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    8.noise    
       
(10)

  

 広場の片隅に座り込んだ少年の周囲を、ぎくしゃくと回転する立体陣が取り巻いていた。

「…って事ぁ、放置されてた突然変異じゃねぇんですかね」

「違法に訓練されて魔導機の起動までは叩き込まれた、という所でしょう…。となると、制御系不在なのが痛いですね」

 最終的に広場の入り口付近で他の警備兵や衛視、当然、ミナミとヒューにも「動くな」と言い捨てたハルヴァイトがデリラだけを伴って広場に踏み込み、脅える少年と、何かを探るように旋回する「サラマンドラ」に対峙する。

「主砲はなんです? あの、赤いのの」

「熱線砲です。それが光学式だったら、さすがの「ディアボロ」も危ないですね」

 危ない、などと言いつつも、ハルヴァイトの口調は至って平静だった。空気中の酸素濃度を上げて爆発を起こしながら突き進む熱線砲ならまだしも、全てを光の速さで処理してくる「プラズマ砲」だとしたら、いかに「ディアボロ」が高速でも逃げ切れる訳がない。

「…………どちらにしても使える手…ね。あるにはあるんですが…、まったく、あのコを差し向けてくれた誰かは、わたしを殺す気なんでしょうか」

 最後の軽口を叩き小さく肩を竦めたハルヴァイトが、デリラに「離れろ」と手で示す。

「そうなんじゃないスか?」

「買った怨みの数が多すぎて、誰が黒幕か判りもしません」

 ハルヴァイトは誰も怨んだりしないのに、誰かは…ハルヴァイトを怨んでいる。とでも言いたげな呟き。デリラはそれに溜め息を吐き付け、担いでいたライフルを降ろした。

「プログラムの崩壊箇所が修復される前に、あのバイザー? を壊せますか?」

「一千発くらい撃ったらなんとかなんじゃねぇですかね。アレ、なんなんスか?」

「…多分、外部接続の「ブロック・システム」だと思います。「サラマンドラ」は元々知能の高い魔導機ですから、顕現だけさせて、後は勝手に暴走させるつもりなんでしょう。実際、あの少年が「サラマンドラ」を制御出来てるとは思いませんし」

「なんとかなるんスか?」

 警備兵に予備の弾丸を全部持ってくるように言い渡した後、デリラが離れて行くハルヴァイトの背中にぽつりと問いかけた。

「なんとかします」

 答えて「サラマンドラ」を見据えたハルヴァイトの口元には、どうしようもなく楽しげな、ある意味壊れてしまった笑みが、薄っすらと登っていた。

「さ、行きましょうか。たかが火を吐くドラゴンごときに負ける訳には行きませんからね…。何せこちらは…伝説の「悪魔」が味方なんですから」

      

      

 浮遊都市全てに共通する創造伝説、というのがある。

 それは、大地を汚し住む場所を自ら手放した人間を、大地の意志によって地中から湧き出た悪魔の大群が追い立て、ひとは、世界の最果てという断崖絶壁の前で風前の灯火となった命だけを頼りに、神に祈りを捧げる。

 その願いを聞き届けた神は、最後の選択をひとに科した。

 世界の最果てに踏みとどまり絶命するか、

 世界の最果てを越えて空に漂い絶命するか。

 人々は迷い、ある者は「世界」という大地にしがみついて悪魔の餌食となったが、最終選択にさえ「死」しか提示されなかったひとの罪を悔んだ一握りの人間達は、この期に及んで自らの汚れた血で大地を侮辱すべきでない、と判断し、その断崖絶壁から暗黒の深淵に身を投げた。

 その時、神に傅いていた天使が、その人々に手を差し伸べる。

 鋼の鎧を纏った天使たちは手にしていた円形の盾で身を投げた人間を掬い上げ、罪の償いを終えるまで大地を羨み漂う牢獄としての浮遊する円盤で生と死を繰り返せ、と告げ、人間を根絶やしにしようと襲い掛かる悪魔の軍勢と熾烈な争いを繰り広げて、ひとり、またひとりと暗黒に呑まれて行った。

