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神獣聖戦III 鯨夢! 鯨夢!/山田正紀

1986年発表 トクマノベルズ(徳間書店)
「落日の恋人」
 ラストで、レフ・アルバキンを“D”として復活させているのが気になります。「だれでもない」というアルバキンの台詞も唐突ですし、移植で髪の色が変わったというのには無理があるので、おそらく当初からの設定ではないでしょう。作者もアルバキンに愛着がわいたのでしょうか。

「蝗身(いなご)重く横たわる」
 「時間牢に繋がれて」では多少なりとも“千年戦争”に干渉する力を持っていた中立機関も、ここではすっかり役割を変えてしまい、「滅びていく人類のために正確な歴史を残す」力しか残っていません。このあたりにも、“千年戦争”に対する人類の無力さが表れています。そして、架空の歴史を作りだしてしまった惑星シジフォスの住人たちの哀れさも印象に残ります。

「鯨夢! 鯨夢!」
 「硫黄の底」でみられた変化の予兆が結実したのがこの作品です。ここでは、現実、背面世界、そして虚空間が混沌としています。残されるのは、“大いなる疲労の告知者”のみです。

「神獣聖戦13」
 「落日の恋人」のラストで、おそらく死んでしまったと思われる規子。その彼女が、人類滅亡の空しさに耐えきれず殺人を妄想するというのでは、大きな矛盾が生じてしまいます(時空をさまようことになった真理であればまた話は違いますが)。
 しかしそれよりも、メタフィクション化されることで、“未来史”としてスタートした“神獣聖戦”の物語がただ一人の脳内に押し込められてしまい、結果としてスケールダウンしてしまったような印象を受けてしまうのが難点。もちろん、“人類滅亡の妄想”と“殺人の妄想”の間のジレンマというテーマは重いものですが、それでもやはり残念です。
2000.06.01再読了