インチダウン


 前後輪の径を小さくすることをホイールのインチダウンといいます。
通常15インチもしくは16インチのホイールを使います。この場合、タイヤはサイドカー専用の扁平タイヤもしくは自動車用の扁平タイヤを用います。(16インチの場合は2010年現在オートバイ用タイヤがあります)

 インチダウンの目的の内もっとも大きなものは減速比を下げて〔大きくして〕駆動力を増し、カー装着による重量増に対処することと、本車の重心を下げることです。

アルミ削り出しの特注ホイール

 

減速比を下げる

減速比は、本車のギヤリングにもよるので一概には言えませんが、10%程度下げることによって、トップギヤをそのままトップで使うことができるし発進も楽になります。
これはCB系のような高回転エンジンの場合にかなり有効です。ただし、このタイプのエンジンのオートバイはたいていチェーンドライブですから、スプロケットの交換でも減速比を変えることはできます。

 ST1100やK1100RSのような中低速トルクの大きいエンジンの場合は、私のSTの例でいえば、減速比を変えずに4速をトップ、5速を巡航用としていますがほとんど不便は感じません。
もともとオートバイのギヤ比は自動車と比べると、同じウェイト/パワー比の場合、オートバイのほうが最高速度が低いぶんだけクロスレシオになってますからサイドカーを付けても各ギヤのつながりに問題はありません。
発進も問題なく、STはかなりハイギヤードなほうで1速は83q/hまで伸びますがちょうど良いくらいです。

クラッチ板も34,000qまで保ちました。
実際、GG デュエットのバックギヤ付は前進4段です。
ここでST1100サイドカー他各車のギヤリングを見てみましょう。

 
ギヤリングの比較
  ST1100 K1100RS デュエット R100RS NSX−S
総重量〔乗員1名〕 460 415 470 390 1400
最大出力 100/7500 100/7500 100/7500 60/6500 280/7300
重量/出力比 4.60 4.15 4.70 6.50 5.00
最高速度 (180) (180) (180) (160) 264
許容回転数 8,000 8,000 8,000 7,000 8,000
6 速 308
5 速 250 220 187 242
4 速 210 189 183 168 197
3 速 166 154 151 135 155
2 速 126 120 111  98 113
1 速  83  79  67  64  72
  ST1100 K1100RS デュエット R100RS NSX−S
 
STの場合5速は完全な巡航用ですが、STの4速100q/hで十分以上の加速を発揮することから、ギヤ比の低いKでは5速もかなり使えそうです。
100馬力車のサイドカーはウェイト/パワー比でNSXと比較しても良い数字です。
(私のSTは側車に30キロの錘を乗せているので実質5.0です)

100馬力サイドカーの最高速度はほぼ180km/h、同じウェイト/パワー比のNSXは264km/hですからサイドカーは空気抵抗の固まりである事が良くわかります。
という事は空気抵抗のまだ小さい100km/hくらいではSTで4速で十分な加速力を持つ事が納得できます。

Kの場合にはギヤリングを下げる必要はない様にも思えます。
デュエットは持てるパワーからすると4速がもう少し伸びるようにしたほうが私の好みから言えば走りやすいような気がしますが、正真正銘のスポーツサイドカーという観点からするとこういうギヤリングの方が速い事は事実でしょう。

 以上のように見てくると、インチダウンをして減速比を下げるのは、BMW R100RS(初期型70馬力、後期型60馬力)のようにリッター車としてはやや非力なシャフトドライブ車でもっとも大きな効果をあげるものと思われます。
旧型BMWではメーカーがサイドカー用に16インチホイールと16インチホイール用のメーターまで用意していました。

 
旧型BMWとは、R50、R60、R50S、R69Sなど1955年〜1969年に作られたモデルのことで、サイドカーの装着を前提にアールズフォークを採用していました。これに対しこれ以前のR51などテレスコピックフォークを採用したモデルを旧々型と呼んで区別しています。
60年代には自動車の普及に伴ってサイドカーの需要は急減し、69年には4気筒のホンダドリームCB750フォアのデビューもあってBMWはサイドカー装着を前提としたアールズフォークに見切りをつけ、69年の5シリーズではテレスコピックフォークに戻り、73年、6シリーズの最高性能車R90Sの登場に至ります。
 

重心を下げる

 本車の重心が低いほどコーナリングの限界速度は高くなります。
サスペンションの強化の際に自由長の短い強化スプリングを入れても車高はある程度下げることは可能ですが、ぎりぎりまで下げるとなるとインチダウンが必要になります。

トレール

 インチダウンによりトレールは少し小さくなり、これによりハンドルも少し軽くなります。ただしこの点に関してはアールズフォークの採用のほうがずっと有効です。

コーナリングパワー

 15インチのホイールにした場合、また16インチでオートバイ用タイヤを使用しなかった場合、サイドカー用または自動車用の扁平タイヤを装着します。
これにより、タイヤの接地能力は高くなりますから、当然コーナリングパワーも増大します。
(接地能力が高くなるというのは、扁平タイヤは踏面が硬くフラットなために、またタイヤの周方向につぶれる長さが小さくなるために、接地面全体で均一に荷重を受け持つようになり、特に横方向のグリップがよくなります。扁平タイヤにすると接地面積が増えるという記述をよく目にしますが、接地面積は主に空気圧によりますからあまり変わりありません。接地面形状が縦長から横長になるということです)

