未来獣ヴァイブ/山田正紀
2005年発表 ソノラマノベルス(朝日ソノラマ)
作中の年代が“その年”ではなく前年であるために気づきませんでしたが、ヴァイブが出現し、ソ連に向かった理由は非常によくできていると思います。「あとがき」を読むと、『機械獣ヴァイブ』の時には単に、ヴァイブに対して核兵器が使われるという状況を生み出すためにソ連へ移動させることになったようにも解されますが、本書を読んでしまうとこれ以外の結末は考えにくいものがあります。
現実には起こってしまったこの事故がヴァイブによって止められたことで、ラストは一体どんな風になるのかと思っていたのですが、エピローグではそもそもパラレルワールド――「ゴジラ」も「ガメラ」も生み出されていない世界――の物語であったことが明らかになり、驚かされました。
ただし――これは重箱の隅を突つくようなものですが――パラレルワールドの物語であるとすれば、“唯一の核被爆国である日本人としては”
(655頁)という記述には釈然としないものが残ります。ヴァイブも、ソ連まで事故を止めに行くくらいならば、もっと近くの長崎や、すぐ隣の広島を何とかすべきだと思うのですが……。パラレルワールドなら、このあたりの処理もうまくできたはずですし。