蒼井上鷹 05 | ||
俺が俺に殺されて |
『九杯目には早すぎる』の感想に書いた通り、蒼井上鷹さんの名を知ったのは本作が会社近くの書店に平積みされていたからであり、最初に読んだ作品も本作である。しかし、後から読んだ『九杯目には早すぎる』の感想を先に書いた。
さらに『九杯目には早すぎる』同様に短編とショートショートを配した『二枚舌は極楽へ行く』を読んでみた。長編1作と短編集2作を読んだ現時点では、蒼井さんは短編向きであるというのが僕の見解である。長編では短編のような切れ味が出せていないかな。
世界で一番嫌いな、バイト先のバーのマスター別所に絞殺された「俺」。だが、「俺」の魂は別所の体の中に飛び込んだ。「俺」は「俺」を殺した罪で捕まってしまうのか? さらに、別所(=「俺」)は別の殺人事件の容疑者でもあった…。
という、主人公が「被害者」兼「犯人」兼「探偵」というなかなかにふざけた設定。帯には書店員の推薦文。つい手を出したが、こういう設定にするからには相応の驚きが求められる。読者の目が一段と厳しくなることを、作家は覚悟しなければならない。
主人公のあんまりな境遇にも関わらず、ちっとも重くないんだよなあ。デビュー作と比較しても文体がこなれていないのは、作家志望の主人公を意識してのことだろう。ドタバタ劇として読めばそんなに悪くはない。ただし、意識が乗り移るという設定自体は前例があったと思う。この設定ならではの驚きを提供できているとは言い難い。
(一応)メインのトリックだが、小粒なのはともかく、なぜ小道具が〇ー〇なんていう足がつきやすいものでなければならない? いくらでも代用品があるだろうに。それでも終盤のひねりには「おっ」と思った。でも着地のさせ方が…。
実は、本作を読み終えた後、著作リストを作ろうかどうか大変迷った。断を下すのを急がず、『九杯目には早すぎる』を読んでみてよかったと思う。蒼井さんの作品を読むなら、本作を最初に読むのは避けた方が無難だろう。まずは短編集からどうぞ。
近年のメフィスト賞受賞組のような我の強さはないが、蒼井上鷹という作家の実力は疑っていない。なお、もう1作の長編『出られない五人』は入手済みである。