キース・アウト
(キースの逸脱)

2017年 9月

by   キース・T・沢木

サルは木から落ちてもサルだが、選挙に落ちた議員は議員ではない。
政治的な理想や政治的野心を持つ者は、したがってどのような手段を使っても当選しておかなければならない。
落ちてしまえば、理想も何もあったものではない。

ニュースは商品である。
どんなすばらしい思想や理念も、人々の目に届かなければ何の意味もない。
ましてメディアが大衆に受け入れられない情報を流し続ければ、伝達の手段そのものを失ってしまう。

かくして商店が人々の喜ぶものだけを店先に並べるように、 メディアはさまざまな商品を並べ始めた。
甘いもの・優しいもの・受け入れやすいもの本物そっくりのまがい物のダイヤ
人々の妬みや個人的な怒りを一身に集めてくれる生贄
そこに問題が生まれれば、今度はそれをまた売ればいいだけのことだ。


















2017.09.06

自治体が徴収…教員の負担軽減狙い 文科省方針

[毎日新聞 9月 6日]


 文部科学省は現在、全国の4分の3の市区町村で学校がしている給食費の徴収業務を自治体が直接するよう求める方針を決めた。未納の保護者への督促や多額の現金を扱うことが教職員の心理的負担と長時間勤務の一因になっており、業務を移すことで負担を軽減する狙いがある。

 文科省が昨年実施した調査では、全市区町村のうち74%で学校が給食費を徴収し、自治体が直接行うケースは23%にとどまった。学校では担任が児童・生徒から現金を受け取り、事務職員や教頭に手渡すことが多い。100人に1人とされる未納者の保護者には電話などで督促し、必要があれば家庭訪問する。

 全国公立小中学校事務職員研究会が一昨年にまとめた報告書によると、給食費の徴収業務を負担に感じる教員は小学校で64.2%、中学校で64.3%。一方、文科省が昨年、1週間あたりの教員の平均勤務時間を調べたところ、中学校63時間、小学校57時間で、それぞれ6割と3割が「過労死ライン」を超えた。

 こうしたデータを受け、文科省は「給食費の徴収は、自治体が自らの業務として責任を負うことが望ましい」と判断し、来年度の概算要求に徴収方法のガイドラインを策定するための経費(4700万円)を計上した。

 直接徴収している自治体は税金に関する業務の一環として、口座引き落としや振り込み、児童手当からの天引きで対応している。引き落としや天引きは保護者の同意が必要となる。

 政令市では横浜、大阪、福岡の3市が既に移管し、千葉市は来年4月から始める。同市は1校あたり年間190時間の負担が軽減できると試算している。

 給食費を巡っては、無料にする自治体も増えており、文科省の調べでは、昨年時点で人口の少ない自治体を中心に全国61市町村に上っている。【伊澤拓也】





 
私は教育という仕事を非常に尊いものと思っている。
 それはこの世で最も価値のある気高い仕事である、だから従事者(教員)は、それにふさわしい誇りと矜持と責任を持たなければならない。


 そうした私から見ると、職員室の副校長の脇の電話で、見えない保護者に幾度も頭を下げながら、
「申し訳ありません、今月も給食費が滞っています。明後日までに入らないと会計が閉じません、何とかしていただけないでしょうか・・・」
 そんなふうに依頼している姿を見るのはほんとうに忍びない、切ない。

 教師自身の借金が返済できないという話ではない、払っていないのは保護者なのだ。
 しかも支払いがあったとして、それで教師の懐が潤う訳でもない。教師側の利益と言えば、一義的には「それで給食費督促の仕事がなくなって少し仕事が楽になる」という程度でしかない。
 それなのになぜこうも低姿勢なのか?

 実は担任が恐れているのは「給食費の督促」という生臭い話を毎回続けることで、保護者との関係にひびが入ることである。しつこい督促が相手の感情を損なわないはずがない。そして教師と保護者の人間関係・信頼関係というのは、児童生徒を育てて行く上での必須条件なのだ。それが崩れるのが怖い、だから必死に頭を下げる。
 親はしばしば「子どもを学校に人質に取られている」というが、学校も「親に子どもを、人質に取られている」のである。

 さらにもうひとつ、ある程度滞納が続くと、今度は
子どもの給食停止という問題が浮上してくるからだ。これも怖い。
 世の中には、「給食費を払わない家庭の子は給食を止めてしまえ」と本気で主張する人がいるが、ことはそう簡単ではない。

 
もしそう主張する人が学級担任だったとして、
 給食の時間に、
「○○君の家は給食費を払っていないので今日から給食は出しません。当番の人は配膳しないように」
と言えるのか?

