蒼井上鷹 09


これから自首します


2009/05/25

 帯曰く、「奇妙な作風で注目の気鋭」とはどうなのよと思うが、言い得て妙。確かに、蒼井上鷹さんの作品には独特の空気がある。その空気を作っているのは、小心者でどこか憎めない人物像の妙だ。と、僕なりに理解していた。

 殺した男も殺された男も、それぞれ自首できない理由があって…という前代未聞の「自首」ミステリー。普通、真犯人が自首しちゃミステリーとして成立しない。『俺が俺に殺されて』や『最初に探偵が死んだ』のような突拍子もない設定でこそないものの、読み始める前から悪い予感がしたことを告白しておく。

 こういう言い方は失礼かもしれないが、結論から言うと「よくできました」と拍手を送りたい内容だ。お人よしが多すぎると突っ込みたくはなるものの(そもそも人を殺すなよという気もするが…)、これだけ入り組んだ謎を、よくぞ破綻することなくまとめたものだ。

 どうしても自首したい男と、自首されたら困る男の駆け引きという図は、ミステリーのネタというよりコントネタに近い。二人は共犯者というわけではない。揺るぎない信念があるなら構わず自首するだろうに、丸め込まれるボケ担当。丸め込むツッコミ担当も必死だ。表向きは親身になって相談に乗りつつ、いかに先延ばしさせるか、頭を働かせる。

 蒼井さんのこれまでの作品を振り返っても、これほど登場人物が多い作品はない。しかも、それぞれが事件に密接に関わっている。その分、人物の相関関係はかなり複雑で、一気に読まないとついて行けなくなる。遅読の僕は、途中何度も読み返した。

 「自首」という最もミステリーにそぐわない行為に着目した点は秀逸と言える。完成度も高い。しかし、蒼井作品独特のユーモアには欠けている印象を受ける。コントネタだがやっている方は大真面目なのだ。我ながら勝手な読者だと思うが、蒼井さんの構成力とユーモアが高度に融合したとき、もっと面白い作品が生まれると期待したくなる。

 今後は長編を中心に勝負するのかわからないが、短編集でファンになった読者としては、次は短編集を読みたいかな。



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