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    占者の街    
       
第四幕 夜も昼もなく、悪党の場合(5)

   

 ルイードに促されてフロアに現れたハルパスは、品のいい白いドレスシャツに黒いスラックス、という、あまりくつろげそうもない格好をしていた。

「まるで取り調べされる悪人みたいだな、これじゃ」

 こちらへどうぞ、と作り笑顔のシュアラスタに勧められた真正面の椅子に腰を下ろしながら、いつもの笑みを口元に浮べる。

 薄っぺらい、感情のこもらない笑い。

「まぁ、似たモンか」

 こちらも気の無い笑みで短く答え、それまで椅子に座っていたシュアラスタが立ち上がる。大股でハルパスに歩み寄る彼の手が霞むように閃き、足首まであるキャメルのロングコートが翻ったのを気配だけで察したチェスは、黙ってグランブルーの瞳をハルパスの横顔に向けた。

 瞬く間にコートの中から取り出され、握られた、大型のリボルバー。その銃口を迷わずハルパスのこめかみに突きつけ、流れるような動作で劇鉄を上げてからシュアラスタは、ぐっと唇の端を持ち上げた。

「質問を、バスター・フロー」

「脅迫じゃないのかい? シュアラスタ・ジェイフォード」

 シュアラスタを目だけで見遣ったハルパスも、微かに口元をほころばせたままで飄々と言い返す。

「黙れ。答えろ、ハルパス。ミディアは、どこで何をしてる?」

「極秘任務中につき非公開だ」

「なら、お前はここで何してる」

「相棒が仕事中なんだ、わたしも仕事中に決まっているだろう?」

「なら、チーム・ジャオジャイマを呼び寄せた理由は?」

 無関心を装って、しかし神経を集中してシュアラスタとハルパスを窺っていたチェスが、微かに眉を寄せた。そのチーム、確かにハルパスの呼び出しでこちらに向っているらしいが、それが今回の仕事とどう関係あるのか、彼女には皆目見当もつかなかったのだ。

「シュアラスタ・ジェイフォード…」

 本当にわざとらしいほどの溜め息と一緒にシュアラスタの名前を吐き出して、ハルパスは呆れたように肩を竦めた。

「君は、いつからそんなバカになった? わたしは居る、ミディアはいない、シャオリー・ジャオジャイマはここに向っている、しかもわたしの召集でだ。それだけ証拠があって、今更何をわたしに訊くというんだい?」

 無感情に冷えきった碧眼が、シュアラスタを見据える。

「答えなんか、最初(はな)から期待しちゃいないさ」

 くるっと手の中で一回転したリボルバーが、何事もなかったかのようにシュアラスタの背中に舞い戻る。あれだけ大きな鉄の塊を革パンツの背中に突っ込んでおきながら、彼の動作の何もかも、あまりにも自然過ぎた。

「マスター・エコー、暇な下っ端連中を総動員だ。今すぐ出かけられるヤツに金貨三十払ってやるから、十二時間以内にチーム・ジャオジャイマを見つけて引きずって来い!」

 腕を組んでハルパスに背を向け、シュアラスタは改めてチェスを見返した。

「で? あたしたちはどうすればいいの?」

「俺と一緒に保安官詰め所に出頭して、あの生意気な保安官見習いの間抜け面拝むんだよ」

 一体何がどうなっているのか、シュアラスタは説明しようとしない。しかし促されたチェスもルイードもヌッフも、尋ねようとしなかった。

「おい、ハルパス。職務怠慢だって俺に訴えられたくないなら、警護の配置でも考えとけ! どうせお前、そのためにバスターズに残ったんだろう?」

「そうだな。黙って留守番するのも飽きてきたし、そのくらいはやってもいいか」

「上手に出来たらボウヤ預けてやるぜ、一晩な」

 ははは! と笑いながら軽く手を振って、シュアラスタの背中がドアから夜の闇に消える。それを見送りながらカウンターに近付きつつ、ハルパスはさも残念そうに肩を竦めた。

「あの男が許可してくれても相棒の筋肉が許可しないんじゃ、結局タダ働きだよ」

「バスター・フロー。バスター・ジェイフォードの指示を、どうしますか?」

「あぁ、構わないから徹底的に利いてやるといい。あの男、自分の思い通りに事が運ばないと知ったら、マスターにだって平気で銃を向けるからね」

 当惑のマスター・エコーに微笑みかけ、ハルパスはワインを注文した。

「これだから、男は嫌いなんだよ。まったく」

 ハルパスは、……………女性的な白皙で妖しく笑った。

  

   
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