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実のところ、今何をしてぇのか、するべきか、俺にゃぁさっぱり判らねぇ。 ただ、じっとして待ってるのが性に合わねぇだけだ。…だから、お節介だって言われんだろうけどよ。 子供(ガキ)の頃は、親父やエルが屋敷に戻ってくるのを待ってばっかりだった。 いつの間にか大人になって、親父もエルももう帰って来ないと知って、どんなに待っても…………ハルは…俺を「嫌い」だとさえ言ってくれないと知って、俺は待つ事をやめた。 一つ違いの弟。 ミラキの家を潰しても、俺はあいつのためになんでもしてやろうと思った。 …結局、ミナミに「違う」って言われた気がすっけどな。 ウォルの口癖を思い出す。「他人を傷付けないで、自分が幸せになれるなんて思うな」。だがな。ミナミはそんな事ぁ一回も言わねぇけどよ、「自分が幸せになりたいなら、他人のささやかな幸せを護って見せろ」って…そう言いたいんじゃねぇんだろうか。 俺は思う。勝手にだけどよ。 ミナミはハルヴァイトから逃げだ出したかったんじゃねぇ。 ハルヴァイトから逃げられねぇって、思い知りてぇだけなんだよ。 そう思う事にする。 ま、難しいマジ話抜きにすんならよ、昨日ミナミがハルのために焼いたケーキは、本当に美味かった。今度はマーリィも呼んで、庭園に天幕でも張って、満開の蘭の花でも眺めながらお茶なんていいかもな。 その程度だろ? なぁ、ハル……。 |
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(14)ドレイク・ミラキ | |||
第七小隊の執務室にドレイクが飛び込んだ時、ハルヴァイトはソファの上に寝転がり、顔の前に腕を翳して天井を睨んでいた。 そのソファの回りには、緋色のマント、深緑色の長上着、黒革ベルトと白手袋が散乱している。 ドレイクが、それらを灰色の瞳で見回す。 それから、ゆっくりソファに近付きながら言葉を選び、急にばかばかしくなって、溜め息と一緒に今思い浮べた台詞を全部忘れた。 「……何やってんだ、おめーは」 「……」 言われて、ハルヴァイトが鉛色の瞳でドレイクを睨む。 「なんでここに居んだ、おめーはよ! 間違ってんだろ? どうして何もしてねぇんだよ、なんでここで黙ってんだよ! ミナミにどこにも行って欲しくねぇってのは、嘘なのか? ええ?! 確かに、おめーはそうだった、昔はな。肝心な事にもそうでねぇ事にも、自分にだって関心なくてよ、何考えてんのかさっぱり判らねぇし、第一、そんな…俺たちが理解出来る事考えてんのかどうかも判らなかったしな! でも、何も言わねぇから、「嘘」だって無かっただろう! それなのに、何か? 今更あれは嘘でしたとか、勘違いでしたとか、そういう風に言うつもりか? そうなのか?! やっとミナミがおめーんトコ来て、正直、俺ぁ喜んだよ。どうあっても…好きでも嫌いでもねぇ、みてぇな位置にいる俺はよ、どんなにがんばってもおめーが何を考えてんのか判らねぇままなんだってずっと思っててな、でも、おめーが「好きだ」つうミナミなら、俺たちじゃ判らねぇ事も判ってやれるんだろうって、そう思ったさ! なのに、オチはこれか? これでお終いか? 勝手な事して勝手に出てくミナミ見送って、そんで終わりか! 結局お前は、ちょっとばかり口が達者になったって少しも変わっちゃいねぇままなのか!」 低いテーブルを挟んでハルヴァイトを睨み返したドレイクが言い終えるのと同時に、やっとアリスたちが執務室に飛び込んで来た。 それでようやく起き上がってソファに座り直したハルヴァイトが、ドレイクからアリス、デリラ、アン少年とイルシュ少年、勢い着いてきてしまったのだろうスーシェを順番に見遣り、鋼色の髪を掻きあげて、面倒そうに、いかにもどうでもいいように、短く溜め息を吐く。 