■ 前へ戻る   ■ 次へ進む

      
   
    7.ラプソディア    
       
(19)

       

 馴染みのある「感情」の行着く先は、結局「破壊」であったし、「自滅」であった。

 自分を嫌い、そういう「自分」を晒したくないと思っても思っても、自虐的な「進化」を停められる決定的な要素が、ない。

 きっと、このままではあと少しも持たずに、狂ってしまうだろう。

 そうなれば………誰も悲しまないで済むのなら………いいけれど。

      

      

「何がどうなっているのか報告するくらいは、まさかお前でも拒否しないだろう? ガリュー」

 監視ブースに呼び出されたハルヴァイトは、非常に不愉快そうな陛下の視線を無視して、何も投影されていない中央平面モニターの端に腰を下ろした。

「拒否しませんよ、それはね。ミナミは…気付いたでしょうし」

「じゃぁやっぱよ、「ディアボロ」が「ジャケット」の基本プログラムで、って先刻のミナミは、当ってたって事なのか?」

「…どうです? アイリー次長。あなたが「ディアボロ」についてどう思ったのか、お聞かせ願えませんか?」

 ハルヴァイトは、陛下の後ろに控えたミナミに向かって、いつもと同じ穏やかな笑みを向けた。

「あくまで予想。で構わねぇの?」

 瞬きの少ないダークブルーの双眸が、じっとハルヴァイトを見つめる。

「どうぞ」

「…つまりさ、って、どうつまりなのか俺も自信ねぇけど、つまり、今「ディアボロ」が使った剣って…「二足歩行タイプジャケット」の装備する「対マシン兵器」に似たヤツがあんだよ。それで、多少情報の多い俺は気付いた」

「情報の多い?」

 ドレイクの問い掛けに、ミナミが頷く。

「だから、モーラ。「二足歩行ジャケット」の中で唯一「尻尾」があんのが、モーラ。で、アンタが飯も食わず寝る間も惜しんで調整したのに、手を掛ければ掛けるほど「勝てなく」なってった、アレ。…昨日の晩暇なんで、ちょっと俺も使ってみたんだけどさ、正直、まともに走らせるのも難しかったんだよな。なんでなのかその時は判らなかったんだけど、今なら判る」

 そこで一度言葉を切り、ミナミは微かに口元をほころばせた。

「外見は「モーラ」だったけど、あれは…「ディアボロ」のデータで調整されてた。だから重心が定まらない。手足のバランスが悪い。それで剣なんか持ってるもんだから、一振りするたび、こう…前につんのめる。

 となりゃぁさ、逆に今日「ディアボロ」の持ってたあの剣がなんの試験も無しにいきなり構築されたかとか、そういうのって、すぐ判んだろ?」

「……「ジャケット」の基本データを組み替えただけだってのか?」

 驚いた風のドレイクに顔を向けられて、ハルヴァイトがついにくすくす笑い出した。

「つまり、そうです。モーラのデータを元にして「ディアボロ」用の武器を造ってみようと思ったのは、ほんの暇潰しでした。まぁ、それが意外に簡単だったので、今度はモーラで動作確認して、そのデータを流用出来るかどうか、必然的に組み替えた「ディアボロ」の基本フレームは当然「ディアボロ」でないと確認出来ませんから、それと合わせて、ちょっと…………今日のは、ほんの「冗談」という事で」

「冗談っておめー…」

「他に言い方あんだろ…アンタも」

「? だってそんな、接近戦用の武器なんて、滅多に…というか、普通使わないでしょう? 魔導機は」

 小首を傾げてにやにやするハルヴァイトをじっと見つめ、だったらなんでそんなモンを。と………ミナミは呆れた。

「……………つうか、すっげー疲れた…。おかげで俺の仕事が昨日からひとつ増えたりとか、ヒューのシフトが変わったりとか、陛下の予定が狂ったりとか、そういうのもアンタの「冗談」のせいですか?!」

…アイリー次長、ちょっとキレ気味。特務室勤務四日目にして、言葉遣いも少々矯正され気味…。

「別に、誰も見に来てくださいとは頼んでないですし。それはワガママを言った誰かの責任と言う事で」

「貴様、それは何か? 陛下の我侭に俺たちが勝手に振り回されただけだと言いたいのか?」

 それまでじっと黙っていたヒューが、ついに口を開いた。

「わたしは「誰か」と言っただけで、「陛下」だなんて一言も言ってませんが? スレイサー衛視」

「あからさまにそうと取れる発言をしておきながら、よく言ったな」

 と、ここで普段なら口を挟む陛下がにやにやしたまま黙っているのに、ドレイクとミナミが溜め息を吐く。

(ぜってー面白がってんだろ…)

(……わざとなのか? そうなのか? わざとスレイサー衛視を連れて来たのか?!)

「あからさまに、ですか? それは…あなたがそう思っていらっしゃるからじゃないんでしょうか」

 ハルヴァイト…なぜか、笑顔。

「貴様に対しては相当な偏見があるにしても、陛下に対して我侭だとか手が付けられないだとかそういう失礼な感想を抱いた憶えはない!」

 片やヒュー…キレ気味。

「…ごめん、いっこ訊いていい? ヒュー」

「なんだ」

 色の薄い瞳で睨まれて、ミナミが肩を竦める。

「相当な偏見て、何?」

「……………」

「だからさ、何?」

「……………………」

「何?」

 無情にも淡々と問い掛けてくる、綺麗な青年。盛大に毛先の跳ね上がった金髪と、観察者の…ダークブルー。

「何?」

 鋼色の髪と鉛色の瞳。倣岸不遜な魔導師と「悪魔」を揃って手なずけた…、綺麗な、青年。

「何?」

 ミナミに顔を向けたきり凝り固まったヒューの横顔を笑いながら、陛下がそっとドレイクの袖を引っ張って彼の耳元に唇を寄せ、囁く。

「…アイリーてさ、本当、判り難い顔して面白いよね」

「おっかねーの間違いじゃねぇか?」

 それにハルヴァイトは、なんとなく、苦笑いした。

「で? 何?」

「…………………」

  

   
 ■ 前へ戻る   ■ 次へ進む