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キューブ |
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吾の意味知るを怠るな。 | |||
マイクス・ダイは、地下演習室に向かう急な階段を駆け下りていた。息が上がり、酸欠で軽い眩暈さえ覚えるような全力疾走。普段演習室に行く時は中央エレベーターを使うのになぜ今日に限ってこの非常階段を走っているのか、と余計な事を考えるうちに、知らず駆け下りる足が鈍り、鈍り…、いつの間にか手摺に掴まって、おぼつかない足取りで一歩一歩踏み締めるように地下を目指している自分に気付く。 この階段を好んで使っていたのは、第七小隊の連中だった。それぞれなんらかの理由でエレベーターを避け、この、薄暗く細長く、降りる時はまるで奈落の底に向かっているような、上がる時は見えない天国を永遠に目指し続けなければならないような感じのする不安な階段を選んで、彼らは歩いた。 彼ら。 マイクスの従兄弟、アン・ルー・ダイを含む、彼ら…。 アン少年がエレベーターという狭く逃げ場のない「箱」を嫌った理由を、マイクスは知らない。しかし間違いなく少年はそれを「嫌がり」、多分…。 家柄も育ちも関係なく階級が全てだ。と一般警備部の上層は言うらしいが、この電脳魔導師隊にあってだけ、家柄は無視出来ない「階級」のひとつを表す「称号」でもあった。 ダイ系第八位。一族の末端。歴史の浅い新興貴族。魔導師系貴族でありながら、有能な魔導師を排出した事のない…三流貴族…。 どうしてもっと早く気付かなかったのだろうか、とマイクスは思う。 あのハルヴァイト・ガリューとドレイク・ミラキが、揃ってマイクスの一番小さい従兄弟をああも可愛がっている理由を。 ふらふらと階段を下りきり、非常扉を空けてエレベーターホールに出る。施設内はいやに静かだったが、マイクスは感じていた。 産毛を舐める、ちりちりとした感触。どこかで誰かが臨界からの使者を呼んでいる。 耳鳴りだけが煩い静寂。 階段を駆け下りて来たからなのか、やけに自分の鼓動も煩い。 「…ヘイズ小隊長に笑われるな」 呟いて、深呼吸する。そういえば「階段を全力で駆け下りて行け」とマイクスにアドバイスしてくれたのは、イルフィ・ヘイズだった。
「今更、ルー・ダイが心配で心臓をバクつかせていた、なんて言えないだろう? だから走って行け、マイクス。それなら、誰もお前の心臓が朝から爆発しそうだったなんて気付かないさ」
言われて、なんとなくその通りかなと思ったものの、「執務室からここまで走って来た」という不自然さはどう言い訳するつもりなのか。 とにかく、マイクスは今朝からずっと落ち付きなく執務室の中を歩き回って廊下に追い出され、通りすがりのイルフィにからかわれ、半泣きで顔を出したイムデ少年と「始めて」言葉を交わし、結果。 それらの代表と詐称して演習室の様子を見に行ってもいい。と、なぜか、ローエンス・エスト・ガンの許可を得て、現在に至る。 エレベーターホールから演習室のスライドドアまでは、目と鼻の先だった。十数歩で無愛想な鉄の扉に突き当たり、それを開ければもうフィールドである。 今動いているのはなんだろうか。とマイクスはぼんやり考えた。 アンが動かしているのはなんだろうか。とぼんやり考える。 「……それがなんでも、きっとぼくは驚くだろうな」 微笑んで呟いたマイクスは、ごく自然に演習室の扉を引き開けた。