「ちょっと待って、ハル」 で、当然、アリスがそれに食って掛かる。 「今の、何?」 赤い眉をつり上げ亜麻色の瞳で鉛色の瞳を覗き込み、彼女は黙り込んだ。 もしかして、スラムから連れて来られたハルヴァイトが警備軍に入ったばかりの頃を知る者ならば、それは馴染みの反応だったかもしれない。昔。まだハルヴァイトがドレイクと兄弟だと知られる前、彼はいつもこんな風に何も言わず、面倒そうに、どうでもいいように、冷え切った鉛色の眼で世界を見回し、大抵、関係なさそうな顔で溜め息を吐いたものだ。 その時は、それでよかったのかもしれない。いいや。よくなかったが、周囲の誰も、本当はハルヴァイトにどう接していいのか、どうして欲しいのか判らなかっただけだ。 でも、今日は違うわ。と、アリスは赤く塗った唇を引き結び、ハルヴァイトから目を逸らさずに口を開いた。 少し待って。 ハルヴァイトが、まったくなんの反応も見せなかったから。 「あたしたちはいいわ…。それでも。君が「実はお前達とは関係ない」って顔で溜め息吐こうがなんだろうが、いいわよ。 …誰も何も言わないし、言っていい事でもないから黙ってたんでしょうけど、あたしは言うわ。君ね、この期に及んで、よ? ミナミをそんな風に片付けていいの? 君、ミナミが来てから一年で、間違いなく良い方に変わったのよ。いろんな事もあったし、今日だって…まだいろいろあるんでしょうけど、他人と本気で関わるくらいならひとりの方がいいって顔、しなくなったじゃない。それだけで十分過ぎるくらいじゃないの。 今日この時までに、何人が何をしたと思う? 警備の魔導師隊も、一般警備部も、みんな、ミナミが来る前の君に戻って欲しく無いから、軍規違反で呼び出されようがなんだろうが、後先考えないで出来ると思う事をやったわ。 みんな、君が思うほど君と無関係だなんて少しも思ってないのよ! なのに、君は何もしないの? あたしたちは君に、議会に行って欲しかっただけじゃない。ミナミを迎えに行って欲しかったのよ。みんな、…本当の事を判っていようがいまいが、君とミナミにはこれ以上傷付いて欲しくないって思ったのよ! それなのに君は!」 言い募るアリスの顔を見上げていたハルヴァイトが、また、短く溜め息を吐く…。 「「ハルヴァイト!」」 「黙れ」 今にも掴み掛からんばかりの勢いで、アリスが、ドレイクが怒声を張り上げた途端、ハルヴァイトは……あまりにも静かにそう呟き、もう一度……今度は何か諦めたように、がっくりと肩を落して溜め息を吐いたではないか。 「だから…、わたしは「困って」るんですよ」 は? と、その場に居合わせた誰もが、顔を見合わせる。 「だから、どうしてあなたたちがそんなに怒ってるんですか? もしかしたら、今日ここで怒っていいのはわたしじゃないんですか? なのにですね、今朝から訳の判らない事ばかり起こって、それでなんとか自分と折り合いを付けて、ウインを「殺さない」方法を考えて、やっと何かしようという所で、………………お節介な部下だとか上官だとかが勝手に騒ぎを大きくしてしまって、わたしは…本当に、困ってるんですよ」 困っている、という言い方に、ドレイクたちも、困った。 いや、その程度か? と…思ったのか? 「わたしもこの一年で学習しましたよ。どうしてこうあなたたちはお節介なんでしょうね、ドレイクだけでも十分過ぎるくらいなのに…」 溜め息混じりそう吐き出してから、ハルヴァイトはソファにきちんと座り直した。 「本当に、意志の疎通、というのがどれほど大切なのか身を持って実感しました、わたしは。 ですから、はっきり言いますよ? たかがこれしきの事で城まで巻き込み、ここまで騒ぎが大きくなってしまって、正直わたしはどうしていいのか判らないくらいです」 で。 