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番外編-7- ステールメイト

   
         
(23)三日目 17:00

     

 最後まで何か言いたげだったベラフォンヌとセリスを黙らせたのは、結局レバロだった。それまで何があろうとも口を開かずに居たルー・ダイ家の当主の、「やる」と決めたら思い切りのいいのと強情なのは、アンに似ているのかもしれない。いや、アンが、レバロに似ているのか…。

 とにかく、レバロは意味もなく抵抗するベラフォンヌとセリスに、もう子供や弟に頼るのはやめましょうと言った。ベラフォンヌは頼るなどという失礼な言い方云々とここでも不快を示したが、レバロは首を横に振り、こんなものは「期待」ではない、ときっぱりベラフォンヌの言い分を斬り捨ててしまったのだ。

              

「太陽は西から昇らないのですよ、ベラフォンヌ婦人。絶対に覆せないものは、絶対に覆せないのです。天気は毎日変わります。風も、空の色も。大気の温度も。それは変わるものだから変わるのです。しかし、そうでないものも沢山この世界には存在しています。

 変わらないもの。変わってはならないもの。

 例えここでこの婚約を強引に進めて、何が残るのでしょうか?」

               

 それにベラフォンヌは、何も残らないと答えた。

 その後の彼女の言い分は、正直なところ、どうしようもない事実を目の前にしても子供っぽく駄々を捏ねているようにしか映らなかっただろう。しかしアンにもキャロンにも、その時同席していた全ての者にも、ベラフォンヌの言い分が判らないでもなかった。

            

「その通りですわ、ルー・ダイ卿。何も残りませんわね、わたくしにもキャロンにも、あなた様方にも。何も! 元より手にしていたものを失くすでもなく、今すぐに新しい目標が出来るでもなく、ただ諦めるだけです。手の届かないものを見送るだけで…、ええ、いいですとも、どうせなんの得も利もないのですから、喜んで見送りましょう。

 皆好き勝手な事を言って、何が和議だと言うのですか、若様?

 こんな不公平を黙って受け入れるのが、穏便な話し合いだとでも?」

             

 続いたベラフォンヌの言葉に、一番驚いたのは…ルー・ダイ家の面々だっただろう。

           

「魔導師という「地位」、衛視という「階級」、魔導師隊に所属しているという「事実」。それだけのものを元からお持ちのルー・ダイ家にはなんの損もございませんでしょうよ!」

           

 言い捨てられて、薄々それに勘付いていたのだろうスーシェはソファの背凭れに腕を預けたまま苦笑交じりの溜め息を漏らしたが、アンとメリルは思わず顔を見合わせてしまった。

 その小さな「輪」の中に在るのと、外からその「輪」を眺めるのとではそもそも視点も評価も変わるなどという事に気が回らないのは、もしかしたら、ルー・ダイ家の美徳かもしれない。だからこの兄弟はいつまで経ってもやたら凡人臭く、自分が…「傍から見たらとんでもないレベルで出世した」とは思っていなかったのだ。

 いや、まぁ、少し考えれば明白なのだけれど。

 次男は役所の一般窓口から異例の大抜擢で王都警備軍電脳魔導師隊所属の一等事務官に昇進、且つ、ゴッヘル系魔導師ナイ・ゴッヘル小隊長のお気に入りで、二十歳にも満たない末っ子はかの王下特務衛視団電脳班の魔導師と来れば、嫉まれて当然だろう。

 だがしかしこの兄弟、常に自分の事で手一杯なものだから、まさか周りが自分たちをそんな風に見ているなどと、考えてもいなかった。

 言葉もなくびっくり眼で見つめ合うメリルとアンを眺めて、キャロンなどは言ったものだ。

             

「なんていいコたちなんだ…。惜しい事をした」

           

 それを小耳に挟んで吹き出したスーシェをベラフォンヌが睨むのと同時に、「それなら」と明るい声を上げたのはミリエッタだった。

              

「確かにそう言われてみれば、ウチばかり良い事続きで申し訳ないと思うのよ、わたし。ですから、ねぇ、あなた?

