SAKURA 六方面喪失課/山田正紀
2000年発表 トクマ・ノベルズ(徳間書店)
まずは「人形の身代金」までの個別の作品について。
- 「自転車泥棒」
- 二度にわたる自転車泥棒という真相は面白いと思いますが、自転車を探すためにわざわざ自転車駐車場に勤める必要はないのでは? 現金や宝石ごと盗まれたのであれば、泥棒もいつまでも同じ自転車を乗り回すことはしないでしょうし。
- 「ブルセラ刑事」
- 下着盗難事件の真相もなかなかユニークなものですが、ラストの“極子さん”の使い方には脱帽です(笑)。
- 「デリバリー・サービス」
- 詳細な地図を盗むために、宅配便の運転手やピザ屋の配達を襲ったという真相は、まずまずだと思います。しかし、後に明らかになりますが、相馬も連続放火犯でありながら人がいいというか……。
- 「夜も眠れない」
- 作中でも触れられているように、地下鉄千代田線北綾瀬~綾瀬間は一駅区間しかない奇妙な路線ですが、この条件をうまく生かしたトリックが使われています。通常の場合、発車してすぐに整備工場に停車してしまえば気がつくはずですが、もともと一駅区間しかない路線であるために、なかなか間違いに気づかないという状況に説得力があります。
- 「人形の身代金」
- “困難は分割せよ”を地でいくようなトリックです。“ヘンゼルとグレーテル”という手がかりもまずまずです。ラストの磯貝の呟きが印象的です。
解決済み | 未解決・「消えた町」への伏線 | |
---|---|---|
「自転車泥棒」 | ・強盗殺人事件 | ・回収自転車盗難事件 ・連続放火事件 |
「ブルセラ刑事」 | ・下着盗難事件 | ・ワイルドセブンのユキ |
「デリバリー・サービス」 | ・スクーター盗難事件 ・誘拐事件 |
・宅配便ワゴン車盗難事件 ・宅配便運転手消失事件 ・広帯域受信機 |
「夜も眠れない」 | ・地上げ屋殺人事件 | ・北綾瀬に放置された自転車 ・ワイルドセブンのヘボピー |
「人形の身代金」 | ・少女消失事件 | ・偽装自殺事件 |
こうしてみると本筋と関係ない事件も結構ありますが、このあたりは綾瀬で犯罪件数が急増していると再三書かれているのが伏線になっているともいえるでしょう。なお、“連続放火事件”と“広帯域受信機”は、最終的に年代の火炎瓶につながります。また、“偽装自殺事件”はSAKURAの登場に便乗したものです。
最後の真相に直接つながるのが、“回収自転車盗難事件”・“宅配便ワゴン車盗難事件”・“宅配便運転手消失事件”・“北綾瀬に放置された自転車”という、自転車絡みのもので、回収された放置自転車の置き場を空けておくためという奇妙なものです。そしてその背後にSAKURAの目的が隠されていたわけです。
そして、その最後の真相は、1990年という特殊な時代をうまく生かしたものです。狂乱のバブルの時代、その負の遺産が露呈している現在だからこそ、この真相により重みが出ているのではないでしょうか。
2000.07.25読了