合的無意識の喪失と神話ロボット、そしてコンプレックスを克服するための“父殺し”と、比較的ストレートな設定ですが、モチーフは維持されたまま、世界が次第に変容していきます。 世界の変容に伴う不安感に加えて、モチーフの繰り返しによって特徴づけられる悪夢を見事に描いた傑作です。 2000.05.22再読了 (ミステリ&SF感想vol.6より移動) |
黄金の羊毛亭 > 山田正紀ガイド > 山田正紀作品感想vol.1 |