 大切なものをひとつ、失くしましょう?」

             

 そして彼女は笑顔を振り撒き。

 ぽかんとするレバロに笑顔を。

 唖然とするセリスに笑顔を。

 呆然とするベラフォンヌに笑顔を。

 黙して事の成り行きを見守るスーシェに笑顔を。

 真摯な表情でミリエッタを見つめるキャロンに笑顔を。

 振り撒き。

 並んだメリルとアンに笑顔で頷き掛けて、こう、言った。

          

「まさかメリーともアンともでは少し寂しいのでそこは目を瞑っていただいて、どちらかといえば偉い? アンと、

              

 縁を切りましょう」

           

 しかして母ミリエッタはその後、…かの極保守派と名を馳せたベラフォンヌ婦人が蒼褪めてレバロとスーシェに泣きついても…、絶対に少年と絶縁すべきと言い張った。

            

            

 そして、夕刻。

 最早疲れ果てたベラフォンヌは早々にルー・ダイ家を辞し、口裏合わせの最終調整目的でキャロンだけが残った、リビング。さすがに絶縁状は辞めて貰おうとキャロンも…立場が間違っているような気もするが…必死に思い止まらせようとしたものの、結局、レバロはアンとの絶縁状にサインした。

 それで、この騒動は一応の解決? となり、しかしこれで暫くは屋敷へ来られないだろうアンを気遣ってなのか、今日は時間の許す限りゆっくりして行くといいとレバロは、キャロンとスーシェにも夕食を勧め、ふたりはそれを快諾した。

「もしかしてあそこで母がごねたらメリル氏も家を追い出されたのかと思うと、冷や汗が出る」

 夕食は手ずから支度するのだとミリエッタが張り切ってキッチンに飛び込み、疲労困憊のセリスが自室に引き上げ、レバロは明日の授業の資料を作るのだと書斎に消えて、すぐ、キャロンがぼつりと呟く。

「まさかそこまではしないんじゃいのかい?」

 フォローなのかなんなのか、かなり引き攣った笑顔で答えたスーシェの横顔を見ながら、アンとメリルは内心嘆息していた。

 いやぁ、やると思いますよ? だって、ウチの母ですからねぇ…。というところか。

「結果的に悪くないというのは理解出来るが、なんとも後味が悪いな」

 漏れた、溜め息混じりのハスキー・ボイス。アンはふと顔を上げ、正面の肘掛け椅子に深く座ったキャロンの顔を見つめた。

 誰かと似た、話し方。

「そうでもないです。だってこれで、ぼくは衛視を辞めたらただの人ですからね。キャロン様がスゥさんに言った通り、貴族からはそんなぼくに手を出そうなんて奇特な人は出ませんよ、きっと」

 言ってからほんのりと微笑む、アン少年。

「それじゃない、問題は」

 それにキャロンは、背凭れに預けていた背を引き剥がして姿勢よく座り直すと、あの力強い目で少年を睨んだ。

「母のくだらない言い草で、君が屋敷に戻れなくなった事を言っている」

「対外的には確かに「絶縁」かもしれないですけど、実際は、メリル兄さんも近くに居るし、父上も母上もたまには連絡入れるようにって言ってくれましたし…」

 だから気に病んでくれる必要はないとでもいうのだろう、アンがそこでも困ったように微笑む。

「優しいのと周囲を甘やかして付け上がらせるのは別だ。わたし個人としてはそういう君を非常に好ましいと思うが、世の中にはそんな君を利用しようと……。? 何をそんなに笑っていらっしゃる? 若様」

 懇々と説教し始めたキャロンと、その苦言を聞いているのか流しているのか、耳は傾けているしときたま「はい」などと返事するくせにほんのり微笑んだままのアンを見比べていたスーシェが、急に俯いて肩を震わせ笑い出した。

