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人間競馬 悪魔のギャンブル/山田正紀

2010年発表 角川ホラー文庫 や4-1(角川書店)

 1枠の高界良三から4枠の伊那城リオまでの四人が前面に出されながら、最後にはノーマークだった高界の母親がすべてを持っていく結末には、少々アンフェア感が漂うのは否めませんが、母親が5枠として密かに“ゲートイン”していたということでしょう。そして最後にガーゴイルたちが「大穴」に歓喜していることから、誰に賭けたのか明示されていなかったカシモドが、その「大穴」に賭けていたのだと考えられます。

 実際、母親は高界良三のパートに顔を出しているだけでなく、蛭名克己と伊那城リオ、さらに未生敬之までが絡んだ老人ホームの事件の方にも登場しており、(放火事件を考え合わせるまでもなく)十分に“競走馬”の資格を備えているともいえます。そしてクライマックス直前に目撃された“リオの知っている誰か、しかし思いもよらない誰か”が、“この女は『大穴』だよ”(いずれも242頁)という言葉と結びつけられていることが、結末をそれなりに暗示する伏線になっているといえるでしょう。

 何より、伊那城リオでは「大穴」という表現にそぐわないのは確かで、意外なところから“勝ち馬”が登場してくることは示唆されているといっていいのではないでしょうか。

2010.07.27読了