 その上で教室でただ一人、ポツンと何もない机を見つめている子どもを前に、自分は他の子と一緒に、平気でモクモクと給食を食べ続けることができるのか?

 もちろんそんなことはできない、誰にもできない。

 そうなると担任は、毎日給食の始まる前に配膳室から予備の食器を持ち出してクラスの食器かごに忍ばせ、汁物やサラダなどはいい、コロッケだの魚だの、数に割り当てのあるものは事前に全校の欠席者を調べ、他のクラスから融通してもらう。誰も休んでいなければ自分の分を渡す、そんなふうにするものだ。
 それは教員だからではない。
 そのやり方に気づかなければ別だが、知っていれば誰でもそうする。普通の人間だったら――、少なくとも日本人だったら必ずそうする。そのくらい当たり前のことなのだ。つまる、
 子どもの給食を止めると食べられなくなるのは担任。

 しかもその一切を、本人に気づかれないように果たさなければならない。自分の給食が止められたので担任が食べられないといった状況に、子どもも耐えられない。

 一方、給食費を払わなくても子どもが食べ続けているという状況を知って保護者は元気づく。なんだ一人くらい払わなくても何とかなるじゃん!
 それが最悪の事態である。

 だからそうなる前に、担任は一生懸命頭を下げ、なんとか払って貰おうとする、それが現在の教員のひとつの姿なのだ。


 給食費の徴収業務を行政にお願いするという今回の方向、
 仕事が増える自治体の方々には申し訳ないが、督促という点では頭を下げるしか能のない教員と違って、役所にはさまざまなノウハウがあるはずだ。法令に関する知識も教員の比ではない。さらに家庭の経済状況の把握や子ども手当等の運用のしかたといった点でも、何らかの方策を持っているに違いない。

 政府の考える教員の負担軽減策にはロクなものがないと思っていたが、今回は少しいい案を出してきた。
 焼け石に水という人もいるかもしれないが、焼石の温度が1度でも2度でも下がるなら、それに越したことはない。
 ありがたい。
 
 
(補足)
 今回のこの記事に対して寄せられたコメントの中に、
 「いまだに現金での直接徴収だったのか」
 とか、
 「口座振替にすればいいのに」
 とかいったものが非常に多かった。しかし
口座振替にすれば確実に徴収できるというのは根拠のない話である。
 給食費を払わない保護者の口座には1円も入っていないことがある。
 
 また、給食費が現金の直接徴収であることには歴史的経緯がある。それは学校給食がそもそもPTA活動として始まったからなのだ。給食会計の責任者はPTA会長であり、実際の徴収は各学級PTA役員が行う、それが当たり前だった。
 ところが学校給食の歴史的経緯が忘れられ、PTA役員のなり手が減る中で保護者の負担軽減も考慮して、PTA会員のひとりである(PTAのT)学級担任ひとりに給食会計は任されるようになったのである。
 ある地域では、教材費などは口座振替になったのに給食費はならない。そこにはそうした事情があるのだ。

 
 さらに一言付け加えれば、「現金の直接徴収」にはひとつ便利な側面もあった。

 それは給食費納入の日、払う気のない家の子は学校に金を持ってこられないということである。それによって子ども自身が「ウチは払っていない」ということを意識する。
 翌月も、滞納した家の子は担任から「給食費の納入袋」を渡してもらえない(家に行ったままなので)。そこでまた自分の家が給食費を払っていないことを思い知らされる。
 もしかしたら周囲の子も気づいてしまうかもしれない。そして自分の親に話すかもしれない。
 あるいは「給食費を払っていない子」ということでいじめの対象になってしまうかもしれない――。
 そう考えると恐ろしくてとても滞納などできない――そんな思いで給食費だけはきちんと払う、そういう保護者も少なくなかったのである。
 実際、口座振替にしたら頑強な滞納者はむしろ増えたような気がする。
 