「いやね、たった今婚約解消した者同士の会話じゃないなと思って。まずキャロンが真顔で「君を非常に好ましい」とか言ってるのがおかしいし、それをアンくんが真面目に聞いてるのもおかしい」

 ほぼ同じ事を考えて、でも必死に笑いを堪えていたらしいメリルも、無言で頷いている。

「何よりも、きみたちの会話に違和感ないのが、死ぬほどおかしいよ」

 華奢な眼鏡を外して目尻に溜まった涙を拭うスーシェの顔を、キャロンは少々据わった目付きで見つめた。

「違和感ない?」

「うん、ない。というか、ハマり過ぎ」

 そこでキャロンは首を捻った。

「偉そうとか威張るなとか女のくせにとか言われた事は数多いが、違和感ないという評価は始めて頂いたな」

「きみ単体だけを見るなら概ねいつも通りの感想だけど、アンくんと揃えると違和感ないんだ、ぼくにはね。何せ」

 アンが、ゆっくりと笑みを消す。

「特務室に、キャロンと似た話し方…というか、時と場合によってはもっとキツイ事を平気で言う知り合いが居るんだよ。その彼がアンくんとよく話をしてるんだけど、それが、今みたいでね…」

 身振り手振りを交えて話すスーシェの横顔を胡乱に見つめ、少年は殊のほかゆっくりと瞬きした。

           

 あの、銀色は。どこへ消えたのか。

         

 極力思い出さないようにしていたのに、と胸の内で憂鬱な息を吐く。今は、これ以上自分の事にばかり構っていられないのだと自分に言い聞かせ、膝に置いて固く握っていた手から力を抜いた少年は、再度正面に座るキャロンの顔に視線を当てた。

「ところで、キャロン様。キャロン様は…その…、これからどうなさるおつもりですか?」

 やけにアンの事ばかりキャロンが心配するものだから、周りもあまりそれを気にかけていなかったのだろう、少年の固い声に、メリルが表情を曇らせてキャロンを見遣る。

「ああ、それこそわたしはいい。元より二十五歳までに嫁ぎ先が決まらなかったら好きにさせて貰うという条件で、今まで母の言いなりになるフリをして来た。もうリミットは数ヶ月もないし、今回の事で母も懲りただろうから、少し早いけれど好きにさせて貰う」

 キャロンの捌けた言い方にほっと胸を撫で下ろしそうになって、しかしアンが首を捻る。

「言いなりになる…フリ? ですか?」

「…ってまさか、キャロン…」

「そうだな。もう時効だからバラしてしまおう。

 少し前、この婚約に関してルー・ダイ家に対するヒス・ゴッヘル家の対応が変わったのは、ご存知だろうが」

 それまでルー・ダイ家との姻戚など迷惑だと暗に示唆していたヒス・ゴッヘル家が俄かに態度を変えた事を言っているのだろうキャロンの、どこか呆れた調子を含むあっさりした言い方に、メリルとアンが苦笑交じりに頷く。それに笑みを返して頷いた女傑…だとアン少年は思った…は、椅子の肘掛けに片腕を預けて横柄に足を組み、それまで口元を飾っていた笑みを、成功したいたずらを告白する時のにやにや笑いに切り替えて、続けた。

「それでもルー・ダイ家がなんの抗議姿勢も見せないのに少々イラついて、それならと、ウチの執事を使って一番信用ならなそうなゴシップ紙に、正式発表前の婚約話を密告させたのは、わたしだ」

 さらりと。

「…でも、それは、また別の密告者? が特務室に連絡してくれたおかげで、公開されませんでしたよね?」

 今更ながら、ではその時のキャロンの目的がなんだったのか判らないまま、アンが事の経緯を告げると、そこでも彼女は薄く笑って頷いた。

「それも、わたしだ」

 自作自演だったのだと、キャロンはまたもやさらりと言って退けたではないか。

「お互いの動きと反応をこそこそ探り合っているのに飽きた。貴族院はその頃既にルー・ダイ家に注目し始めていたから、このままでは騒ぎが拡大してわたしだけでは手が打てなくなると思った。