アン少年が、整列した第七小隊からひとり離れて行く。 もっと不安だったり泣きたくなったり振り返りたくなったりしてもおかしくないはずなのに、なぜかいつも以上に冷静な自分に、アン自身が少し驚いた。 「余計な緊張で自分の能力を制限する事はない…」 誰にも聞えないように呟いて、なるほど、と思う。 だからあのひとたちはいつでも冷静で、余裕綽々で、少しも気負った所がないのだと判る。 出来る事以上にしようとする必要はない。 ただし、出来る事は出来うる限りやれ。 出来ない事は、しなくてもいい。 楽しい。 少し歩いて立ち止まり、ちょっと考える。佇んで、短く息を吐いて、薄暗いフィールドの上空に視線を向ける。 アンはそこで、愛らしい唇に仄かな笑みを刻んだ。 「さぁ、やろうか…」 呟いて笑みを消さず、自然に軽く拳を作る。 楽しい。 合間見える自分の分身が何なのか、アンは、最早「少年」と呼ぶほど少年でありえない青年は、彼の上官たちのような挑戦的で挑発的な笑いではなく朗らかな笑みを持って、全てを肯定する。 それが何でも、この先一生付き合うのだ。 どんな姿で何が出来て、出来なくて、でも、自分なのだ。 肯定する。 「…ぼくは、「君」と一緒に、衛視になるんだ」 楽しい。 「友達になろう。ガリュー小隊長やドレイク副長やイルくんやスゥさんやタマリ魔導師と同じに」 楽しくて楽しくて、仕方がなかった。
無言で見つめる数多の視線。 その先に佇むアンの足元から、ついに、ゆっくりと平面陣が描き出され始める。ここに居る人外どもの比にもならない、立ち上げ速度の遅い一次平面陣。美しく規律正しいが絶対に速くないその構築をブルースはやや蔑んだような瞳で見つめたが、並んだドレイクとハルヴァイトはひどく満足そうに頷き、グランは「ふむ」といやに感心した呟きさえ漏らした。 「いいねー、きれーだわ。予想通り遅いけど、それって…つまり予想のうちなんでしょ? レイちゃん」 「ああ。遅いんだったら間違うなつうのが、俺とハルのアドバイスだからな」 囁き合うタマリとドレイク。その内容にどう疑問を抱いたのか、ミナミが問うような視線を佇む恋人に送る。 「アンの立ち上がりが遅いのは判ってたんですからね、最初から。遅くても間違いがあっては最初(はな)から使い物にならないでしょうが、確実に一度で立ち上がれば速度は問題ない、と言い聞かせてたんですよ、わたしたちは」 「なんで問題ねぇの?」 もし前々からハルヴァイトやドレイクが言っていたようにアンが「制御系」になるのだとしたら、「攻撃系」よりも速く確実に陣を立ち上げる必要がある。なのに、ハルヴァイトは「遅くても問題ない」という。 「初期防衛と索敵は、うちの「天才」が先にやりますから」 ハルヴァイトは、ミナミ以下の疑問にそんな…奇妙な返答をしてきた。 「それは、ガリュー。ローエンスがルー・ダイなど「いらん」と言っていたのと関係があるのか?」 今だ険しい顔つきでアンの背中を見つめるグランがそう問い掛けると、ハルヴァイトは腕を組み、口元にいかにも楽しそうな笑みを零したではないか。 「大有りですよ、大隊長。 エスト卿…ファイラン階層制御系「システム」はとうにアカウントの承認を終了し、アンが何を割り当てられたのか知っていたから、あんな事を言って来たんでしょう?」 だから「いらん」。ではなく。 「わたしには、アンを魔導師隊に引き渡して行くつもりなどありません」 そのいかにも自信ありげな口調に、ミナミが何か突っ込もうとした。 「ははぁ。確かにこれじゃ、他の連中に渡すよっかハルちゃんとレイちゃんに預けといた方が絶対いいわー」 不可視モードの索敵陣を立ち上げていたらしいタマリが、ミナミよりも先にそう呟いて吹き出す。 タマリは笑いハルヴァイトは「渡さない」と言う、アンの魔導機。 「でもさ。「ディアボロ」と「フィンチ」のコンビはある意味完璧な訳じゃん? さっき見せた空間制圧系の魔法使ったコンビネーションだって、「フィンチ」が八機も居れば十分なんだし。なのにさ、ハルちゃん。この後に及んでまだ君は欲張ろうっての?」 意地の悪い笑いで小首を傾げたタマリを同時に振り返り、ハルヴァイトとドレイクはわざとのように肩を竦めて失笑して見せた。 「おい、タマリ。