側車車検


 側車車検とは俗称ですが「側車付きオートバイ」として取得した車検の事で、車検証の「車体の形状」欄に「側車付きオートバイ」の記載があるものの事です。
 
箱根ターンパイク入り口の藤棚

(PAのそば屋さん前)

2000.5.1

 
 側車付きオートバイとして認められるには、運輸局の型式認定で認められる場合と、既に在るオートバイへの側車の取り付けの際に届け出て認められる場合とがあります。
前者の場合とは、昔は戦前からあった陸王、あるいは旧型BMWやハーレーの純正サイドカーなど、現在はクラウザー・ドマニ、GGデュエット、京都モータークラブで扱うBMW K1200LT+EMLなどです。

後者の場合とは改造申請をして構造変更する場合です。
なお後者の場合でもBMW、ハーレーのように側車の取り付けの前例の多い外国製オートバイの場合には簡単な届け出だけで良い場合もあるそうですが、これについて詳しい事は分かりません。

 現在は国産車でも側車車検を取得する場合が多くなったようですが、少し前までは国産車で側車車検を取ることはとても難しい事のようでした。
60年代半ばまでは陸王、ミナトなどのサイドカーが健在でしたが、当時自動車の爆発的な普及によってサイドカーは廃れる一方で、私が2輪の免許を取得した1964年ころにはサイドカー免許が廃止されました。
これは「サイドカーは近いうちに無くなる物だからもう必要ないだろう」という当局の判断によるものでしょう。

 
国産サイドカー資料集(日本二輪史研究会)によると1954年当時日本には約一万台のサイドカーがあったとされていますが、この当時販売されていたサイドカーは陸王以外の物はいずれも軽自動二輪車(250cc)に取り付けされるよう製作されており、車幅が1.3m以内に設計されていたために軽自動免許で運転でき、側車付き自動二輪車免許を必要としませんでした。
 
運輸行政の上でもそうした見方があった筈ですから、BMWやハーレーのように外国でのサイドカーの実績があるものは別として国産車にサイドカーを装着した際にどのように対応すべきかといったマニュアルがなかったのだろうと思います。

 ところが1976年のOHTA BMW GTUの出現が大きかったと思いますが、趣味としてのサイドカーが細々としかし確実に生き続け、1989年には京都のケンテック(1999年廃業)で「100%側車車検付き」を標榜するようになりました。

ケンテックの100%側車車検付きは私は日本のサイドカー界にとって画期的な事だったと思います。
(大月さんは偉かった。値段も高かったけど・・・)
現在ではおそらく国産車の改造申請についてどのように対応するのか各運輸局にマニュアルが出ているのではないかと思います。

 側車車検のメリットとは以下のようなものです。

 
1.合法的なサイドカーであるという満足感がある
2.高速での定員乗車が出来る
3.強度計算がしてあるから安心 (?)
4.メンテナンスを受けやすい
 

 合法的なサイドカーである

 側車車検のないサイドカーは厳密にいえば非合法の乗り物という事になります。
一つの考え方としてサイドカーの取り付けはフォグランプやバンパーを取り付けるのと同じだというものがありますが、現に車幅も重量も大きく変化するのですからこの考えには無理があるでしょう。(車輪だって一つ多いんですから)

 但しオートバイにサイドカーを取り付けるという事は昔から慣習としてなされてきた事で当局は半ば黙認するという事でやってきました。
良い例として畳屋さんやガラス屋さんのサイドカーは現在では少なくなりましたがずっと昔から黙認されています。
昔はそれ以外にも氷屋さんとか八百屋さんとか多くの人が勝手に作ったサイドカーを利用していました。

法律は大事ですが慣習というものもそれなりの力を持っているという事です。
皆が堂々とやっている事で且つ生産活動に寄与するものはなかなか取り締まる事が出来ないという事でしょう。
冬になると軽トラックの荷台に釜を乗せた焼き芋屋さんが出現しますが、荷台でボウボウと火を焚いて大丈夫なのかいな、と思いますがこれも慣習です。(本当は危ないですよね)
郵便屋さんのカブは歩道を走っても捕まらないなどというのもそうなのかも知れません。(違反でしょうに)

 しかしちゃんと側車付きとしての車検が取得してあるとなれば、言ってみればサイドカーとしての公民権を持っているようなものですから、人によっては「それがなきゃ始まらない」という事もあるでしょう。
どうやら威風堂々と走るタイプの人はこだわるようです。
この部分をどう評価するかはそれこそ人それぞれで、私なんかは元々側車車検のないCBX750Fボルドールサイドカーに乗っていたくらいですからそれほどこだわる方ではありません。
それでも当時「側車車検は付いているんですか」と聞かれたときには若干気がひける思いがしたことは事実です。