 だからわざと、静観しているだろう特務室を動かして水面下で介入して貰えば、…いや、特務室が忙しいのは判っていたが、こちらも一生の問題だからな…、余計なところに飛び火しないだろうと考えた」

 ルー・ダイ家とヒス・ゴッヘル家の問題を両家の間だけで固定するために、わざと危ない橋を渡ったというのか、キャロンは。

「確かに、衛視…それも電脳班の魔導師の姻戚問題といえば、遠回しに陛下との繋がりが生まれる訳だから、特務室だって黙ってはいないだろうけど…」

 なんて乱暴な女性(ひと)だ、と言いたそうに眉を寄せたスーシェを、キャロンが振り向く。

「密告だぞ、密告。いくらプライベートだとしても、直接特務室に持ち込まれたら無視出来ないだろう」

 明るい空色の目を眇めて微笑むキャロンを呆然と見つめ、アン少年は心底思った。

 このひとは、黙って誰かの細君に納まっているような器ではない。と。

「あえて訊くけど? キャロン。君、そんなにアンくんとの結婚が嫌だったの?」

 本人同士を目の前にしてする質問ではない。が、訊かずにいられない心境も、判る。

「嫌も何もない。わたしは、アンくんに会った事もなければ話をした事もなかったんだ、好き嫌い以前の問題だろう? …まぁ、「歯が立たない」とは言われていたが」

 何か思い出したようなキャロンの台詞に、それまでぽかんとしていたメリルが、不思議そうな顔をした。

「アンくんとの婚約を知り合いに話した時、偶然その知り合いがアンくんを知っていて、お前では歯が立たない、あのコは防御もなしの正攻法で一本勝ちするタイプだ、と言われた」

 にやにやするキャロンを見つめたまま、スーシェが問う。

「その知り合って、誰だい…」

「医療院の外科と警備軍の医療班に籍のある女医だ」

 答えが出て、瞬間、あ! と、アン少年が声を上げた。

「もしかして、ノーキアス先生ですか?!」

「そうだ。色々あって…そうだな、どうせこれもすぐに判るだろうから白状するが、わたしは警備軍の兵士になりたいんだ」

 唐突な話の展開に、アンとメリルがまたも驚いた顔をする。

「ただ、さすがに性別の問題で、一般入隊試験には参加させて貰えない。それで、とりあえず紹介状を持って最高司令との面会を申し出ようと思ってな、無茶を言って若様に書状を頂いた他に、同じく女性でありながら警備軍にも出入りしているステラを直接訪ねて事情を話し、紹介状を頂いた。それから親しくしている」

 つうかそれ、すげぇ画像(え)だな。とミナミなら突っ込んでくれるだろう。…というか、ステラとキャロンが一緒にいたら、とりあえず逃げ出すかもしれないが。

「実のところ、その紹介状を渡してる手前、ぼく…ゴッヘル家ではなくてぼく個人なんだけど、この婚約に首を突っ込むのは得策じゃなかったんだよ。ベラ叔母様に変に勘ぐられて、ぼくがね、キャロンの結婚を邪魔したなんて言われたら困るだろう?」

