第11回日本生活科・総合的学習学会茨城大会 参加記録 |
1日目 6月22日(土) |
1 提案授業(水戸市立三の丸小学校) 2 授業研究会( 同 上 ) 3 課題別分科会(茨城大学) 4 自由研究発表( 同 上 ) * 懇親会 (ホテル レイクビュー水戸) |
2日目 6月23日(日) |
1 パネルディスカッション(茨城県教育会館) 2 講演会( 同 上 ) |
1日目 | |
提案授業 三の丸小学校 |
■4年2組「きれいな三の丸つくり隊」(60分授業) 三の丸小では「1人1テーマ」で,ひとり調べを重視した総合的な学習の時間を実践しており,4年2組では「きれいな三の丸つくり隊」をテーマとして実践している。本時はAさんの「学習課題」と「調べる内容」をみんなで話し合うという学習。三の丸小ではこういう形式を「基調提案検討方式」と呼んでいる。 Aさんの学習課題は「A花店でごみは1日でどれくらい出るの?」である。 調べる内容は ・1日どれくらい出るのか。 ・どうすればごみを減らせるか。 ・他のお店とどれくらいちがうのか。」 これをもとに子どもたちが話し合う。しかし出るのは枝葉末節な質問が大半。カラスがごみをあさるという話で盛り上がった。 「いっぱいのごみを見てどう思いましたか」「他の店と比べてみたいと思ったのはなぜですか」「どうすればごみが減らせると思いますか」といった鋭い質問が出ているのだが教師の指導性発揮の場面はなかった。 ■感 想 環境の授業を見るたびに思うこと,「学習の終末はどうなるのであろうか。自分の生き方を見直し,ぼくたちも町をきれいにしよう,といった終末でよいのだろうか。そのうち必ず「やってもやってもごみはでる。一体どうなっているんだ」とか,「やったって仕方ない」という結末にたどり着くだろう。言い換えれば子どもに絶望感を味わわせることにもなる。中にはそれでもやり続ける子もいるだろうが。総合的な学習の時間の終末がそういう形ではまずいと思う。 この授業は子どもたちの相互評価,そして自己評価の場面であろう。ならば,発表者も聞いている子どもたちも,お互いに話し合いを通して質的な向上が望まれる。 発表者は「みんなに相談してよかった」という気持ち,聞いている子どもたちにも同様の高まりがほしい。 また,こういう話し合いでは,どこかで焦点を絞った話し合いにしなけらば,むだな話し合いに終わってしまう。発表あって中身なしとなる。発表,話し合いという授業では,適切な教師の指導がどこで施されるかが授業の分かれ目になる。 低調であったことの理由の一つに,なぜAさんがこのような疑問を持ったかという背景が問題とされていないことがあげられる。A花店はAさんの家であるが,そこには切実な生活に根ざした問題があるはずだと思う。そのあたりを問題としなければ傍観者的な興味・関心になってしまうであろう。 |
授業研究会 三の丸小学校 |
助言者の加藤明氏(京都ノートルダム女子大)の指導は以下の通り。 ・「何をやったらいいか分からない」「どうしたらいいか分からない」という子どもの声にどう応えるか。 ・自発的なこだわりが学習の始まり……価値あるものを教師が提示するのが妥当 ・学習テーマ……現代社会が抱える問題で学校教育で考えさせたい内容 ・子どもたちの心が動くこと……学習の原動力,心が動く事実を見せつける。 ・1年間に2〜3テーマは学習させたい。年間1テーマで通すのはもったいない。 ・支援……少し背伸びしてがんばることの大切さを教えること。 ・自分の思いと違う方向に授業が進んでいるときには,修正するのが教師の指導。 ・学習技能習得だけでなく,設定したテーマ(環境なら「環境」)にどこまで迫れるか,も大事な学習。 ちなみに「最後のお一人」という声につられて発言した私の質問は,時間切れで加藤氏に触れていただくことはできなかった。 |
課題別分科会 茨城大学 |
午後からは会場を茨城大学キャンパスに移動する。 テーマは「生活科・総合的な学習で育つ学力」 奈良女子大付属小の小幡肇氏の提案。 ・調べて,まとめて,発表する,これを毎日輪番で実践している。 人の前で活躍→そのための準備(これが力をつける) ある子が調べたことの結果→同じ視点で子どもたちが考えることができる→学級に根付いた ・友だちが調べてきた事実の討論方法 「・・・・・・・・だった。」 →「だけど……」「なぜかな?」 まず第1段階「多分・・・・だろう」,次に「でも・・・・」,最後に「きっと・・・・だろう」 それから「聞いてこよう」「見に行こう」「調べに行こう」 助言者:嶋野道弘氏の指導 ・学力論…どういう立場から論ずるか,どういう学力か,立脚点を明確にしてから議論を。 ・学習の組み立て 指導要領の目標と内容→どんな学力を育てるか→授業づくり が通常の流れ。 逆の流れでの授業づくりはどうか?子どもの事実からどんな学力が育っているか。 |