2017.09.16

「タイムカードの導入なんて意味がない!」逆に管理強化、
打刻できない土日…嘆く教員


[弁護士ドットコム 9月16日]


学校現場のタイムカード導入は、プラスに働くかーー。教員の長時間労働是正について議論している中教審の特別部会で8月、タイムカードを活用して勤務時間を把握するなどといった緊急提言がまとめられた。

2016年度の教員勤務実態調査によると、タイムカードなどで教員の毎日の退勤時刻の管理をしているのは、小学校で10.3%、中学校では13.3%と少数だ。すでにタイムカードを導入している学校ではどんなことが起きているのだろうか。現場で働く教員に話を聞いてみた。

川崎市の中学教諭の武田さん(30代女性・仮名)は、今年の4月から市全体でタイムカードが導入された。ただ、記録は出勤時のみで、土日の部活動も記録できない。「本当に職員の勤務を管理する気があるのか疑問です。なんのために導入したのか」と訴えている。

他にも、「導入したことで、管理が逆に強まった」「タイムカードがあるおかげで、労働時間が異常だと認識はできている…」といった悲痛な声が続々と寄せられた。タイムカードが導入された勤務校で働く教員4人の生の声を、以下で詳しく紹介する。(名前は全て仮名)
(以下略。続きを読みたい場合は、本記事右上のをクリックすると元記事に行きます。ぜひご覧ください)


 「学校現場にタイムカードを」という中央教育審議会の緊急提言についてはこのサイトでも記事にした(2017.08.30 「教員にタイムカード、長時間労働解消へ緊急提言」
 内容を簡単に言ってしまえば、
「タイムカードを使ったところで正しい数値なんか出てくるはずがない、出てきたところで国や地方公共団体には根本的な対処をする気がない。タイムカード導入でわざわざ押しに行くという教員の仕事、それをチェックするという副校長の仕事、それぞれ仕事が増えるだけでなんの益もないから、そんなのやめとけ」
 ということだったが、実際に使っている学校の先生たちの意見を聞けば、私の思っていた以上の事態が発生している。
 例えばタイムカードで勤務の実態が明らかになると、
「80時間を越える過労死ラインの職員は問題になるが80時間以下だと問題がないという雰囲気が生まれる」
そういったことには私も思いが至らなかった。

「土日にタイムカードを押そうとするとエラーになる」
 これもびっくりだ。

「朝、一分でも遅刻すると1時間年休を申請しなければならなくなる(夕方5時間の超過勤務をしても、残業手当もなければ代休もとれないというのに)」
 これも思いつかなかった。

 いずれにしろ学校のことはあまりにも知られていない。その意味で「弁護士ドットコム」、いい仕事したね。







2017.09.24

中3「教科書理解できない」25%…読解力不足

[毎日新聞 9月23日]


 新聞や教科書などを読み取る基礎的な読解力を身に付けられないまま中学を卒業する生徒が25%にのぼることが、国立情報学研究所(東京都)・新井紀子教授らの研究チームの初調査で明らかになった。

 社会生活を送るのに最低限必要な読解力の不足が懸念される状況だ。

 調査は2016年4月〜17年7月、全国の小6〜社会人を対象に、独自の読解力テストを実施。公立・私立中高生2万1000人の結果を中心に分析した。

 主語や目的語など文章の構造が理解できているかを問うタイプの設問群で、中学1年の正答率は62%、中学2年が65%、中学3年が75%となった。中学3年の4人に1人(25%)が、教科書レベルの基礎的な読解力を身に付けないまま義務教育を終えていることになる。


 この記事は本当に汚い。
 もしかしたらそれは毎日新聞の罪ではなく、新井紀子教授が汚くてそれを毎日新聞が検証もせずに記事にしただけなのかもしれない。

 新井紀子という人は「東ロボ計画」でコンピュータに東大入試を受けさせようとして失敗した人である。要するにセンセーショナルなことが好きな人なのだ(「AIの性能を上げている場合ではない」──東ロボくん開発者が危機感を募らせる、AIに勝てない中高生の読解力
 今回取り上げた記事はこの時の焼き直しで、要するに研究結果が正式にまとめられ、発表されたということなのかもしれない。
(ちなみに国立情報学研究所のサイトhttp://www.nii.ac.jp/には、今のところこの研究に関するリリースはない)