じろりと鉛色の瞳で室内を見回し、腕を組む。 「……たかがこれしきって……そりゃおめー…」 「あなたたち、というか、城中、というか、ミナミを含めたファイラン王都民全部、わたしを舐めてるんですか?」 というか、舐めてないから………騒ぎが起こったのでは? と、さすがにアン少年も言えなかった。 「ミナミとウインの関係が「判らなかった」のは認めます。ですから、議会中継を見て、殺してやろうとは思いませんでしたが、殴ってやろうくらいは思いましたよ。その程度なら許されるでしょうしね」 「待って! ちょっとハル…、じゃぁ君、アドオル・ウインが何か噛んでるって、知ってたの?!」 「だから、わたしを舐めてるのか、と訊いてるんですよ、まったく。 いくらわたしが周囲に関心なさそうに見えてもですね、まさかあれから十年以上経ってるんですよ? 多少は、世の中ってこういうものなのか、とも思いますし、その世の中で暮らそうというんですから、ルールと常識の端っこくらいは弁えてるつもりです」 「……いや、今の対応を見る限り、それもどうかと思うんスけどね…」 思わず突っ込んでしまったデリラが、ハルヴァイトに睨まれた。 「判ってるから困ってるんです。 結局、どこから説明すれば気が済みます? ウインが0エリア爆破事件の首謀者らしい事は、事件の…最中から判ってましたよ」 「てか待て! じゃぁ、なんで黙ってた!」 「地位も名声もあるウインが、どうしてそんな事件を起こそうと思ったのか判らなかったからですよ。陛下の失脚を狙っているのか、わたしが目障りなのか、とにかく、勘ぐれば思い当たりそうな理由があり過ぎて、だから少し様子を見ようと思ったんです」 「…しょうたいちょーにしつもんがありまーす」 はーい。といつもの調子で挙手したアンが、イルシュの手を引いておどおどとソファに近寄って来る。それに顔を向け、「どうぞ」と短く言ったハルヴァイトの顔つきにちょっと怯みつつも、アンは小声で質問した。 「えと……。そもそもなんで、ウインが爆破事件の首謀者だって解ったんですか?」 「隔壁防御システムへの侵入跡です。 あれを調べている間に何度も拾った残留プログラムというのがあって、その構造が、攻撃系魔導師の物だったんですよ。 だから、単純に、臨界の方でプログラムの滓からアカウントを割り出して、占有者を洗い出し、そこで…それが魔導師隊に所属していない…ファイランの市民登録も無い、つまり、違法魔導師なのを突き止めたんです」 というか…。 「そういう事って、誰でも出来るんですか?」 「出来ませんよ。これは100%わたしの特権です。いや……制御系サイドなら、エスト卿しか出来ませんけどね」 という事は…。 「……………ファイラン階層の攻撃系システムは、ガリューなの?」 スーシェが呟く。 「どこに、わたしの臨界面を監視出来るような電速の魔導師がいます? 制御系と違って、攻撃系システムに要求されるのは「器用さ」ではなく「速度」です。めまぐるしく変わる命令の発信と受諾を漏らさず監視し、都合が悪ければ干渉するんですよ? わたしより電速遅い魔導師では、わたしを監視し切れないでしょう」 「知らないわよ…そんな事…」 呆れたように呟く、アリス。いや。ハルヴァイトが最強である事は、嫌というほど知っているが。 「確かに、始終臨界に注意している訳ではありませんが、意図的にログを確認する事は簡単に出来ます。過去数千時間分のログが残ってますから、時間さえ経ち過ぎていなければ、違法だろうがなんだろうが、臨界にアクセスした痕跡は確認出来るんです」 「あの…、…じゃぁ……」 ふと、イルシュが眉を寄せハルヴァイトを見た。 「ウインが数名の違法魔導師…しかも、後天的に臨界アクセス能力を持たせた魔導師を「私有」していると勘付いたのは、イルシュのアクセス方式がわたしたちとは変わっていたからです。