自由研究発表 茨城大学 |
私が発表するのは第12分科会。発表者は私を含めて3名。 発表内容は私の考える総合的な学習の時間(発表原稿はこちら) 出された質問は次の通り。 ・情報掲示板についてもう少し詳しく。 ・教科とのリンクのさせ方における留意点は。 ・表現活動についてもう少し詳しく。 ・自己評価と総合評価の仕方を。 以上の質問への回答は発表原稿をお読みいただくと分かると思います。 |
懇親会 ホテルレイクビュー水戸 |
ホテルレイクビュー水戸は教員共済組合の宿舎である。たいへん立派な施設。 懇親会に参加されている方の中には著名人もたくさんおられる。言葉を交わす機会はあまりなかったが,こういう場で意見交換できたらいいなと思う。そんな中,野田敦敬先生と交流できた。また。同じ愛知の深谷圭助氏とも。MLの小川さんとも交流が持て,私にとっては意義ある懇親会であった。 茨城の関係者のみなさん,たいへんお疲れさまでした。 |
2日目 | |
シンポジウム 茨城教育会館 |
テーマは「語り合おう 子どもの学びのかがやきを ―子どもの学びのかがやきを生み出す仲間の輪― 」かみ砕いて言うと「自分の実践の成功例を語り合い,それを生み出す教師集団を育成しよう」ということになる。 司会者は茨城大の藤井千春氏。提案者は4名。神奈川:富士見小校長の矢野英明氏,愛知:大雨河小の荻野嘉美氏,東京:栗原小の丹伊田弓子氏,愛知教育大の布谷光俊氏。 主な提案を紹介すると, 荻野氏(大雨河小) ・地域の特性を生かした子ども主体の活動を実践。弥生式住居の復元,自然の池づくり,サトウキビから砂糖を作る,炭焼き体験など,山間部の小規模校ならではの実践。 ・子どものことを我がことのように喜べる…「みんながみんなにお裾分け」 ・それぞれの子の感動を共有できる実践を。 丹伊田氏(栗原小) ・4年での実践「みんな作者,みんな演出家」(学級劇への取り組み) ・職員室が学年会(小規模校) 子どもの育ちを全職員で見守る。 ・総合的な学習をやって生活科を…違いが身をもって分かる ・数多く授業を公開することで全職員に子どもの育ちを見守ってもらう。 ・学校中を巻き込んだ学習…職員室が学年会の場に 布谷氏(愛知教育大) ・ご自身がかかわっている多くの学校での実践を元にした説得力ある話であった。 ・成否は学級経営がキーポイント…子ども一人ひとりを大切にした教師 子どもたち同士,子どもと教師のふれあい ・学びの共有…発信せずにいられない。 ・学びの輝き…子どもたちの心を揺り動かす学習を。 心を揺さぶる学習の在り方…教師の創意・工夫(腕の見せ所) ・授業は生きている…柔軟な対応を。流れによって評価規準を変更することも。 ・子どもの学びの輝きを見ることのできる教師…よき先輩を持つ,学び合う仲間を持つ。 ・授業を見てもらう…学びの共有 ・研究協議…授業テクニックでなく,子ども一人ひとりの学びを話題に。 ・子どもが帰った後の教室…子どもの魂が残っている(学び) ・教師は子どもが思っていないこと,求めていないこと,考えてもいないことを押しつけたり,求めたりしていないか。子どもの立場になって,伸びる芽を見つけ,それを子どもに自覚させることが大切。 |
講演会 中野重人氏 谷川彰英氏 |
中野重人会長は今期限りで退任。後を受け継ぐのは筑波大教授谷川彰英氏。今回は短い時間ながらこのお二人のダブル講演 お一人25分という短い時間だったのが残念だった。 中野重人前会長 〈演題:生きて働く学力を育てる〉 私の思いは「初等教育資料5月号」に書いたので読んでいただきたい。 学力問題に正解はない。実践者自身が答を出すことが必要。学力問題と言えばすぐにドリル学習とか補習学習という話になるが,果たしてそれでよいのか。自分の実践を元に「学力とは何か」の責任ある解答を示さねばならない。他人任せは禁物。ただし,保護者や地域などへの説明責任が伴うことを忘れずに。私は「学力」とは「学校で育てたい力」すべてだと思う。通知表は育った学力を伝えるもの。 学力をつけることに関して,算数が弱いという実態があるなら算数の「時間数」を増やせばよい。なぜかこういう手法は取られていない。子どもたちが学校にいる限られた時間で勝負。何にどれくらい時間をかけるか(教育課程編成)に工夫を。学習指導要領をベースに,学校の願いを込めた特色ある教育課程の編成を。 