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18.インターミッション デイズ

   
         
(18)幻惑の花-4

  

 ミナミとハルヴァイト、セイルの悪巧み…だと最後にムービースターがにやにやしながら命名した…の打ち合わせはその後も暫し続いた。

 その「計画」はミナミの閃きだけで立案されたものだから、方々に穴がある。だから彼らはより具体的な問題点を思いつく限り上げ、一つ一つそれを潰す手を、または問題が問題にならない言い訳や抜け道を探し、計画そのものにある程度目鼻が付いた所で、今日の会合を終了した。

 役割は既に決まっている。判らないのは、「いつこの計画が実行されるのか」という時期的なものだったが、それについては誰にも…ハルヴァイトでさえ、か…予想は出来ない。

 だから、早急に準備には取り掛かろうという事になって、そうなると…。

「でも、ミナミさんまだ療養中なんでしょう?」

 最大の問題は、これだった。

「あー、まぁ、そうなんだけど、さ…。うん、なんとかなると思うから、大丈…夫」

 ちらちらとハルヴァイトの顔色を窺いながらも、ミナミは薄笑みでセイルにそう答えた。折角の計画が無駄になるかどうか、いつ着手出来るのかどうかは、結局ミナミの体調に掛かっている。

 その言葉を全面的に信用したのか、セイルはそれ以上ミナミ本人については触れなかった。いつでも呼び出しに応じられるよう「ミナミの希望する資料」を揃えて連絡を待っていると言うムービースターに、青年も頷き返す。

「じゃぁ、こっちも「その件」、上手く話しつけて一度連絡すっから」

「うん。なんか、予想外に監督の注文多かったのが不安だけどね」

 はぁ、とわざと嘆息し肩を落としたセイルを、ミナミがくすりと笑う。

「でもさ、その条件全部クリアしたら、逆に、こっちの我侭も蹴れねぇって事じゃねぇ?」

「あー、納得。じゃぁさ、ミナミさん、撮影は一日三時間までとか言ってくれると嬉しいんだけど、どうかな?」

「いや、それ、俺の都合と全然関係ねーし」

 冷たいなーミナミさん、などと言いつつも笑うセイルと、相変わらずの無表情を貫く恋人を、ハルヴァイトは微笑んだまま眺めていた。

 これで。

 ハルヴァイトには大義名分が出来た。

 そう、ドレイク…はどうでもいいにせよ、「ミナミにも断われない理由」が出来たのだ。

 十全十全。と意味なく内心ひとりごちたハルヴァイトは長い指を組んで膝の上に置き、次の会談日時を決めているミナミたちを、ただ見つめていた。

           

         

 セイル退室後二人は早々に次長私室を出て一旦陛下に謁見し、その後、上級居住区ミラキ邸へ向かった。先にハルヴァイトがドレイクとそう約束していたし、そうでなくても、「計画」のためにセイルとした約束でも、一方的にドレイクを巻き込む事になっている。

 とくに弾む会話もなくミラキ邸に到着したハルヴァイトたちは、ドレイクの帰宅まで散策するとリインに告げ、瑞々しい緑と柔らかな若草色、それから眩い枯葉色の混在する庭をつらつらと歩いた。

 つい数日前には咲き誇っていた花たちが幾つか姿を消し、固く閉じていた蕾がはち切れそうに膨らみ始めているのを胡乱に眺めながら、ミナミは考える。計画。無茶な、ではなく、実現可能な「虚偽」。その虚偽を果たして「現実」にするために必要な準備を順序立てて思い浮かべるうちで最も弱点(ネック)になるのは、やはり、青年の体調か。

 さて。普段ならば青年の安寧を第一に考え二からがないハルヴァイトをどう捻じ伏せ…られるとは現時点でミナミも思っていないのかもしれないが…、何事もなく且つ今後も何もありませんよと職場に復帰する手立てを考える青年をハルヴァイトは、ごく自然に庭の奥へと誘導した。途中何を話すでもなく、だからといって何か考えている様子もない恋人の、もしかしたら「無関心」にミナミが一抹の不安を覚える頃、その平屋の建物が整然と並んだ木立の向こうに見え始める。