コーナリングパワーはレーシングニーラーのように重心が低いサイドカーの場合には重要なことですが、通常のサイドカーではこれほどのコーナリングパワーは必要としません。
通常のサイドカーはコーナーで横滑りする前に容易に転覆しますから、この点に関して心配は要りません。
また、本車側へのタイトなコーナーで、アクセルを開けた時にリアが適当に滑ってくれたほうがいい、という場合もあります。

タイヤ

 サイドカー専用のタイヤとしては昔からダンロップ・サイドカーレーシング(3.50ー16)がありますが、大変高価であり最近では入手も難しいと聞きます。またこのタイヤは1975年のOHTA BMW GTUにも使われた60年代のタイヤですから、60馬力のR100RSには良いとしても現代の100馬力車に装着するのはちょっと無理があるのではないかと私は思います。
(実際にK100RSに装着していて大丈夫、という例もあるにはありますが・・・)

したがって100馬力車に安心して付けられる小径タイヤは16インチのオートバイ用タイヤか自動車用の扁平タイヤということになりますが、安全性の点からチューブレスタイヤの装着が必須でしょうからホイールは、適当なアルミホイールを見つける必要があります。
〔チューブレスタイヤの装着できるワイヤスポークホイルというものもあるようですが〕

高速安定性

 インチダウンして扁平タイヤを付けると高速での安定性が良くなる、という考えがありますが、私の個人的推測としてはスタンダードのオートバイタイヤでさほど問題はないと考えます。

自動車ではコーナリングパワーを確保するために踏面の硬い、横方向の接地能力の高い扁平タイヤを必要とし、安定性を確保するためにサイドウォールを柔らかくして〔横剛性を低くして〕、路面からの横方向の入力をサイドウォールの変形で逃がしています。

これに対しオートバイでは車体がふらつかないように横剛性の高いタイヤとなっています。
サイドカーはバンクしないから自動車と同じだという考えがありますが、実際には、自動車は左輪と右輪が対応して荷重のやり取りをしていますが、サイドカーの前輪はほぼ単独で、後輪も側輪と対応しているとはいえ軸重は側輪の約3倍もありますから単独に近い状況です。

つまり自動車とはかなり違った状況でむしろソロのオートバイに近いといえそうです。
とすれば(ここが仮定なのですが)ソロで十分な安定性を持つソロのタイヤで十分(あるいはその方がいい?)という事になります。
またサイドカーは本車が少し外に傾いており、またコーナリングの際に側輪が浮上することもありますから、そうした意味ではラウンドショルダーのタイヤのほうが理に適っているといえるでしょう。
この点に付いては今後の研究課題と思います。

タイヤの横剛性についても、R100RSが良く付けていた125SR15(ミシュランZXなど)は確かに横剛性が低いと言えるかもしれませんが、現代のドマニやデュエットなどの幅広タイヤはどう見ても横剛性が低いとはいえません。
またドマニやデュエットの場合、高速では安定性が良いようですが、低速では路面からの影響をかなり受けるようです。

 
幅広タイヤ
  フロント リア
クラウザー ドマニ 185/60R14 195/60R15
GG デュエット 185/50R14 195/50R15
 
 スタンダードのオートバイタイヤの場合ですが、CBX750FBは付けただけのサイドカーでしたが、セッティングが良かったせいかこの手のサイドカーとしては高速安定性がとても良く120q/h位ではまったく不安はありませんでした。
160q/h位になるとサスの弱さのため車体全体がふわふわと(あたかも雲の上にいるように)不安定になり怖い気がしました。
ただしタイヤが悪いという感じはまったくありませんでした。

サスを強化したST1100ではこうしたふわふわ感はなくなりましたが、今度は路面の継ぎ目などで車体がぐらつく感じが出るようになりました。
これは路面からの入力が前輪〔右〕、側輪〔左〕、後輪〔右〕の順序で入ってくる3輪非対称の乗り物の宿命であり、これを多少でも何とかするには本車の重心を低くしてトレッドも大きくするしかないでしょう。

CB750FB,ST1100ともにタイヤはオートバイ用でしたが全く不満はありませんでした。
寿命もかなり長くて経済的でした。
従ってタイヤの問題よりも、インチダウンをしてぎりぎりまで車高を下げることはそれなりの効果があると思います。

本格的なサイドカー

 上でオートバイ用タイヤでほぼ問題はないのではないかと書きましたが、小径ホイールに扁平タイヤを付けるといかにも本格的なサイドカー、といった外観を呈するようになることは紛れもない事実です。
見栄えというものも重要です。

なんと言っても時々訪れる見学者に対して有無を言わせぬ説得力があります。
私ももう少し余裕があったらインチダウンをしたいというのが本心でした。
タイヤとしては、165R16くらいで1輪で160馬力OKで、少しラウンドショルダー気味のものが良いでしょう。

このようなサイドカー専用タイヤの出現が待たれますが、ただそうした物が出来るためには、(特に実直な日本のメーカーの場合)そもそもサイドカーのタイヤにはどういった荷重が掛かるのかの解析から始める必要がありますから、需要の少ないサイドカーのために(採算を重視する日本のタイヤメーカーが)そんな事をしてくれるとは思えませんから待つだけ無駄なのかもしれませんね。

 

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