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番外編-9- ゴースト

   
         
(24)独白

     

ロミーと別れたのは数日前です。

ロミーと別れてからのぼくには、明確な「時間」が存在しません。でも、何度か見知らぬ人たちがぼくの近くに寄って来たりしたので、何日か経ってるみたいだって思いました。

ぼくの傍を離れる時ロミーは、決まって、誰にも見つからず隠れているんだよって言いました。ぼくはその意味が判らなかったけど、ロミーが時計とぼくを気にして、でも部屋から出るのを躊躇うように行ったり来たりするのを見ているうちに、いつも、ちゃんと隠れてるよと答えていました。

だからぼくはその、最後にロミーを見た日も、ちゃんと隠れてるよと答えました。それから一度もロミーはぼくの所へ来ていません。

ロミーはぼくに、せいけつでやわらかいからだ、をくれるって言いました。もう少しだけ待ってとも、言いました。

ロミーがぼくにしてくれたのは、アンディというコの話でした。そのコはずーっとひとりぽっちで、ずーっと寂しい思いをしてて、だから、ぼくも同じだから、きっとぼくと仲良くなれるに違いないって、ロミーは言いました。そのためにはぼくに、せいけつでやわらかいからだ、が必要なんだって。

ぼくが、せいけつでやわらかいからだ、になったら、ぼくはずっとアンディの傍に居ていいんだよってロミーは言いました。そうしたらぼくもアンディも寂しい思いをしなくて済むんだと早口で言ったロミーは、そのための準備もあるからと言って出かけて、二度と戻って来ませんでした。

       

ロミーが来てくれなくなって、代わりに知らない人たちが来るようになって、でも、ぼくはロミーとの約束を守ってずっと隠れていました。

それなのに、その知らない人たちがやって来て色々するたび、ぼくはなんだか外の様子が判らなくなったり煩くて音が聞こえなくなったりして、このままロミーが来るまで隠れているのは無理かもしれないと思いました。

だからぼくは、ぼくの周りにだれも来ないように、音を立てたりオブジェクトを動かしたりしました。

それで知らない人たちはぼくに何もしないで出て行きました。でも、それから何度も知らない人たちが来るから、ぼくは何度もその人たちが帰ってくれるよう、色んな記号を壊したり作ったりしました。

       

ぼくが、ロミーはもう二度とぼくの所へ来られなくなっていて、随分前に「死んでいた」と知ったのは、今日です。

ぼくには、ロミーが来なくなってからどのくらいの時間が過ぎたのか判りません。でも、あの人がロミーは「二十年前に死んだ」って言ったから、ぼくは「昨日」と「今日」の間が「二十年」なんだと知りました。

       

ずっと暗い場所に居ました。ぼくの目の前には小さな穴が一つだけあって、ぼくはそこからロミーと話をして、ロミーを待つ間はそこから外の様子を見ていました。

       

今日。

その小さな穴の向こうが急に眩しくなって、ぼくは「それを塞ごうとして手を伸ばしました」。そうしたら急に全部が真っ白になって、眩しくて、「頭を殴られたみたいに目の奥がガンガンして」、「目も開けていられないし立ってもいられなくなって」、ぼくはその場に「倒れて」しまいました。

      

ぼくは、せいけつでやわらかい、暖かい、からだ、になりました。

      

ロミーにはもう会えないとあの人に言われたけど、ぼくには最初意味が判りませんでした。ロミーが会いにこられないならぼくが行けばいいんでしょうってあの人に訊いたら、それも出来ないと言われました。その後でぼくはようやく、ロミーがもう今ぼくのいる次元には存在していないんだって知りました。

      

ロミーは、アンディとの約束を守ろうとしていました。

ぼくに誰にも見つかっちゃダメだって言ったのは、ぼくならアンディの「友達」になれるからだって、それだけはぼくにも判っていました。

ぼくは、あの人に言いました。

ロミーは約束を破ってないって。まだ守られてもいないけど、アンディを忘れたんじゃないって。ぼくはちゃんと「ここに居て」、必ずアンディの友達になるよって。

        

       

「―――ロミーとの約束はぼくが守るってアンディに言いたいから、アンディに会わせてってあの人にお願いしたのは、ぼくです」

  

   
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