鏡の殺意/山田正紀
1987年発表 双葉文庫 や05-3(双葉社)
小島直巳が関谷実を殺した心理が今ひとつはっきりしませんが、これはこれで仕方ないのでしょうか。関谷実も小島直巳と同じような孤独を抱えていた(そして、実が死ぬ前の礼子はそうではなかった)というのはわかりますが、それが殺人につながるのはやや強引に感じられます。
これに対して関谷礼子は、夫の死が無意味なものであったことを否定するために発作的に殺人を犯しています。このような無意味よりも破滅を求める人物は山田正紀の作品に時おり登場していますが、その心理には理解できる部分がないでもないところです。
水島尚美が芝浦埠頭に立ち、夕暮れを眺めるラストシーンは、“殺意”のさらなる増殖を暗示しているようにも思えます。“殺意”の触媒となる宮内怜子はまだ生きている上に、水島の葬儀に姿を現したことが示唆されているのですから。合わせ鏡のような印象を残すラストです。
2000.10.03再読了