綾辻行人 12


黄昏の囁き


2001/05/19

 「館」シリーズと並ぶ綾辻さんのもう一つのライフワーク、「囁き」シリーズの第三作。

 兄の急死の報を受け、故郷の栗須市へ帰ってきた医学生、津久見翔二。兄の死を不審に思った翔二は、偶然知り合った占部と真相追究に乗り出す。そんな中、兄の幼馴染みたちに次々と殺人鬼の魔の手が伸びる。翔二の脳裡に刻まれた、幼き日の恐るべき記憶とは…。

 結論から言うと、残念ながら『緋色の囁き』、『暗闇の囁き』には一歩譲ると思う。シリーズの特徴である、「囁き」の挿入もあまり効果が出ていない。

 前二作の閉鎖された舞台に対し、本作の舞台は現実世界と言っていい。その点が、「囁き」が効果を発揮せず、個人的にあまり盛り上がれなかった要因ではないか。大病院の跡取りという宿命を負った翔二にとっては、津久見家が、そして栗須市が、閉鎖された世界を象徴しているのかもしれないが。

 また、前二作に対し、真犯人が狂気に至る過程の説得力のなさがどうしても際立つ。「説得力」なんて言葉を持ち出すのは野暮だとは思うし、その点だけに着目すれば他の二作だって弱いだろう。しかし、『緋色の囁き』には、徹底した緋色の作品世界があった。『暗闇の囁き』には、痛々しいまでの切実さがあった。それぞれに、補って余りあるプラスアルファがあったと思う。

 「館」シリーズは、新作『暗黒館の殺人』が着実に形になろうとしつつある。「囁き」シリーズはこれで終わりなのだろうか。是非、続けてほしいシリーズだ。もう一つの連載作品『最後の記憶』は、初の長編ホラーとのことだが、「囁き」シリーズの流れを汲んではいないのだろうか。単行本刊行されるまで読まない僕としては、ただ待つのみ。

 最後まで真相を読ませないところはさすがと言っておきたい。



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