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番外編-7- ステールメイト

   
         
(13)intermission

     

 二度は言わないと、御方は仰られた。

「辞めさせない」

 その時黒い瞳を彩っていたのが苛立ちでも怒りでも諦めでもないのに一抹の不安を感じたが、あえて答えずに置いた。

 策はとうに取られているだろう。しかも関わっているのは、クラバインやレジーのように俺の考えを改めさせようとする温い輩ではなく、徹底的に退路を封じて来る、最強最悪に違いない。

 思わず、失笑が漏れる。

「なぜそこまでして、俺にこだわるんです? 陛下」

 問うた瞬間、御方は細い眉を吊り上げて俺を睨み、それから、さも呆れたように溜め息を吐きながらソファの分厚い背凭れに身体をぶつけて、天井を仰いだ。

「ホント、馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、物覚えも悪いんだな、お前」

 そこまできっぱり言い切られると返す言葉もなく、俺は短く笑って見せた。馬鹿は百も承知。どうせなら、腑抜けで甲斐性なしくらい言ってくれとも思う。

「約束…」

 視線を天井に据えたままの呟きが毛足の長い絨毯に零れる。

「僕は、お前に見限られるような事をしたか?」

 御方は。

「例え今の僕に取り返しの付かない間違いがあったとしても、僕は、都市を裏切るような真似をしたつもりはない」

 天井に向けていた視線を俺に戻し。

「僕が裏切ったのは、自分だけだ」

 赤い唇で弧を描き、長い睫を伏せて、何かを懐かしむように笑った。

  

   
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