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ヴァンパイアの塔/J.D.カー

The Dead Sleep Lightly/J.D.Carr

1983年発表 大村美根子・高見 浩・深町眞理子訳 創元推理文庫118-25(東京創元社)
「暗黒の一瞬」
 暗闇であるがゆえに可能な犯行時刻の錯誤によって、お互いが手を握っていたというアリバイを成立させたトリックはよくできていると思います。また、水ゴムを埃に見せかけるための“転んで手に埃がついた”という言い訳、そしてそれにもかかわらず相手の手に埃がつかなかったという手がかりも見事です。
 ただ、残念ながらラストが納得いきません。フランシス卿はライヴン殺しの証拠(手についた水ゴム)を隠滅するため、手を洗いに行っています。そうなるとライヴン殺しは解決できないので、世間の風評ではおそらくライヴンが霊に殺されたということになると思うのですが、これはフランシス卿の本意ではないはずです。フェル博士は“あなたがたしかに奥さんを殺したのなら、死刑にされても仕方あるまい。ただし、今夜のこの一件で被告席に立たなければならんいわれはない”と述べていますが、むしろライヴン殺しで被告となる方がいいように思えるのですが。

「悪魔の使徒」
 犬の毒殺や軟膏の壷といった手がかりがよくできていると思います。ラストの狂気に満ちた笑い声はなかなかインパクトがあります。

「プールのなかの竜」
 トリックは短編(以下伏せ字)(『不可能犯罪捜査課』収録の「目に見えぬ凶器」)(ここまで)で使用されたものですが、この作品で何といっても“目には目を”という形でそのトリックを使ったラストシーンの凄絶さが光っています。

「死者の眠りは浅い」
 “無線技師”という伏線はいいと思うのですが、ペンドルトンが電話をかけなかった場合には実行が難しいように思えます。フェル博士は“その番号から彼にかかったように事を運べばよろしい”と述べていますが、遠隔操作で電話を鳴らすことができるでしょうか。

「死の四方位」
 題名の“四方位”以外に盲点があったというところが印象的です。

「ヴァンパイアの塔」
 詐欺師の嘘は確かに“芸術的”です。

「悪魔の原稿」
 ラスト直前までは超自然的な物語としか思えないのですが、わずか十行ほどでそれをひっくり返す手腕は見事です。原稿と手紙に仕掛けられたトリック、特に“約束は十二時よりもあとなのだ”という一文が非常に効果的です。

「白虎の通路」
 “M.D”という手がかりに対して、同じ頭文字の人物が多数登場してきて、さて誰が犯人かなと思っていたのですが、予想外の真相はお見事です。ただ、犯人を絞り込むことができないのはやや残念です。

「亡者の家」
 部屋と廊下の位置関係があまりにもさりげなく書かれているため、解決が鮮やかさを欠いているのが残念です。気取りすぎなロッシ警視長も今ひとつです。

「刑事の休日」
 クリスマスならではの作品ですが、真相は今ひとつ物足りません。“ショーティー”という伏線はまずまずですが、もっと早く気づくのではないかとも思えますし。
 なお、“電話ボックスからの消失”という謎については、クレイトン・ロースン(「天外消失」『天外消失』収録)を参照)と話し合った後もずっと考え続けていたのでしょう。
2000.01.19読了
2002.02.22再読了 (2002.02.28改稿)