「…あれ、って、アスカたちの住んでる使用人宿舎…じゃねぇよな…」

 独り言のように呟いてからミナミは、なぜか一度周囲を見回した。やや背の高い樹木を従えたミラキ邸の屋根と砂色の壁をじっと見つめ、まるで現在地を確かめるようにゆっくりと首を正面に戻す。

 ミラキ家の許可地…私有地、ではなく、ミラキ家が管理してよいと王に許可された範囲(エリア)は鈎型になっており、屋敷はその許可地の角の部分に建っていた。上級居住区中心に佇む陛下私邸を背後に守るように三時方向を正面にして、L字の長手部分を前方に伸ばし、前庭を取っている。

 先にミナミの言った使用人宿舎は、短く張り出した横、屋敷に向かって右側十二時方向に在り、二つの建物の間には丁度ミナミの背丈くらいの生垣があった。生垣には華奢な鉄扉が埋め込まれていて、使用人たちは勤務時間になるとそこに設置されたセンサーに身分証明書を翳して錠を解除し、職場である屋敷側へやって来る。

 ふと足を停めたミナミとハルヴァイトの視線の先にあるのは、その使用人宿舎とは似ても似つかない、平屋の小さな建物だった。平たい箱を伏せて置いただけのような壮麗さも荘厳さもない、もしかして倉庫だと言われれば信じてしまいそうな、そんな…ひっそりとしたものだ。

 しかし、位置がおかしい。

 再度首を巡らせたミナミの頭の中で、ミラキ家許可地の全貌が瞬時に組み立てられる。Lの文字をひっくり返したエリアに描かれる屋敷、前庭を走る小路、休息所としての東屋と、使用人宿舎…。

 まるで見えているようにそれらを脳裡に描いた青年は、白くほっそりとした指で木立に霞む建物を指し、傍らの恋人を振り仰いだ。

「アレって、離れ?」

 やや驚きを含んだ平坦な声に、ハルヴァイトは無言で頷いた。

 ミラキ邸別館、通称「離れ」をミナミが目にしたのは、これが始めてではない。頻繁に訪れる屋敷なのだからそれは当然であり、屋敷の二階からは屋根の部分も見えるのだが、こんなに傍まで寄ったのは始めてだった。

 多分わざとなのだろう、前庭の前方六時方向の一部は二メートル近い潅木で作られた迷路のようになっていて、しかも、一部の使用人を除いては近付く事も許されていなかった。その離れはつまり、迷路に囲まれるように建っているのだ。

 いつの間にその迷路に迷い込み、こんなに寄ってしまったのかと今まで歩いて来た道筋を思い出し、ミナミが首を捻る。青年の完璧な記憶力を持って断言するならば、二人は迷路など通らなかった。

「なんで?」

「単純な話ですよ。迂回路があるんです」

 ミナミの不審げな表情をくすりと笑ったハルヴァイトが、白いシャツに包まれた腕を上げて屋敷を指差す。

「前庭から東屋に向かう散策路ではない場所から小道に入って正面に進むと、自動的に許可地の端を通って迷路を躱し、離れの正面に出るようになってるんです」

「…気付かなかった…」

 どこか奇妙な表情で呟いたミナミの横顔。自分が「見間違える」なんて在り得ないとでも言いたそうなそれを、ハルヴァイトは朗らかに一蹴する。

「迂回路への侵入口は随分前から塞がれていて、普段は周囲の潅木に埋もれていましたから。しかも、今日のミナミは何が悩み事でもあるらしく、足元ばかり見ていて周囲の確認も怠っていたようですし」