 この問題に付いてはオーナーの価値観によってその必要性が決まるのだろうと思います。

 前のサイドカーの時に西湘バイパスで整備不良車の検問に会った事もありますがサイドカーはフリーパスでした。
本当は整備不良車という事になるのですが。
この時感じたのは官憲はサイドカーに好意的だなと言う事でした。

 なお側車車検のないサイドカーで整備不良として捕まったと言う話も希少な例と思いますが聞いた事があります。
この場合側車をその場で外して帰り、後でトラックで側車を取りに行くということになると思いますが、側車を一人で外すには本車にメーンスタンドが付いていないと無理だと思います。(他にジャッキ、CRCなどが必要です)

 高速での定員乗車が可能

 この問題については当時雑誌にも出ていたのでご存知の方も多いと思いますが、以前(平成10年ころでしたか)ゴールドの川上さんが4人(定員)乗車中に捕まり、その後当局の手違いという事で詫び状が出されたことがあります。
平成17年から自動2輪の高速二人乗りが解禁となりましたが、側車車検のあるサイドカーでは以前から定員乗車が可能でした。

これは道路交通法の以下の規定によるものでした。

 
道路交通法71条にあった規定(平成17年以前)
自動二輪車 (側車付きのものを除く。以下この条において同じ) の運転者は、高速自動車国道及び自動車専用道路においては、運転者以外の者を乗車させて、自動二輪車を運転してはならない。
 
 この条文で「側車付きのものを除く」とある訳ですから側車付では運転者以外の者を乗せても良いわけで、必然的に車検証に記載のある定員を乗せられるという事になります。

 サイドカーオーナーの中には高速での定員乗車を楽しんでいる人も多いかと思いますが、私の考えとしては(そうした人を批判する気は全くありませんが)高速で本車の後ろに人を乗せるのは安全といえるのか少し疑問はあります。
ソロのオートバイと違ってサイドカーでは横Gが掛かるわけですから、うっかりすると振り落とされるという危険はあります。

ソロのオートバイでの2人乗りは以前は禁止されていたのにサイドカーでは本車の後ろに乗せることが出来たというのは私は法律として整合性に欠けていたように思います。

現在自動二輪の高速での最高速度が自動車と同じ100km/hになりましたが、(という事は実質的巡航速度は120km/h) これによりかなりの横Gとなりますから本車の後ろに人を乗せている方は十分気を付けて頂きたいと思います。
私の考えとしては人を乗せるのは側車に限定した方が良いと思いますが・・、本車の後ろに人がいたら落っこちないか心配で少しも楽しくないと思いますが、反対意見もあるかと思います。

なお首都高速などで「大型自動二輪車及び普通自動二輪車二人乗り通行禁止標識」がある規制区間は自動二輪車の二人乗り通行は出来ませんが側車車検のあるサイドカーは定員乗車で通行できます。(この点警視庁に確認済みです)

 強度計算がしてあるから安心 (?)

 サイドカーとして型式認定を受けた物はメーカーでそれなりの強度検討をしてあります。
また改造申請をして構造変更をする際にも強度検討をした書類が必要になります。
つまりいずれの場合にも強度検討してある訳ですから安心といえそうですが、改造申請で必要とされる強度検討は強度計算または歪ゲージによる実働歪測定によりなされますが、実はこれはさほど厳密なものではありません。

 私はかつて豊田市のトヨタ系車体メーカーで各種強度研究、実働歪からの疲労寿命の算出、FEMによる構造解析などをした経験がありますが、実際に改造申請に使われた強度計算書の実物を某所で見た事がありますが、15分ほど眺めましたが何の計算をしているのかさっぱり分からないと言う代物でした。
またかつてスポークホイール誌にも某サイドカーショップの方が強度計算のやり方を書いていましたが、これも間違いの多い良く分からないものでした。(「サイドカーその設計と製作」ではありません)

 そもそもこの計算では曲げモーメントも応力も単位がkg/cmとなっており間違っていました。曲げモーメントはkgcm、応力はkg/cm2です。単位を間違うということはその物理量がいかなる内容のものであるかを理解してないということです。

