天動説/山田正紀
1988~1989年発表 カドカワノベルズ86-3,4(角川書店)/『天動説(全)』(戎光祥出版)
2015.03.26 『天動説(全)』読了 (2015.04.25改稿)
主人公・小森鉄太郎と“さたん”の戦いは「蝦夷トランシルヴァニア」で決着し、普通であればそこで物語が終わってもおかしくないところですが、その後に最終話「旅順招魂祭」が用意されていることで、より印象深いものになっています。鉄太郎らの“その後”が示されているのもさることながら、玉子屋仙三の再登場と、堅太郎を鉄太郎に重ねながら――鉄太郎との再会を果たしたかのように、心安らかに死んでいくその姿が胸を打ちます。
一方、鉄太郎が倒したはずの“さたん”――ヴァンパイヤが復活を遂げていることで、再びヴァンパイヤを倒した堅太郎の胸に疑念が残り、『天動説』という題名に絡めた“それでもヴァンパイヤは生きている”
という、鮮烈な印象を残す一言につながっているのが秀逸。そしてそれでもなお、強大なヴァンパイヤに対して果敢に戦いを挑む人々の登場を“予言”し、山田正紀らしいテーマを改めて強調してあるのが実に見事です。
2015.03.26 『天動説(全)』読了 (2015.04.25改稿)