教科の時間を削減して創設した総合的な学習の時間。そこには教科だけでは育たない「学力」をつけたいという願いが込められている。総合的な学習の時間でつける「学力」とは何かを吟味したい。 谷川彰英新会長 〈演題:学力は低下しない〉 低学力論への反論として,その根拠3点 1 測定できる学力(測定学力)に限定している点…後述 2 現場を知らないところから発言している点…大半の論者が教育関係以外の学者 3 50年前の低学力論と何ら論拠が変わっていない点…経験主義ではだめだという論 学力には3つの側面がある。「測定学力」「目標学力」「潜在学力」 「目標学力」は子どもたちにつけたい学力であり,「潜在学力」は子どもたちの意欲,やる気。潜在学力を培うのは授業。「目標学力」は「潜在学力」を引き出す学習という視点で実践を。これには4つの「気」がある。すなわち「本気」「やる気」「勇気」「元気」 これらをドリル学習や補習学習で引き出すことができるか。「潜在学力」こそが生きる力を育てる。「やる気にさせる」「やる気があればなんでもできる」こういう気持ちにさせるのがプロ教師。 今の総合的な学習の時間で学力は大丈夫か。教科と学力の違いは?方法論ではちがわない。カリキュラム編成の仕方が異なる。学校が独自に編成できる。自由さが与えられているが説明責任が伴う。責任を持った総合的な学習の時間の実践をしなければ批判の対象に。 |
6月21日(金) 1日の仕事を終え,18時44分ののぞみで東京へ向かう。今回は一人での参加。上野からは21時発のスーパーひたち。水戸着は22時11分。ホテルに直行する。原稿を読み直し,少々手直しして就寝。 |
6月22日(土) 7時起床。昨夜コンビニで仕入れたパンと紅茶で朝食。再度原稿を読直し,8時出発。 会場の三の丸小まで徒歩で10分弱。要所要所には保護者らしい方が看板を持って案内しておられる。学校は水戸城跡に建っており,外観は武家屋敷風。受付へ向かう。授業参観,同協議会を終え,午後の会場の茨城大学へ移動。バスで送ってくれる。ここで有田和正先生とばったりお会いし,一緒にバスに乗り込み大学までご一緒する。雑談をかわすうち30分弱で茨城大へ到着。相変わらずご活躍の様子。 茨城大学で弁当を食べ,午後は課題別分科会と自由研究発表会。昼食後,出版各社の販売コーナーを見て回る。意外と掘り出し物が見つかる。また,各社が出しているカタログや小冊子にお宝が多い。課題別分科会が終わり,いよいよ出番。日程の最後であるせいか,帰ってしまった方が多く,参加者は20人ほど。やや落胆する。無難にこなし,本日の日程すべて終了。 この後は駅前のレイクビュー水戸で懇親会。参加者はホテルのバスが送ってくれる。会場はたいへんに立派なホテル。実は公立学校共済組合の宿舎であった。多くの方との交流ができ,たいへん意義ある会だった。明日からの実践への意欲が湧いてくる。 |
6月23日(日) 今日は日曜日。7時起床。簡単な朝食を済ませ,会場の茨城県教育会館へ。案内の方々が要所に立っておられ,迷わず行けた。ホテルからは10分程度。会場は8階の大ホール。 昨年は高校体育館が会場でパイプ椅子だったが,今年はホール。長時間座っていてもさほど疲れなかった。定員は900名だがほぼ満員となる。熱気あふれる討論がかわされた。つまらないとたいてい居眠りするのだが,居眠りすることもなく引き込まれてしまった。休憩時にたばこを吸っているとき,偶然布谷先生とお話をすることができた。今日はシンポジストとして熱弁をふるわれているが,数々の実践にかかわっておられる先生の話はとても魅力がある。名刺交換し,今後の交流を確かめ合うことができた。 12時45分終了。弘道館が近いというので行ってみる。弘道館は水戸藩の藩校。ぶらぶらして駅へ戻り,駅ビルでカレーの昼食を取る。あっという間に時間が過ぎ,13時50分のフレッシュひたちに乗り込む。MLの小川さん,大雨河の荻野さんも同じ電車。上野経由で15時33分のひかりで17時28分帰名。 2日にわたる研究発表会であった。それも休日返上で,おまけに自費参加。しかし,それに見合う,いやそれ以上の得るべきものがあった。行かされる研修と違い,自らの意志で参加する研修である。さらに自分の実践や思いを発表することもできた。これからの教師は幅広く知識を収集し,自分のデータベースをどんどん大きくしていくべきである。書籍や発表会,そしてネット上などからどん欲に知識を求め,そして自分の意志で実践に取り組み,検証する。このような取り組みがなければ「実践を語れる教師」とはなれないであろう。来年の山口大会にもぜひ参加しようと思う。 |