「つうか待て。俺の不注意は判ったけど、その、塞がれてたような場所をいつの間にワープした」

 そんな荒業、アンタにゃ出来ても俺には無理。と無表情に首を横に振る、ミナミ。

「まさかわたしだって、あなたにそんな無茶は期待しませんよ。迂回路の入口を開けるようにリインに言いつけて、邪魔な木を切らせておいただけです」

 突如出現した、緑の回廊の秘密通路。

「つうか、めちゃめちゃまっとうな手段じゃねぇかよ」

 ではなく、支度されていた…進路。

「ダメですか?」

 まともな手を使って非難されるとは思っていなかったのだろうハルヴァイトが小首を傾げると、ミナミはちらりと上目遣いに恋人を見、それから視線を逸らして、やや歩調を速めた。

「あんたにしちゃ、捻りがねぇ」

 それじゃぁ自分はどんな行動を期待されているのかと思いつつ、ハルヴァイトが苦笑交じりに肩を竦める。しかしながら、その質問はしないでおこう。どうせ、返ってくるのはロクな答えではない。

 平屋の離れは四方を背の高い樹木に囲まれていた。整然と並んだ姿勢のいい針葉樹のまばらな緑が折り重なってその向こう側を見え難くしているが、閉鎖的な感じはない。

「…ぎりぎりの距離感、つうの?」

 ゆっくりと離れに近付きながらミナミが呟くと、ハルヴァイトもまたその建物を見上げて、返す。

「そうですね…。内側も外側(どちら)もお互いを拒絶している訳ではありませんが、開放的ではない」

「どちらも」というハルヴァイトの言葉に、ミナミは違和感を感じる。

「なんか、さ」

 ミナミは立ち止まり、穴だらけの、艶やかで柔らかい印象の緑に霞む建物をあのダークブルーで見つめ、独り言のように呟いた。

「――気持ちの悪い場所…だな」

 開放的(オープン)なようにして閉鎖的(クローズ)。ここまで寄れば、または屋敷の二階のテラスからなら全景を眺められるのに、庭に下りれば形状さえ確認出来ない。

 ぎりぎりの距離感。

 意味不明の違和感。

「それこそが、離れの主だった「エルメス・ハーディ」という人を体現しているのかもしれません」

 ミラキ邸の許可地と公共地の境界は、素晴らしいレリーフに飾られた背の高い白い柵と低木の生垣を合わせたもので、どうやらこの離れは境界の柵沿いに建てられているようだった。その柵を見上げたミナミが、なんとなく、ああもうこの向こうは小道なのかと思う。

 針葉樹の根元、葉のない部分には控え目な印象の柵が回されていて、一箇所、建物に近い部分にはくぐり戸もあった。離れを囲う針葉樹の整いぶりに内心首を捻りつつ、引き寄せられるように人工木の格子に近付くミナミの背中を、ハルヴァイトが薄く笑う。

「中、見ます?」

「見ていいのかよ」

「…エルメス・ハーディーもミラキ家にとって無関係な人間ではありませんから、いつかその周辺を洗うとリインには言ってありましたし、元より、この離れは随分前からわたしが自由にしていい事になってましたから」

 言いながらハルヴァイトがくぐりを軽く押す。

 きぃ。と、どこか物悲しい、錆び付いた蝶番の軋む音を伴って、それはあっさりと開いた。

 どうぞと手で示されて、ミナミは一瞬躊躇った。

 薄笑みの、悪魔。

 天使は一呼吸の間恋人の顔を見つめ、それから正面を見据え、意を決して一歩踏み出す。

 針葉樹の葉を避けるように頭を下げて柵を擦り抜けると、目の前に広がる緑。ささやかな前庭には一輪の花もなく、ただ瑞々しい緑の茂みが、綺麗に刈り揃えられた芝に紋様を描いている。