 だからデリラはメリルの相談を聞きもせず、スーシェはメリルの申し出があって初めて立会いを承諾した。

「…あの、キャロン様」

 知らないところで、気付かないうちに、誰かと誰かが繋がっている。

 アン少年は少しだけ何か考えるような顔をして、すぐ、それまで面を飾っていた当惑を綺麗に消し去り、あの大きな水色の双眸で正面のキャロンを見据えた。

「キャロン様とベラフォンヌ婦人との話が着いたら、ぼくに、警備軍入隊のお手伝いをさせて頂けますか?」

 言われて、キャロンが破顔する。

「そうだな。女子の一般警備部入隊は前例がないらしく、相当厳しいだろうと若様にもステラにも言われた。特務室詰めのアンくんの紹介があれば…」

「あ、あの、紹介状というか…この場合は推薦状になると思うんですけど、それを書くのはぼくじゃなくてですね」

 アンはそこで、慌ててテーブルに身を乗り出し、キャロンの言葉を遮った。

「直接ガラ総司令宛てに書いてくれるよう、ミラキ副長に頼んでみますから」

 と、なぜか、水を打ったように静まり返る、室内。

 一般警備部総司令フランチェスカ・ガラ・エステル卿といえば、ドレイク・ミラキの叔父に当たる。

「あ、そっか。今まで女性の入隊記録がないのは、何か問題があるからなのか、そもそも、入隊希望者がなかったからなのか判りませんよね? じゃぁまずそれを調べて、もしも過去に入隊希望者があったのに許可されなかったんだとしたら、その時提示された「問題点」が出来る限りクリアされるように書いて貰った方がいいですね。さすがに家族の承諾まではどうしようもないですけど、例えばキャロン様の安全の保証とか身の保証…って微妙な言い回しの書類を出させられたってアリスさん言ってましたから、そういうものであればご用意出来ると思います。一般警備部にならデリの知り合いも居るでしょうし、特務室のみんなも元は警備部詰めですから、司令に面接する前に何人か知り合いを作っておいたらいいんじゃないですか? でも、きっと、ミラキ副長が司令宛に推薦状を書いてくだされば、司令が責任を持ってお預かりくださるとは思いますけどね」

 すらすらと、それこそ立て板に水の勢いで言い、ついでに、ダメ押しでガリュー班長にもサイン貰ったらいいかも、などと呟いてにこにこするアン少年の顔を凝視したまま、キャロンが短く息を吐く。

「君は、本当にいいコだな。まず無用に周囲を疑わない。わたし…ヒス・ゴッヘル家が君…ルー・ダイ家にした失礼な仕打ちを、その、君の同僚や友人は許してくれると思うのか」

 アンをいいように翻弄しようとしたキャロンに、誰が手を貸すものかと彼女は思った。

           

「誰も断りませんよ」

        

 しかしアンは、きっぱりと答えたではないか。

「ぼくがキャロン様の希望通り警備軍に入隊出来るよう手を貸してくださいと言ったら、誰も、断りません」

 ぼく、が。キャロン、の。

 そしてスーシェも、思った。

 その「お願い」の先が我らが陛下であっても、御方はきっとこう仰られ、笑ってキャロンの推薦状にサインしてくれるだろうと。

               

「ホント、アンくんはいいコだよ。呆れるくらいにね」

             

 室内の当惑も後ろめたさもバカらしくなるようなアン少年の笑顔を眺め、スーシェが口元を綻ばせる。

 そういう少年だからこそ…。

「…………。ところでさ」

 幸せになって欲しいなと望むから。こそ?

「アンくんの「好きな人」って、誰」

 これはひとつ明確にせねばなるまいと、意味のない使命感に燃えてみた。

 スーシェが何気なく漏らした、途端。

「それだ、若様。いいタイミングだ。是非それだけは訊いてやろうと思っていた。何せわたしは、その「好きな人」のおかげで見事に振られた訳だしな、訊く権利はあるだろう」

「そうだよ、アン。ここまで周囲を騒がせて、最後の部分は内緒なんてないよ」

 キャロンがくそ真面目に頷き、それまで黙っていたメリルまでもが言い足し、アン少年は…。

「振ったって…、キャロン様を振った覚えありませんよ、ぼく!」

 椅子の中で小さくなって、悲鳴を上げた。

「判った。じゃぁこれならどうだ。一目惚れだったのに告白前に失恋した」

 これならどうだって、そりゃ無茶苦茶だな。と、ミナミの突っ込みが聞こえそうな返答に、しかし、スーシェとメリルがうんうん頷く。

 涙目で、迫ってくるキャロンとスーシェとメリルのにやにや笑いを見返しつつ、少年は内心助けを求めた。

 誰に。

 誰かに。

            

 それが、意地の悪い問いの答えだった。

  

   
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