 さて、上記の記事を読んでまず最初に首を傾げるのは「読解力テスト」の成績が、
中学1年の正答率は62%、中学2年が65%、中学3年が75%となった。
と歳を追うごとに上がっていることである。

 これを「中学一年で中1の教科書が理解できる子が62%、中学二年生で中2の教科書が理解できる子が65%、中学三年生で中3の教科書が理解できる子が75%」と書き直すとこの記事の不可思議さがさらに深まる。それでもわからなければ、「教科書」の前に「数学の」とか「英語の」とかをつけてみればいいのだ。
中学校一年生の時よりも二年生の時、二年生の時よりも三年生になってからの方が数学が分かるようになった、英語が理解できるようになった、などということがあるだろうか。

 おそらくそういうことではなく、これは中1から中3まで、同じ問題をやらせたら年を追うごとに成績が上がったという、至極当然なことを語っているに過ぎないのだ。
 そう考えてこの「独自の読解力テスト」を探してみると・・・。
 
 
あった!
 一部ではあるが、昨年2016年7月26日のニュース『文章を正確に読む力を科学的に測るテストを開発/産学連携で「読解力」向上を目指す研究を加速』の中にある「リーディングスキルテストの実例と結果」がそれにあたるのだろう。
 
 
 中身を見てみると、先に書いた「東ロボ君」の記事の中にあった下のような問題がここにもある。
 
「仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアにおもに広がっている」という例文から「オセアニアに広がっているのは(   )である」
 出典は東京書籍(株)の中学校社会教科書『新しい社会 地理』36pで、だから記事タイトルの
中3「教科書理解できない」25%…読解力不足は証明されたとなりそうだが、そうではない。
 
 一般に、国語の教科書の文章表現は非常によく吟味されているのに対し、他の教科の教科書はそうでないのが普通だからだ。
 例えば上記の問題は社会科の教科書から引っ張り出されたものだが、仏教やキリスト教やイスラム教がどんな宗教かまったく説明なままドンと出てくる。まだ学習し始めたばかりの世界地理でヨーロッパや南北アメリカさえ記憶に定着しているかどうか疑わしい生徒に、中央アジアだの東南アジアだの、分かるかどうかの確認もしないでバンバン出てくる。
 そうした単語に振り回されているうちに、骨格である
キリスト教は(ヨーロッパ、南北アメリカ、)オセアニアに、(イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアに)おもに広がっている
はかき消されてしまうのだ。

 
学校の教科書は学力の最低基準ではない、とても難しい。だから教師がいて、授業があって、仲間とともに学んでいかなければならない。

 さらに「リーディングスキルテストの実例と結果」を見て行くと、例として出された問題の出典は「東京書籍(株)高校生物基礎教科書『新編・生物基礎』19p」だったり「東京書籍(株)高校地学基礎教科書『地学基礎』11p一部改変」だったり、「(オリジナル)」だったり――。つまり社会生活を送るのに最低限必要な読解力を、新井教授が彼女なりに設定し、その基準に照らし合わせて理解できているかどうかを測定したにすぎないことが分かる。
 だから全国の小6〜社会人を対象に、独自の読解力テストを実施できるのだ。
 
 
中学1年の正答率は62%、中学2年が65%、中学3年が75%
 この分で行くと高校1年で80%、2年で85%、3年生は90%で、ほぼ満足できるだけの読解力がつくと予想できる。ある意味、新井教授の基準の持ち方は間違っていないともいえるが、その基準に照らし合わせて
「中学3年生が大人の75%の読解力しかない」ことを問題にする、そのこと自体が問題なだけだ。
 
 私は中学生に「高校生物基礎教科書『新編・生物基礎』19p」が読み解けなくても全く問題ないと思っている。
 そもそも
「アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。セルロースは(   )と形が違う」などという問題で、1割近い生徒が正答をはじき出したことの方をすごいと思う(ちなみに私も間違えた)。
 
 研究者は、少しでも目立つ研究を行って翌年の研究費を稼ぎ出さなくてはいけない。しかしマスメディアはそれに乗るだけではなく、研究の価値の検証ということもまたしなくてはならないはずだ。
 
 “偉い先生”の言ったことでもおいそれと聞いてはいけないといことは、スタップ細胞の際に痛いほどに学んだはずではないか!!