いつ誰が、どう欲張ったつうんだよ」 「お前らが偉そうに腕組んで「ありゃ俺のモン」つったって言ってんの」 「うん、それであってると俺も思う」 ミナミの同意を受けて、タマリが「でしょ? でしょ? タマリ偉いー」とけたけた笑い出す。 しかし、本当は誰も笑っていなかった。 みな、一様に待ち続けていた。 アンが臨界から分身である魔導機を呼び出すのを、ではなく…。 穏やかな微笑みだけを残してアンの背中に向き直ってしまったハルヴァイトが、何か言うのを。 「………「ディアボロ」と「フィンチ」は完璧かもしれませんが、…わたしとドレイクは…まだ、誰かに助けて貰わなければならないだけです」 まだ。 「これからも」 ずっと。 「ファイランで一番強くなれないなら、一番強い魔導師に「必要」だと言わせるようになりたいのだと、アンはわたしに言いました」 ハルヴァイトは、見ている。 「だからわたしは、アン・ルー・ダイの第七小隊編成を許可したんです」 待っている。 「二年間、俺たちはずっと待ったんだよ。アンが俺たちに「必要」になんのをよ」 腕を組み、にやにやと笑う、ドレイク。 ドレイクと肩を並べ、穏やかに微笑む、ハルヴァイト。 背格好のよく似たふたり。その向こうのアンの背中は誰からも見えなかったが、ゆっくりと回転し起動した電脳陣が仄かに白い光を吐き出し、刹那、フィールドの上空にいつつの白っぽい臨界接触陣が滲み出るように浮かび上がったのは、誰もが目撃した。 白い、淡い黄色の光を弱々しく放つ電脳陣。燃え上がる訳でもなく、輝いて消失する訳でもないあまりにも普通の陣のどこが面白いのか、とそれを見つめる大抵の人間たちは思ったが、ミナミだけが、長い睫をしばたたき、なぜか、ふと口元にあの儚い笑みを浮かべたのだ。 まだ誰かに助けて貰わなければならない。 そのひとは、誰かのために、最強になるのだ。
そのひとは。
「エンター…」 平面陣の只中に立つアンが呟いた刹那、上空で回転していた接触陣が中央から崩壊を起こし、分離した文字列が床に叩きつけられて跳ね上がった。 「みろ、失敗した」 ふん。とブルースが蔑んだ呟きを漏らし、タマリがそれをキッと睨む。 「お前バカなの? あれのどこが失敗だってのさ。生意気言うなら、よく見てから言えっつの」 文字列は…いいや、文字列の塊は確かに陣の中央から崩壊し床にばらばらと降り注いでいる。しかし、その崩壊はいつまでも止まらず、陣は形状を保ったままだった。 「崩壊じゃねぇの? あれ」 「排出だ、ありゃぁ」 今にも爆笑しそうな声でドレイクが言い、グランが大きく、本当に大きく感心したように頷く。 「タマリのような幻影式ではない、実体形式の完全補助系魔導機が臨界から現実面へ構築されているのだよ、アイリー次長」 「さっぱ判んねぇって」 確かに、文字列は豪雨のように陣から床に降り注ぎ、叩きつけられ、跳ね上がっている。光の粒子、というよりも、エッジの不明瞭な「何か」みたいなそれにミナミが本気で首を傾げた時、傍らに立ってじっとアンを見つめていたヒューが奇妙な表情で腕を上げた。 「…上だ、ミナミ。何かある」 「居る」ではない。それは、「在る」と言うに相応しい。 「……………チーズ?」 イルシュが大真面目にそうブルースに問いかけると、こちらも当惑したようにアンの上空を振り仰いだ少年が唸る。 「食ったら死ぬ?」 「食うもんじゃねぇだろ、多分」 思わず突っ込んでみたものの、ミナミにもイルシュの言う通り、…それはまるでチーズのように見えた。白くて四角くくて、表面も艶消しされているし。 「てか、多すぎ」 「完全補助系魔導機「キューブ」。相互間通信「しか」出来ねぇ、正真証明の補助系だな」 「キューブ」の外観は白い立方体で、他の魔導機のように何かの生き物と似た形状をしていない。本物の四角。真四角。目のないサイコロ。チーズかホワイトチョコレート。 「あんなの、見た事ない」 ぽつりと呟いたブルースに、ドレイクが顔を向ける。 