第三章  船旅

その日の夕刻、P坊を乗せた石炭運搬船はメルボルンの港を出航しました。
やがて周囲が薄暗くなり、のどはカラカラに渇き、お腹は空いてペコペコです。
P坊はすっかり心細く、不安になりました。
思い出すのは牧場で過ごした やさしいお母さん羊の顔です。 「おかあさーん」 とうとうP坊は声を出して泣きだしてしまいました。目から涙があふれだし顔を濡らしました。まだ赤ちゃん羊の鳴き声です。
P坊の声を聞いて、一人の少年船員がやってきました。
そしてやさしそうな手で抱き上げミルクを飲ませてくれました。
航海は続き、夜空に輝く“南十字星”もだんだん低くなり、やがて水平線のかなたに沈んでしまいました。
赤道を越える頃、石炭運搬船はとても暑く、P坊はすっかり衰弱してしまいました。


            第四章 第二の故郷 福山へ

やがて船は長い航海を終え、福山の港に着きました。
この町には世界有数の大きな製鉄所があり、毎日のように大きな船がオーストラリアから石炭や鉄鉱石を運んでくるのです。
やさしく世話をしてくれた少年船員は弱ってしまって歩くこともできないP坊をこの港の港長に預けました。
港長はP坊が病気だと知ると、さっそく知り合いのお医者さんに助けてやって欲しいと連絡しました。
お医者さんは P坊を見ると、「この子羊は脱水状態で、すぐ点滴をしてあげないと命が危ない。それにしても長くて暑い航海をよく耐えたものだ」 と言うと早速クリニックへ連れ帰り、左前腕の細い静脈から点滴を始めました。
P坊は少し不安でしたがお医者さんがやさしそうな人だったので抵抗しませんでした。

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