 そして、最後まで脅えた人間を貯えた円盤を守ったのは、純白の羽根、黄金の髪、蒼い瞳の、とても美しく気高いたったひとりの天使だったという。

 円盤と天使を大地から遠く離れた上空に追いつめた悪魔の軍勢が今まさに最終攻撃を仕掛けようか、という時になって、ひとりの悪魔がこう言った。

 大地の意志はひとを大地から遠ざける事。ならば、ここまで来たのだからもうよいだろう。無力なひとと天使ひとりで、最早空を漂う術しか残されていないのだし。

 当然異議を唱える悪魔どももいたが、その、立派な角を持つ高位の悪魔に逆らえるものはなく、結局、悪魔どもはすごすごと大地に戻って行く。

 なぜあなた様はわたくしをお助けくださいますので?

 浮遊都市を従えた天使が、たったひとり空に残った悪魔に問う。

 はて、なぜか。しかしわたしは、お前のようになんとも綺麗な天使を知らぬ。

 悪魔はそう答えた。

 最早眷族にも見捨てられ孤独になったわたくしめが、終世あなた様のお側に居ります事をお許しくださいますか?

 天使は重ねて問う。

 戯れ言とはまさにこれ。ひとの生と死とを見届けようとするお前が、どうしてわたしの側に居続けられようか。

 悪魔は天使の問いに冷たく答えた。

 では、ひとが許され大地に立つその日まで、あなた様がわたくしと伴に空にあればよろしい。

 そう言って、天使は全てを包み込むように、微笑んだ。

 わたくしを、孤独(ひとり)になさらないで下さいませと申し上げております。

 一刻(いっとき)も。

 片刻(かたとき)も。

 終世。

 例えばこの世が終わっても。

 終わらなくても。

 そうして悪魔もいつの間にか大地を捨て、空を漂う都市の護りとして天使と共に崇められる事になる。

 天使と悪魔。善と悪。均衡が拮抗した吉祥に護られて、浮遊都市は空を漂う。

         

 さてこれは、あくまで伝説であるのだが…。

       

 現実、ファイランを護る最強もまた、奇しくも「悪魔」だった。

 広場の中央辺り、様子を窺う「サラマンドラ」と大分距離を取った場所で、ハルヴァイトは足を止めた。

 相変わらず、多少和らいだものの、頭痛がひどい。悪寒なのかなんなのか、妙に寒い。それでも彼はいつもと同じに倣岸に腕を組み、地べたに座り込んですすり泣いている少年を無感情な鉛色の瞳で見据えた。

 8の字を描くように旋回していた「サラマンドラ」が、首を擡げてハルヴァイトを睨む。何を考えているのか定かでないが、敵視されているのだけは確実だった。

 だから。否。それが当たり前だから、ハルヴァイトは…警告も一切なく、いきなり電脳陣を立ち上げた。

 頭痛のせいなのか、多少制御に狂いが出ている。おかげで、立体陣が描き出されるまでのコンマ数秒に、広場の上空では何度も真白い荷電粒子が爆裂した。しかしそれさえ気に止めず、ハルヴァイトは一気に四重構造の立体陣を足下から立ち上がらせて、立ち上がりと同時にプログラムの読み込みを開始していた。

 幾つものモニターがハルヴァイトの前面に出現し、支度されたプログラムを読み込んで消える。それが断続的、且つ高速で進行するのを「サラマンドラ」は黙って待っているように見えた。

「…遊び相手を待っている? それは…なんとも生意気だな」

 今日ばかりは込み上げてくる笑いに逆らわず、ハルヴァイトは「サラマンドラ」を睨み据えてにやにやしていた。

 術者を「潰さない」程度に好きなだけやってもいい。とハルヴァイトは自分に言い聞かせる。暴走した魔導機相手に、理性で勝とうなどとこれっぽっちも思っていないのだ。破壊衝動か、術者の感情に流されてただ暴れるだけの「サラマンドラ」は、ありったけの力でぶつかって来るだろう。だとしたら、相手が「臨界第二位」という強さを誇る魔導機なのだから、分別不能で無階級の「ディアボロ」も、そこそこ戦えばいい、という訳にも行かない。

