蒼井上鷹 08


最初に探偵が死んだ


2008/11/25

 ……ううむ、『出られない五人』の方が読みどころがあったかもしれない。

 義父の作家・星野万丈の莫大な遺産を管理していた内野宗也は、毎年山荘に四人の養子たちを集め、一週間の共同生活を送るのが恒例だった。今年は新たな養子候補も山荘に呼ぶという。そして一週間後に、新たな遺言状が公開されることになっていた。

 遺産相続を巡るトラブルを懸念した宗也は、名探偵・笛木日出男に捜査を依頼していた。このご時世に携帯電話は圏外だわ、山荘に通じる吊り橋が落ちるわ、設定だけに目を向けると典型的な「嵐の山荘」パターンである。ところが、最初の死者は探偵だった。

 序盤の時点で、結末に期待するのはやめておこうと思った。そもそも、蒼井作品にトリックとか意外な犯人とか本格の要素を期待するのが誤りなのである。蒼井作品の読みどころの多くは、奇妙に味わい深く、どこか憎めない人物像にある。短編作品では、そうした人物たちが醸し出すおかしみが秀逸だった。一方、長編になると…。

 死者が増えるにつれて、次々と明かされる万丈の血筋の謎。そりゃ何のヒントもなく予測不可能だろうよ。推理するまでもなく、勝手に話が進んでいく。こういう展開なら、もっと「謎」がハチャメチャに弾けてもらわないと。ロジックで読ませるわけではないのだから。

 蒼井さんの大きな武器と僕が考える人物像の妙は、それだけで長編を乗り切るには苦しいのかなあ。『まだ殺してやらない』は、大傑作とまでは言えないがいい線まで行っていた。だから本作にはかなり期待していたのだ。これで見限るつもりはないが。

 それにしても、〇〇〇というネタは古すぎる。注目に値する点を挙げるなら、あの設定ということになるだろう。こういう設定にしないと話が進まないのは確かだが、この設定ならではの驚きを提供できているとは言い難い。って、同じことをどこかで書いたような…。

 蒼井さんの持ち味を、長編で最大限に生かすにはどうすればいいのか。個人的に才能を買っているだけに、読み終えて何とももどかしかった。



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