十三角関係〈名探偵篇〉／山田風太郎

　一部の作品のみ。

「チンプン館の殺人」

　チンプン館の特殊な構造を生かしたトリックは非常に面白いのですが、わかりやすすぎるところが残念です。しかし、それを実行するための、被害者を所定の位置に立たせる手段はよくできていると思います。

「お女郎村」

　復讐を企む母親の一枚上手を行ったはずの弦一郎の計画が、予期せぬ皮肉な結果を生んでしまったのは何ともいえません。また、風変わりな凶器も印象的です。

「怪盗七面相」

　“怪盗対名探偵”という構図が、いつの間にか花嫁探しに変わってしまうところがユニークです。

「落日殺人事件」

　メインのトリックが「抱擁殺人」とほぼ同じなのが気になりますが、動機は非常によくできています。妻が貞操を失っていたことではなく、その事実を告げなかったことが事件の引き金になったというのも印象的ですし、罪を逃れるのではなく息子たちの結婚を妨げないためにトリックを弄した犯人の心情が、何ともいえない余韻を残します。

「帰去来殺人事件」

　吉之助が残した“ちんば”（←これはやはりこの言葉でなければなりません）という言葉で荊木歓喜に疑惑を向けておき、それを一旦ひっくり返して読者を安心（？）させた上で、康弘の方を歓喜が殺していたという真相に着地させるプロットがお見事。「厨子家の悪霊」（『眼中の悪魔〈本格篇〉』収録）ほど何度もどんでん返しが繰り返されているわけではありませんが、その破壊力は抜群です。
　また、二つの時計による大胆なアリバイトリックもよくできています。

『十三角関係』

　訪問者の多さと時間的余裕のなさから、死体の解体が複数の人物によるものだという可能性は頭に浮かんだのですが、そこから先はまったくこちらの予想を超えていました。
　ほぼすべての登場人物が絡み合った複雑な構図は見事というほかありません。そして、その構図とはまったく関係ないように見えながら、中心に位置していた伴夫人。その、何とも形容しようのない動機が秀逸です。