さらにこの計算では破断強度(引っ張り強さ)に対して安全率を1.6とする計算で、これは大負荷に対してフレームが塑性変形しないか(静的強度)を見る計算のようでしたが、この事は強度検討上必要とされている強度がそうなっているから仕方ないのですが、現在の強度の見方としては小負荷が何度も繰り返された時の疲労強度を見なければ強度を見たことにはなりません。(静的強度が十分高い安全率となっている場合は疲労強度も大丈夫だろうと言う事はありますが、1.6では十分に高いとはいえません)

さらに歪ゲージで歪を取るというのはこの仕事を専門にしている人(メーカーでは通常は車両実験課の担当者)でも大きい歪を間違いなく取り出すと言うのは難しい事で、専門でない人が測定した歪というものは殆ど当てにはなりません。
歪ゲージというものは溶接部などでは貼り付ける位置が1ミリ違っただけで歪が大きく変わる場合がありますから専門の人でなければ無理です。
メーカーでは実働歪を取った車両を後に耐久走行に使う事がありますが、そこで歪が出ていなかった部分に亀裂が発生すれば実働歪測定が適切でなかった事が証明されます。
メーカーではこうした事の積み重ねで技術を向上させている訳です。

 但しこのように改造申請で行なわれている強度検討がどうやら怪しげなものであるという事は、強度に問題がありそうだと言う事にはすぐにはなりません。
サイドカーショップでは長年の経験と勘によりこれなら大丈夫だろうと言う物を作っており、不具合が出たときにはその都度対応して品質を向上させていますから、少なくとも経験豊富なショップのオーソドックスなタイプの物であればそう大きな強度上の問題が出るという事はないようです。

SC7サイドカーショップでも述べましたが、日本のサイドカーは理論先行で作られているのではなくショップの経験と勘を元に作られています。
幸いサイドカーは大量販売の自動車やオートバイのように深刻な軽量化の要請がある訳ではありませんから、少なくとも側車フレームに付いては十分な強度を実現することが容易です。
また側車車検のあるものでは大抵は本車フレームの強化がしてありますから安心材料となるでしょう。

ただ強度計算がしてあるから直ちに安心だとは言えないという事です。
またかなり特殊な形状のサイドカーを計算と歪ゲージを元に作った場合は、ショップにもよると思いますが気を付けた方が良いと思います。

 ところで上で述べたようなかなり怪しい強度検討でも実際に当局からOKが出るという事はどういう事でしょうか。
運輸局の人は実は強度が全然分からなかった、と言う事も少しはあるかも知れませんが私の見方としては、おおよそそれなりの物を時間と手間を掛けて準備したのなら認めてあげましょうという事ではないかと思います。

 メンテナンスを受けやすい

 側車車検のないサイドカーを中古で購入した場合、近くのサイドカーショップあるいはサイドカーを扱っているショップで面倒を見てもらえないという事があります。
従がってこの手のサイドカーを購入する際はメンテナンスをどこでして貰えるのかよく調べておく事が大事です。
継続車検の際にも側車を外して持って行かなければならないという事もあります。

前のサイドカーに乗っているとき、ホンダの白子のファクトリー(現名称はテクニカルセンター)で側車車検が付いていればメンテナンスを引き受けますと言われました。
従がってST1100サイドカーではいずれエンジンが疲れてきた際にはここでオーバーホールしてもらおうと思っていました。

CBX750FBサイドカーの時にオーバーホールをしてもらったがなんの成果もなかったことを書きましたが(SC7サイドカーショップ)、こうした事も側車車検のないサイドカーだったので実際に作業を担当したメカの人に軽く見られたという事はあったのではないかと思っています。

 以上見てくると側車車検のないサイドカーにしろ強度計算にしろ定員乗車にしろまたそれ以前にソロのオートバイの免許でサイドカーに乗れると言う点にしろあるいは自動車と比べた際のサイドカーの安全性の問題にしろサイドカーは当局の寛大な対応のおかげで利益を受けていると言えるでしょう。

サイドカーで大きな事故が多く起きている訳でもなくまたサイドカーの絶対数が少ないからそう差し迫った問題でもないと言う事があると思いますが、基本的には警察、国交省、運輸局などはサイドカーにかなり好意的なように私は日頃から感じています。
大きな声では言えませんがこれまで何度か○反を見逃してもらったという事もあります。
現在の日本はサイドカーにとってはかなり住み易い方ではないかと思います。
この状況を変えないためにもサイドカーオーナーは大きな事故が起きないように気を付けるべきでしょう。

2000.8.6 作成
2009.12.15 改訂

 
BRITAINS (英)

EXPRESS DELIVERY

   

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