「ここ数十年はあいつを呼べた魔導師ぁいねぇんだよ。何せ相互間通信しかしねぇもんだからよ、「使えねぇ」って…思われてたんだな」 「うむー。それはレイちゃん、完全補助系魔導師に対する嫌味なのかな?」 「あ、いや、そうじゃねぇけどよ…。でもな、「キューブ」が「ドラゴンフライ」や「アゲハ」に比べりゃ扱い難いのは確かだろうよ」 何が言いたいのか、不愉快そうな顔で抗議したタマリに苦笑いを向けたドレイクが、がしがしと白髪を掻き毟る。 それにしても…。 「………何機あんだよ、あれ」 「えー…。百六十機です」 ぽかんとしたミナミの呟きには、ドレイクの索敵陣を見ているハルヴァイトが答える。が、奇妙に間の開いた返答を訝しんだミナミが恋人を見上げると、彼は微かに綻んだ口元で、「詳細は企業秘密です」と付け足した。 正確には、相互間通信のみを行う端末「キューブ」三十二個五ユニット総数百六十機なのだが、ハルヴァイトはあえてそれを口に出さなかった。 それは、アンの秘密でもあるのだから。 顕現した「キューブ」は、本当にただふらふらとフィールドを漂っているばかりで、何かをしようというつもりさえないようだった。そして術者であるアンも、呆気に取られているのか、どうしていいのか判らないからなのか、ぴくりとも動かずその「キューブ」を見上げているばかり。 「さて。顕現だけは一応成功したみてぇだけどよ、この雰囲気じゃ、どうあれを使っていいのか判らねぇってか?」 そう言いながらドレイクが隊列を離れ、アンの背中に向けて歩き出す。彼が何を企んでいるのか知っているらしいハルヴァイトは困惑する周囲に穏やかな笑みを向けてから、少し隊列から離れた。 「つか、あんたたちの目的が判らねぇんだって」 「「アゲハ」と同様に扱うなら「キューブ」で任意の空間に妨害電波を蒔く? にしても、それは「キューブ」がする事じゃなくアンくんがプラグインで発動する魔法だろうけど…」 最後の部分を濁らせたスーシェの言葉に、ハルヴァイトは小さく肩を竦めてみせた。 「アンの電素数では、「キューブ」と魔法を同時に、且つ効果的に動かすのは無理ですよ」 「…なら、どーすんのよ。ホントにあれ、ただ浮かんでるだけじゃん」 大きな目を更に見開いたタマリが失礼にもそんな事を言い、しかし、魔導師どもは、その通り、とでも言うように小さく頷いた。 「だから。誰が、アンひとりでやります、なんて言ったんですか? タネ明かしする前に、ちょっと「キューブ」の基本プログラムを確認したいので、タマリ、可視モードの索敵陣を解析状態で投影してみなさんにあれの機能を説明してあげてくれませんか?」 「ん? いいけどさ、ハルちゃん。なんで自分でしないのよ。君なら何かする片手間に解説くらい出来んでしょーが」 「面倒だから」 しれっと言って退けたハルヴァイトの横顔に呆れた笑いを吐き付ける、タマリ。 「さすがアンタだ。やる気あんだかねぇんだか判らねぇ…」 「大ありなんですが?」 「…嘘言え」 無表情に突っ込んだミナミにハルヴァイトが仄かな笑顔を見せてすぐ、またも彼の周囲を立体陣が囲み、瞬き一回も待たずに「ディアボロ」が忽然と姿を現す。 「完全補助系「キューブ」はね、さっきレイちゃんも言ってたけど、全機体が相互間で特殊信号通信するだけの魔導機なの」 さっそく「キューブ」の説明に入ろうというのか、タマリはいかにも偉そうに薀蓄(うんちく)を語りながら勝手に隊列を離れ、グランの隣りに立って大型の臨界式モニターを立ち上げた。 「えーと。このモニターをフィールドだとして、ここにある青い点が「ディアボロ」。それから」 タマリの説明に合わせて、なのか、離れた場所でこちらも立体陣を立ち上げたドレイクの「フィンチ」が八機、フィールド上空に燃え上がった陣から飛び出して来る。 「この黄色いのが「フィンチ」ね。