「と、自己完結。久しぶりにこれは…楽しくなりそうだ」

 呟いて、くすくす笑い、ハルヴァイトは「ディアボロ」とシンクロを完了した。

 それは、鋼色の悪魔。

 そしてそれは、ハルヴァイト・ガリュー。

 それ、は。

 ハルヴァイトの正面に、地面と水平に一個の平面電脳陣が出現。それが光の粒子を撒き散らしながら高速で回転し、刹那で二枚に分れてそれぞれ上と下に引っ張られるよう分離した。

 広場に、緊張と無言のどよめき。

 発光しながら上下に離れ爆裂した電脳陣。その跡には既に、「ディアボロ」が忽然と姿を現していたのだ。

 途端、ハルヴァイトを囲む立体陣が飛び散った。

 崩壊現象か! とうろたえる兵士、衛視を他所(よそ)に、ミナミとデリラが静かにハルヴァイトを見つめる。

 飛び散った立体陣の滓が一瞬で三本の帯に整列し、生き物のようにうねって、ハルヴァイトの背中にある臨界占有率表示(プライマリ・テスト・パターン)に接続。先端を中空に消したそれに何度か光の筋が走ると、佇む「ディアボロ」の背面から同様の文字列が飛び出し、その先端もやはり中空に消える。

 開門式。デリラはその言葉と原理を知らず、ミナミはそれを、ハルヴァイト自身から聴いた。

「…直結。今「ディアボロ」は臨界を完全に離れて、自力で動いてる。しかも、命令を出す脳はあのひと…」

 最強、最弱のシステムを敢えてハルヴァイトが使う理由を、ミナミは知らない。

「手数を増やしたいだけなんですけどね」

 まさに無駄なく、物を考える速さで魔導機を動かすための禁呪。通常魔導機が使えるはずのない「魔法」を外部プログラムで差し込むため、操作する側に空き容量を造るという目的で編み出された、最終呪法。手足、ではなく自分自身として魔導機を動かすに等しい最強の接続形式はしかし、あまりにも無謀にその弱点を晒している。

 逃せないのだ。臨界からのエネルギーを、どこにも。

 だから、電脳陣を経由させている時のように、魔導機が危なくなったらエネルギーの排出バイパスを造って魔導師を護る、という事が出来ない。

「ディアボロ」が「傷つけ」ば、ハルヴァイトも傷付く。

「ディアボロ」が「死ね」ば……。

 開門式で自由になった「ディアボロ」は、肋骨の間であの漆黒に輝く球体を回転させながら、左腕を大きく引きつつ地面を蹴って上空に飛び上がった。

 同時、ハルヴァイトの頭上に珍しい八角形の電脳陣が立ち上がる。咆哮もなく、しかし三角錐の牙をぞろりと並べたアギトを広げて「ディアボロ」に襲い掛かる「サラマンドラ」。その二つが接触するまでの短い時間、ハルヴァイトは上空に描き上がった電脳陣に、「エンター」を入力した。

 風船を見ている気分だった。

 直径は悠に三メートル。身体を縮めた「ディアボロ」がすっぽり入れそうな程大きい八角形の電脳陣が、いきなり厚みを帯びて膨れ上がり、心臓のように薄赤くどくどくと脈打つ。その(多分)立体陣の周囲をまるで繭のような真白く細かい光(実はこれも文字列なのだが)が囲んで、高速で回転している。

 プラズマ翼を展開し、空中で迎撃しようという「サラマンドラ」に肉迫する、「ディアボロ」。真白い軌跡を描いて一直線にぶつかっていく鋼色の悪魔に向けて、分離式の熱線射出口を纏い付かせた「サラマンドラ」が、空中で大きく鎌首を擡(もた)げた。

