ミステリ・オペラ/山田正紀
2001年発表 (早川書房)
この作品では、個別の事件のネタについて語ることはあまり意味がないでしょう。それほど見事な物語に仕上がっていると思います。
第七章の終盤、“わたしはひたすら書きつづけ、読みつづけて”
(484頁)という箇所に至って、萩原規子の視点で描かれた物語もメタレベルに移行することがわかります。つまり、『ミステリ・オペラ』という作品内の現実から、『宿命城殺人事件』へと取り込まれているのです。
したがって、萩原夫妻が亡くなったという“現実”を踏まえつつ、もう一つの“現実”をフィクションである『宿命城殺人事件』のラストに付け加えた黙忌一郎の行動も自然なものになっています。そして、善知鳥良一・朱月華と萩原夫妻が出会うその“現実”も、分岐した“平行世界”を収束させる見事なもので、長い年月を経て書き継がれてきた『宿命城殺人事件』の幕引きとしてふさわしいといえるでしょう。