 悠久不変の、緑。

 直植えされた観葉植物たちは多分、エルメス・ハーディーがここに暮らしていた時から変わりなく、置かれたままに、存在しているのだろう。

「まさに華がない」

 などとハルヴァイトが呟いて、ミナミは詰めていた息を吐きながら背後を振り返った。一旦その、奇妙な緊張感で構成された庭から視線を外し、自分を「仕切りなおす」ために。

「つうか、今日のあんた、やっぱ捻りがねぇ」

「これでもいっぱいいっぱいで」

 大袈裟に肩を竦めワケの判らない事を言うハルヴァイトを、ミナミが不思議そうに見る。

「何が?」

「秘密」

 もしかしたら機嫌がいいのか、ハルヴァイトは少しからかうように声を潜めて短く言い置くと、恋人の内心など感知せずすいすいと狭苦しい前庭の芝に踏み込んだ。

 ミナミは感じる。

 停滞していたデータの進行。主であるエルメス・ハーディーを失い、成長する事も朽ちる事も許されなかったこの空間に、今、「外部からの新たな干渉が始まった」。

 気後れするような静謐さをあっさりと退けたハルヴァイトの、つまりは空気の読めなさに、ミナミは内心嘆息しつつもほっと肩を落とす。なんというか、もう再確認どころか再々々々々々確認、どころか、ミナミの完璧な記憶力にさえ毎度新鮮な驚きを齎すこのマイペースさに、いい加減慣れろよ自分、と突っ込みたい。

 ハルヴァイトは「全て認識し理解した上」で、それらを「全て無視出来る」という、素晴らしく非人間的な特技を持っている。

「…ホント、あんたすげぇよ…」

 そう広くない庭の中央に佇んでミナミを振り返り、不思議そうに首を傾げたハルヴァイトの傍まで大股で進んでから、青年はなんでもないと首を横に振った。その拍子に、丁度真横に位置する建物の内側を窓越しに見てしまい、結果、そこから視線を外せなくなる。

「あれって、本棚? だよな」

「そのように見えますね」

 半ば呆然と室内を見つめるミナミの目の高さに視線を合わせるように屈んだハルヴァイトの視界にも入る、奇妙な光景。

 最低月に一度はリインが直々に出向いて掃除をしているという屋内は、生活感は皆無だったが清潔感はあった。床から天井近くまである中折れの二枚窓はきちんと磨かれていたし、桟にも埃は積もって居ない。その、透明なガラスの向こうに見えるのは、乳白色のソファの背面と、向かい合わせに置かれたもう一つの背凭れ。絨毯は薄い枯葉色に赤茶の細いラインが走っている上品で落ち着いたものだったし、壁紙は全体にサンドベージュ系で浮ついた感はない。

 しかしながら、特筆すべきところは何もないように見える室内で唯一異彩を放っているのが、その本棚だった。色はチョコレート色。特に部屋から浮いている訳ではないのだが、その大きさには呆れる。

 それは、寝室へ続くドアを囲むように、床から天井までぴったりと造り付けられていた。扉を嵌めた棚も遊びもなく、一部の隙なく本が収納出来るようになっている。

「…王立図書館みてぇだな」

「もっと本が入っていれば、ですけどね」

 そう、その本棚には、本が数冊しかなかった。

 ただ、壁を埋めた、がらんどうの本棚。

「あすこがさ、ぴっちり本で埋まってたら、少しはエルメス・ハーディを調べる手助けになったのにな」

 本棚に並ぶ書の種類というのは、所有者の好みを如実に現す。本というのはつまり嗜好品であり実用品であったから、その本棚の主が何を必要とし何に興味を示し何に無関心なのか、見る者が見ればすぐに看破出来る…そうだ。

「ではやはり、あれが「エルメス・ハーディー」という人だという事ですよ。先代ミラキ卿と共に彼が亡くなった後、この離れから運び出されたものや持ち込まれたものは、何一つないそうですから」