 カッ! と「サラマンドラ」の全身が灼熱する。

 一瞬で広場の気温が上昇し、いくつあるのか知れない分離式射出口の全てから、真っ赤な高温球が一斉に吐き出された。

 悲鳴を上げるべきだ。とミナミは思った。

 あの球体を「ディアボロ」がどこかに食らえば、ハルヴァイトは…。

「…エンター…」

 笑いを押し込んだ声に、それを耳にした全ての人間が思わずハルヴァイトを振り向く。

 ハルヴァイトは相変わらずにやにやと笑っていた。全てを舐め切り世界中を睥睨するような冷めた目で横柄に腕を組み、幾つ待機させているのか判らない大量のモニターからの照り返しを鋼色の髪に煌かせながら、もしかしたら楽しそうに、捉え所のない笑いを口元に貼り付けている。

 外部ファイルの接続を受けて、「ディアボロ」が内蔵した回転球から魔法を発動。背中に回していた左腕を正面に突き出して手足を縮めた途端、掌を中心にした八角形の電脳陣が盾のように立ち上がり、吐き出されて襲い掛かってくる高温球の軌道を全て陣の中心へと捻じ曲げた。

 灼熱した小粒な球体が次々陣に吸い込まれたかと思うと、今度はハルヴァイトの頭上にあった立体陣の中心で漆黒の光が瞬き、直後、繭に包まれたその内部で漠炎が渦を巻いたではないか。

「たかが顕現訓練を受けた程度、図体がデカイだけの火龍にやられるほど、わたしは自分を弱いと思っていない」

 ふん。とハルヴァイトが鼻で笑うと、高温球の攻撃を翳した陣で吸い込みつつ翼に激光を煌めかせた「ディアボロ」が、一気に「サラマンドラ」まで間合いを詰めた。

 もしここにドレイクか他の魔導師がいたとしたら、なんと言っただろうか。転送陣に重々力発生力場、しかも、爆裂した内圧を抑えるために二重に重力を掛けてブロックした立体陣。あの「ディアボロ」を動かしながらそれだけのプログラムを連結して同時に稼動させようなどと、誰が想像するだろうか。

…想像くらいはするかもしれない。実行するかどうかは、知らないが。

 ことごとく躱される攻撃に苛立っているのか、「サラマンドラ」は長い胴体をうねらせて、「ディアボロ」に巻き付こうとしていた。しかし、小型で小回りの利く悪魔は器用にもそれを掻い潜り、右手にいつかのブレードを出現させて、分離し浮遊している高温球射出口を真っ二つに斬り捨てている。

 あんなものは実戦で使えない、などと嘯いていたのが嘘のような見事な剣捌き。本体と一定距離以上離れると制御から洩れ崩壊してしまう分離式の射出口は、斬り捨てられて落下し、次々空中で文字列に還元されては、消えた。

 その度に、少年を取り巻く立体陣に乱れと隙間が生じる。ハルヴァイトからバイザーを壊せと命令されているデリラは、回転する文字列になんらかのブランクが出来ると、それが狙いの範囲内でないとしても、まるで何の戸惑いもなく引き金を引いた。

 平面、立体に関わらず、電脳陣というのは普通の人間や物質が接触してはいけない危険なエネルギー溜りだった。平面陣なら無防備に晒された術者を弾丸で狙うのはた易いが、立体陣は見ての通り術者の全身を囲うように立ち上がるため、プログラムの一部が崩壊してくれなければ、相手に直接ダメージを与える事が出来ない。

「……ミナミさん!」

 空中で激突しすぐに飛び離れる「サラマンドラ」と「ディアボロ」。瞬きせずそれに見入っていたミナミを、離れた位置からデリラが呼んだ。

「すんませんがね、すぐ本部に連絡して、誰でもいいから意識の生きてる魔導師呼び出させて貰えねぇスか? こんじゃ埒明かねぇんですよ。大将だって、回りの連中が思ってる程余裕ねぇですし」