普通魔導師は臨界面に占有した領域にのみアクセスしますが、後天的に能力付加された魔導師は、つまり…なんて言ったら判りやすいんでしょうね…、占有面と占有面の隙間にある「自由電素」を使う特殊な方式で臨界にアクセスして来るんですよ」 「………………さっぱり判らないわ…」 「いいですよ、判らなくても」 あああ、もう面倒! とでも言いたげにソファに埋まり、ハルヴァイトは鋼色の髪をがしがし掻き回した。 「爆破事件とnoise事件が連続すれば、わたしだっておかしいと思いますよ。しかも、爆破事件の直後にミナミは衛視になんかなるし。 はっきり言ってですね、今日の議会よりも、ミナミが衛視の制服を着てここに来た時の方が余程驚いたくらいです。当然、わたしだってそう馬鹿じゃないですから、それで済む訳がないと覚悟しましたしね。 ……まさか、陛下と組んでこんな大袈裟な騒ぎを起こすとは、思いませんでしたけど」 なんだか。 ドレイクもアリスも、その場にいる全員が、笑いたい気になって来た。 何せハルヴァイトときたら、怒っている、といようりも、まるっきり拗ねているようにしか見えなかったのだ。 「? ところでよ、ハル。おめーさっきから「大袈裟な騒ぎ」つうけどな、ミナミにしちゃぁ、これは…」 重大な告白だったろうに。 「…今更何を言っても始らないので白状しますが、わたしはつまり、ドレイクやアリスが思ってる以上にミナミに甘いんですよ…」 真顔で言われると妙な台詞だ。と…アン少年は内心こっそり突っ込んだ。 「だから、何もしないでここに居てくれていい、んじゃなく、今まで何があってこれから何をしでかそうがなんだろうが構わないからここに居て下さい、というのが…正解なんです。 今日の騒ぎだって、朝一番でレジーが来なければ「ああそうですか」くらいで済んだし、黙って拘束されたのだって、議会中継の始めに陛下がウインの罪状を述べ、それでミナミがなぜわたしを閉じこめたのかおおよそ見当が付いたからですし、これで…まさか部下が暴れてスゥまで出て来てギイルが余計な事をしてイルシュまで入って大隊長とエスト卿に本気で食ってかかろうなんてしなければ、わたしは今でも黙って拘置棟に居ましたよ」 「……いや、でもよ…」 「だから! 言ったでしょう? わたしは「そうしろ」と言われたから大人しくしていようと思って、とりあえず騒ぎが収まったらちょっとミナミを叱ってやろうか、くらいしか考えてなかったんです! 始めから!」 ドン! と…ついに何か外れた(…)ハルヴァイトがテーブルを握り拳で叩いた途端、天井付近で真白い荷電粒子が…爆裂した。 「てかちょっと待て! …今日はこればっかだな、俺ぁ…。つうか、おめー! レジーの口振りじゃミナミは相当な覚悟でお前を拘束させて議事堂に行ったんだぞ! それなのに、おめーは「ちょっと後で叱ってやろう☆」って、そりゃぁおかしかねぇか!」 悲鳴を上げそうな顔で白髪を抱え込んだドレイクが叫び、その他一同が唖然とする中、ハルヴァイトが「何が!」と怒鳴り返す。 「何がって、全部だ!」 「ではいつわたしが、誰も許さない、なんて言ったんです!」 「言ってねぇよ!」 「じゃぁ、おかしくもなんともないじゃないですか。わたしはミナミのする事を停めようなんて、今まで一度もしなかったんですからね。今回だって、それと一緒ですよ? 事が事だけにミナミが悩んだのも判りますが、それこそ勝手に悩んで勝手に……!」 で。 いきなりハルヴァイトは、世界の終わり、みたいな顔で蒼くなった。 「あー。…………折角忘れてたのに、思い出してしまったじゃないですか…。ドレイクのばか…」 「てか! 何だよ!」 「朝から不愉快…というか、わたしはね、朝一番から前代未聞レベルで傷付いてるんですよ! まったく。 