2001年4月29日(日)、東京都港区赤坂のカナダ大使館にて開催された、SFセミナー特別篇「カナダSFの世界」に参加してきました。内容は「カナダSFの現在」、「ジュディス・メリルという人がいた」、そして「ロバート・J・ソウヤー インタビュー」というもので、いずれも興味深いプログラムでした。せっかくですので、ここできわめて個人的なレポートを書いてみようと思います。
なお、インタビューを含めプログラムの詳細な内容をお知りになりたい方は、安田ママさん(「銀河通信オンライン」)のレポートをご覧下さい。
また、ソウヤー本人の日記(2001年4月30日)にもかなり詳しく書かれています。
当日は小雨模様の中、営団地下鉄青山一丁目駅で下車。妻と共にカナダ大使館へ向かいました。カナダ大使館を訪れるのはこれが3度目。別に仕事でも何でもなく、ただぶらりと訪ねてみただけですが。カナダ大使館はかなりオープンで、一般人でも建物の中には気軽に入ることができます。内装も非常にきれいで、ちょっとしたギャラリーなどもあり、なかなかいい雰囲気です。
会場となる地下二階のホール(さすがにこんな所まで入ったことはありません)には、すでにたくさんの方々がいらっしゃいました。空席を探して、中央後ろの方へ。腰を落ち着けて舞台を眺めてみると、『ゴールデン・フリース』から『フラッシュフォワード』まで、翻訳されたソウヤー作品のカバーが大きなパネルにして飾ってありました。復刊される『占星師アフサンの遠見鏡』は、すでに小菅久美さんによる新装版のイラストになっていました。
開会の挨拶の後、まずは「カナダSFの現在」。A・E・ヴァン・ヴォークトやウィリアム・ギブスンがカナダ在住だったというのは意外でした。また、注目作家の一人として挙げられたカール・シュローダーの作品(合作)『The Claus Effect』(未訳)はぜひ読んでみたいところです。“身長8メートルの邪悪なサンタクロース”という設定には場内大爆笑でした。
次は「ジュディス・メリルという人がいた」でしたが、ほとんど予備知識がなかったのが残念です。彼女と交流のあった方々が様々なエピソードを紹介してくれるという企画で、もう少し知識があればさらに楽しむことができたのだと思いますが。
そしていよいよ「ロバート・J・ソウヤー インタビュー」。インタビュアーは野田令子さん(「のだなのだ」→残念ながらリンク切れです)で、次々と繰り出される的確な質問に、インタビューはすばらしいものとなりました。その中で、特に印象に残っている話題をいくつか。
- ・SFとの出会い
- まず、子供の頃に「スタートレック」や映画「2001年宇宙の旅」を見ていたそうです。本の方はアイザック・アシモフから入ったそうで、そのせいか、シンプルな文体がアシモフに似ていると評されることもあるそうです。
- 私はたまたまアシモフ『われはロボット』の原書を持っているのですが、確かにシンプルでわかりやすいところは共通しているかもしれません。実際、私がソウヤー作品を原書で読むときに辞書を引いたことはほとんどありませんし、非常に読みやすく感じられます。
- ・ミステリについて
- 意外なことに、以前はそれほど読んでいなかったそうです。むしろ最近、仕事柄SFの本を純粋に楽しむことが難しくなったので、楽しむための本としてミステリを選んでいるそうです。ジョン・グリシャムやスコット・トゥローの名前が挙げられていました。
- このあたりはなかなか意外でした。私は『ゴールデン・フリース』をSFミステリの大傑作と考えています(これについてはまた改めて文章を書こうと思っています)し、ミステリネタの取り込み方がうまい作家だと感じているので、昔からミステリもSFと同じくらい読んでいたのではないかと思っていたのですが。好きなSF作家としてジェイムズ・P・ホーガンの名前も挙げられていたので、『星を継ぐもの』の影響などもあるのかもしれません。
- ・異星人について
- 異星人の存在については現在は悲観的で、存在したとしてもコミュニケーションは非常に困難だと考えているそうです。また、自作に登場する異星人の中でお気に入りはイブ族やダーマット族(『スタープレックス』)で、自作以外ではラリイ・ニーヴンの創造した異星人やスタニスワフ・レムの『ソラリスの陽のもとに』が気に入っているようです。
- このあたりのやりとりでは、現実とフィクション(あるいは願望)をはっきりと分けて扱う冷静さが感じられました。また、コミュニケーションの困難性を認識しつつ、それゆえにその意義や面白さを重視するという姿勢も印象的です。このインタビュー自体や後のレセプションでも、他者とコミュニケートしようとする熱意が伝わってきました。ソウヤー作品では“ファースト・コンタクト”を扱っているものが多いのですが、それも自身がコミュニケーションに重きを置いている表れなのでしょう。
- ・神について
- これは会場からの質問でした。神の存在についてはどちらかといえば懐疑的であるような印象を受けましたが、いずれにしても、神が存在するか否かについては冷静に検証していかなければならないのではないかということでした。(←この項については記憶違いの可能性もあるので、上記の安田ママさんの詳細なレポートを待ちたいと思います)
- これは人によってはかなり微妙な質問なのではないかと思いますが、非常に真摯な回答でした。最新作『Calculating God』が神の存在をテーマとしていることもあっての質問だったのでしょうか。
ユーモアも交えながら、会場からの質問にも熱心に答えていたソウヤーさん。その人柄がよく表れたインタビューだったと思います。ライターとして活躍しながらも、「本当にやりたいことをやる」ために思い切ってSFの道に入ったという情熱、真剣さ、ファンを大事にする姿勢、そしてバランスのとれた冷静な思考が印象的です。実は私の妻はまったくSFを読んだことがなかったのですが(ソウヤー作品については私が常日頃熱く語って(笑)いるので、その内容はだいたい把握しています)、このインタビューですっかりソウヤーファンになってしまいました。
さて、インタビュー終了後にはレセプションが行われたのですが、実はこの日はソウヤーさんの誕生日。ということで、サプライズパーティーが企画されていました。ご自身もソウヤー作品のファンというカナダ大使が、これまたユーモアたっぷりの開会の挨拶を述べられた後、続いてスピーチをしようと演台に立ったソウヤーさんに向けて、突然のクラッカー攻撃。そして特注の恐竜型バースデー・ケーキが運び込まれ、みんなで「♪Happy birthday to you 〜」と合唱。ソウヤーさんは大変喜んで、「先ほどとは意見を変えます。このようなことがあるなら、やはり神は存在するに違いない」(大意)とおっしゃってました。
挨拶の後、歓談となっても引っ張り凧のソウヤーさんでしたが、私も勇気を奮って声をかけてみました。原書の注文をきっかけに何度かメールのやりとりをしたことがあり、名乗っただけで思い出してもらえたのには感激。握手をしてもらった上、肩を組んで写真を撮らせてもらいました。読むのはともかくとして英語を話すのはもともと苦手な上に、すっかり舞い上がってしまい、ほとんど何も喋れなかったのが非常に残念です。
感激の余韻に包まれたまま、私たち夫婦は会場を後にしました。せっかく本を持っていったのにサインしてもらうのを忘れた、というオチもついてしまいましたが、それでも大満足の一日でした。カナダ大使館及びSFセミナースタッフの方々に、心から感謝いたします。
2001.05.01 by SAKATAM