 つまらない情報だとでもいいそうなハルヴァイトの呟きに、ミナミは驚いた。

「じゃぁ、あの本棚はずっとあんな状況だったって、そういう事かよ」

 すげぇ無駄。と、青年が呆れて言いかけるのに被って、ハルヴァイトが首を横に振る。

「ドレイクの証言によれば、彼が子供の時分には天井まで整然と本が並んでいて、それが徐々に徐々に減って来て、ついにはああなったそうですが」

「徐々に?」

「ええ」

 間引かれるように。

 本は。

 そして。

「…ナクナッタ」

 ミナミは、瞬きせずに無人の室内を見つめ、呟く。

「ここにあった本は、じゃぁ、どこに…行ったんだろな」

 エルメス・ハーディーという人のように。

 曖昧に。

 消えた。

          

 秘密。

         

 ぎりぎりの距離感。

 意味不明の違和感。

 複雑怪奇な閉塞感。

「すげぇ、最悪。謎だらけじゃん」

 胸の内側にざらざらしたものを感じて、ミナミは微かに眉を寄せた。あれもこれも一度に解決したいなどと欲張るつもりはないけれど、ドレイクの件だっていつまでも放ってはおけない。だからいつか行き当たるだろう「エルメス・ハーディー」の背中が、しかし、ミナミには全く見えて来なかった。

「今ならまだ、遺品扱いの品物が中に残ってますよ。とはいえ、ロクなものではないですけどね」

 本棚の片隅重ねられた数冊の本。時代遅れになったテレビと、凝った外装のオーディオ・システム。衣類が少し。ティーセット。

「それだけですが」

「……」

 淡々と述べるハルヴァイトの顔を見上げ、ミナミはまたも唖然とした。

「それだけかよ」

 もしかして、エルメス・ハーディーという人はハルヴァイトよりも生活能力が欠如していたのだろうか。

「処分するよう頼まれたのだと、リインは言いました」

 付け足された台詞を反芻してから、ミナミは今度こそ本当に眉間に皺を寄せた。

「待て待て。そんじゃ話の辻褄合わねぇだろ」

「どこの辻褄ですか?」

 こちらは暢気に首を傾げる、ハルヴァイト。

「あんた、エルメス・ハーディーが亡くなった後ここから運び出されたモンはねぇって、俺に言ったよな。でも、リインさんが処分を頼まれたから、結果、ロクなモン残ってねぇつうんだろ?」

「ああ、そこですか」

「つうか、そこ以外どこがあんだよ」

 気付こう、マジで! とミナミは金髪を掻き毟りたい気持ちになった。

「エルメス・ハーディーがリインに不必要な物の処分を頼んだのは、着陸調査で彼が地上に降り命を落とす、一年半も前です」

「……―――――」

 ミナミがぴたりと動きを停める。

「…なんで?」

 なぜ、彼は全てのものを処分したのか。

「さぁ。残念ながら真意は当人しか知らず、最早誰も彼に事の真相を尋ねられませんからね」

 ハルヴァイトは、一筋の光も許さない不透明な鉛色の瞳で室内を見つめたまま、冷たく言い放った。

 誰にも、何も、判らない。と。

 金色の髪に突っ込んでいた手を引き抜いて身体の脇に垂らしながら、ミナミも無表情に室内を見つめる。余りにも痕跡のない人。謎だらけの人。

 エルメス・ハーディーとは…何者なのか。

「と、まぁ、ハーディー魔導師の件はさて置きですね、実はここからが本題なんですが…」

 それまでとは違って少々歯切れ悪く言ったハルヴァイトが、未だ室内を睨むミナミに身体ごと向き直る。

          

         

「暫くの間、ここに住もうと思うんですが」

           

        

「え?」

 エルメス・ハーディーに馳せていた思考を強引に引き戻されて、ミナミはなんとも間抜けな声を上げつつ目を瞠り、ぎくしゃくと恋人に顔を向けた。

 他人の事に構っている場合じゃなかった。

  

   
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