 駆け寄って来たミナミの顔を見もせず、プログラムの崩壊を合図に引き金を引き続けるデリラ。

「…判った」

 いいや。判っている、とうに。

 ハルヴァイトは陣の立ち上がり直後から、ふと笑うのをやめ一瞬俯く、という行動を繰り返していた。その時彼の眉間に刻まれる縦皺と顎の先まで伝い落ちそうな汗を見れば、あの倣岸不遜、絶対無比、の魔導師が、相当な無理を強いて悪魔を操っているのだと判る筈だ。…派手に空中で暴れる「ディアボロ」に気を取られていれば、別だろうが。

 それでも悪魔は、普段と遜色ない見事な動きで空中を跳ね回り、「サラマンドラ」を翻弄し続ける。

 巻いていた全身を大きく伸ばした赤い火龍は、荒いモデリングと元々の荒々しいデザインが合間って、出来損ないの蛇に短く不様な鳥の足が四本生えているように見えた。突き出した鼻面には厳めしい皺が寄り、頭部にはアンテナに似た華奢な角が見える。全身は直線を組み合わせて構成されており、ラウンドしたラインはひとつもなかった。

「ディアボロ」が「サラマンドラ」との間合いを取るため、大きく空中で後退する。右手に携えた波形ブレードも、滑らかな頭部に雄々しくまします二本の角も、そもそも骨格剥き出しの全身全てが完璧にモデリングされた、悪魔。

 プラズマ翼が吐き出す白熱した粒子を従えて、「ディアボロ」がまたも空中で疾駆した。消滅した筈の分離式高温球射出口がいくつか復旧している。しかしその攻撃を躱すつもりはないのか、ブレードを真横水平に構えて、伸ばした全身をうねらせその尾を叩き付けようとする「サラマンドラ」の真正面に突っ込む。

 虚を衝いたつもりなのか、「サラマンドラ」は真横に引いた尾の軌道を一瞬で斜め下に切り換え、高速で跳ね上げて「ディアボロ」を追撃させようとしたが、本体を中心に直径数メートルの範囲で各種センサーを働かせている「ディアボロ」はあっさりとそのベクトル変化を読み取り、プラズマ翼を格納して、事もあろうにその…自身目掛けて襲い掛かってきた太い尾に両足で着地し、全身を縮めたではないか。

 刹那、カッ、と高温球射出口が光を放ち、真っ赤に灼熱した火球が「ディアボロ」に向けて吐き出される。だがそれも計算のうちなのか、どうなのか、悪魔は力を貯えていた両足で「サラマンドラ」の尾を蹴りつけ、後方に大きく弧を描きながら身を投げ出していた。

 ボン! 低い爆音とともに「サラマンドラ」の尾がごっそりと抉り取られ、地べたに座り込んで必死に頭を掻き毟っていた少年が悲鳴を上げる。

「………バイザーは自分で外させろって…そりゃぁ一体どういう事なんスか! 大隊長!!」

 それと同時に、ミナミの横でグランと何やら通信していたデリラも、悲鳴を上げる。

「……………」

 プラズマ翼展開。瞬間で「サラマンドラ」に向き直った「ディアボロ」が、ちらりと……ミナミを見た気がした。

 空洞の眼窩で。

「証拠?! はぁ! 突然変異体は保護?! そうスか! へぇ!

 あんたら、ここでこのままウチの大将殺す気なのかっ!」

 そうかもしれない。とミナミは…思った。

「でも。だったら…かな。俺は…………黙ってねぇよ…。どいつもこいつも、いい加減にしろ…」

 呟いて、ミナミはいきなり、デリラが噛み付いていた端末を…蹴飛ばした。

「て…ミナミさん…」

「…ヒュー。衛視、警備兵を全員退避。デリさんとヒューも、広場から出てくんねぇかな」

 デスクから叩き落とされ大破した端末。それを唖然と見つめるデリラとヒューには、相変わらず無表情なミナミと、高温球の攻撃を八角形の電脳陣で防ぎながら「サラマンドラ」に組み付く「ディアボロ」が、同じに…見えた。

「…全員出てけ…。って事」

 言ってミナミは踵を返し、腰のホルスターから拳銃を抜いて歩き出した。

  

   
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