そうだった! 他の事はなんでも許せますが、あれだけは…ミナミに問い詰めてやらないと気が済まないんだった!」 …そんな大事を、忘れないで欲しい。 「あーのー。しょうたいちょーにしつもーん」 はーい。と、これまたアン少年、挙手。 「なんだ!」 勢い睨まれて思わずイルシュに抱き着くも、アンは果敢に質問を繰り出した。 「う…、あ…。あの、小隊長は…どうしてぼくらが外で騒ぎを起こしてるって…知ってるんですか?」 「わたしを舐めてるのか? とさっきから何度も言ってるだろう! 城内の通常通信なんて、昼寝のついでに傍受出来る!」 みーーー。と半泣きながら、惚けた大人たちに比べて少年は立派だったろう。何せ、気になる事を、この状況で、ハルヴァイトに説明させたのだから。 「うっうっ…。でも、小隊長防電室にいたじゃないですかぁ」 「防電機構が切ってあって鍵もかかってなければ、あんなものただの拘置室より普通の小部屋以下だ!」 それでまた、その場の全員が唖然とする。 「なんだよ…そりゃぁ…………」 力なく吐き出したドレイクをキッと睨んでから、ハルヴァイトが立ち上がった。 「だから、仕方が無いから、わたしは拘置棟から出て議事堂に行ったんです! どいつもこいつも勝手に騒ぎを大きくしてわたしを引っ張り出し何をさせたいのかさっぱり判らないし、ウインはウインで自分勝手な事を言うし、当然目の前に行ったら殴るくらいじゃ気が済みそうにないから、とこっちは冷静なのに、回りが騒がしくてわたしの努力も水の泡だ!」 だからといって、ディスクに焼き付ける事はないだろう。と、さすがのスーシェも思った。 というか。 「……ズレてる」 大外れ。 「あいや…。ミナミさんに対して、大甘、じゃねぇのかね」 「スイートですね…」 「…ハルがここまで非常識に寛容な人間だなんて、知らなかったわ…」 呆れた。 「そうよ! あたしは呆れたわよ、ハル! というか、君…もしかして今やっと「怒るべき」って思ったの?」 「ようやく失意から立ち直ったといってください!」 「つか、遅っ!」 そう言った途端、なぜか、ドレイクの身体が…壁まで吹っ飛んだ。 懐かしいほど力任せに殴られた、とドレイクが思ったのは、引っくり返った天地に目眩を起こし、それが消えて、今度は顎ががくがくするほどの痛みを感じてからだった。それでなんとなく、やっとハルヴァイトが「普通に」腹を立てているのだと判って、可笑しくなって、笑いを堪えて壁に凭れ身を起こすと、ハルヴァイトはあの鉛色の瞳に…判り易い感情を浮かべ、じっとドレイクを睨んでいた。 「…レジーが現われて、今度は一体何が起こるのかと身構える隙もなく、泣きそうな顔で「さよなら」なんて言われてみろ。落着いて何か考えるよりも先に、心臓が停まって死ぬかと思った」 そう吐き捨ててからハルヴァイトはドレイクに背を向け、ドア付近に佇むデリラやアリスを躱し廊下に飛び出した。 「…………という事はよ? ハルったらもしかして、朝からずっと…そればっかり気になってたって…そういう意味?」 アリスの笑いを含んだ呟きに、誰も答えようとはしない。しかしどの顔もにやにやと緩み切り、彼女の意見を無言で肯定しているようだった。 「かー。俺ぁ今世紀最大のお節介呼ばわりで、しかも殴られ損…」 痛む頬をさすりながら、ドレイクがふと押し黙る。 「いや。待て…。待ってくれ! あいつは、結局、何を怒ってたんだ?!」 「…だから、お節介…」 そこでやっと全員が、悲鳴を上げて廊下に飛び出した。 「お願いだから、せめて……クラバインにーさま停まりにしてっ!」 アリスの悲鳴は、既に消えてしまったハルヴァイトには届きそうになかった…けれど。
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