で、これに「キューブ」の機影を重ねると」 刻々と移動する黄色い点、動かない青い点。それに、無数の赤い小さな点が重なり、モニターいっぱいに広がる。 「と、上から見たらこんな感じになってんのよ、今」 現実に目を向ければ「フィンチ」は流麗で「ディアボロ」は異様だったが、モニター上でだけ見ると、「キューブ」の総数は圧巻だった。 無数の赤い点。青も黄色も飲み込みそうな勢いの、小粒な赤い点。 「「キューブ」の基本行動はすっごく簡単なの。はい、んじゃぁ、行ってみよーかハルちゃん」 軽く振り返って手を挙げたタマリの合図を受けて、「ディアボロ」がごそりと身じろいだ。フィールドの一部を占拠した「キューブ」に胡乱な眼窩を向けて立ち上がり、軽い足取りでその包囲の中へと入り込んで行く。 あのバランスの悪さでよくああ見事な動作が取れるものだ、と誰もが思った。手足が長い骸骨で、それだけやけに太い尾をふらふらと揺らす悪魔は、無様にひっくり返ってもおかしくない不均衡なのだ。 様子を窺うように上空を旋回する「フィンチ」に顔を向け、「ディアボロ」がふと足を停めた。密集する、というほどでもないがかなり込み合った「キューブ」にめり込んだ悪魔が、なんとなく面倒そうに一度俯き、不意に、左腕を持ち上げる。 「「キューブ」にはねー、位置関係を保とうとする動作機能しかないのさ」 に。と笑ったタマリのセリフを合図に「ディアボロ」は、軽く握った拳で手近な場所にあった「キューブ」を一個叩いた。 当然、叩かれた一個が落下しそうになる。と、なぜか、一個にしか触れていないというのに、百六十個の「キューブ」全部が無秩序に跳ね始めたではないか。 跳ねる跳ねる。ぶつかり合ってすれ違って擦れあって激突して、百六十個の正方形がモニターの中でいっせいに動き出す。 とこれまた当然、跳ねる「キューブ」の体当り(?)を受けそうな「ディアボロ」が移動しようとする。長い尾を揺らしてバランスを取り軽く横に。しかし、その尾の先端が床に跳ね返った「キューブ」に接触し一個が進行方向を変えた途端、周りの「キューブ」もまた力学を無視してめちゃくちゃに方向転換したのだ。 跳ねる。跳ねて跳ねて。器用にもその体当りを躱わし続けようとする「ディアボロ」にぶつかって跳ね上がって急降下して跳ね返って掠って当って、また跳ねる。 だから。 「キューブ」は本当に無秩序にめちゃくちゃに、「ディアボロ」の周りで荒れ狂った。 ついに悪魔が動きを停める。しかし惰性で、なのか、小粒な正方形の動きはまだ停まらず、どれかが停まらないから、全部が停まらない。 「当然、アンちゃんが意図的に動かす事だって出来る。アンちゃんが何もしなくてもこれだけ勝手に動き回る。まぁ、だから何よー、とか言われちゃうとその通りなんだけど、アンちゃんと「組む」のはあの「ディアボロ」と「フィンチ」のコンビなんだもん、こんだけ出来りゃ…レイちゃんとハルちゃんには十分なんだろうし」 タマリがにやにやと笑いながらハルヴァイトの背中に視線を送ると、ハルヴァイトは小さく笑った。 「期待以上でしたよ」 「ああ。あそこまで見事な「補助系」出してくれるなんて、思ってなかったからな」 少し離れた位置に腕組みして立っていたドレイクも、笑う。 「アン、「キューブ」を一旦上空に逃がせ。散開指令の受信後は、「移動させる事」だけ考えろよ」 「了解」 「キューブ」顕現後始めて聞いたアンの声は、不思議なほど落ち付いていた。 「だからつまりですね、大隊長?」 「なんだ、ガリュー」 跳ねる「キューブ」の群が、いつの間にか「ディアボロ」を避けて上空、旋回する「フィンチ」の真下に移動する。 果たしてあの数をどうやって動かしているのか…。 「こういう事を、やってみたかったんですよ」 言って、ハルヴァイトとドレイクは目配せした。
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