綾辻行人 28


奇面館の殺人


2012/01/11

 今年のミステリ界の目玉中の目玉、綾辻行人さんの館シリーズ待望の第9作、『奇面館の殺人』が新年早々に読者の元へ届けられた。

 綾辻さんご本人があとがきで述べている通り、第7作『暗黒館の殺人』は本格というより怪奇幻想色が強い超大作だった。ミステリーランドから刊行された第8作『びっくり館の殺人』も、シリーズとしては変則的だった。今回目指したのは、『迷路館の殺人』のような遊び≠ノ徹した軽やかなパズラーだという。

 長さは予定の倍程度の800枚超になったが、2500枚超の『暗黒館の殺人』と比較すればとてもコンパクトに思える。いわば原点回帰とも言える本作、恒例の平面図は折り返しの豪華版だ。すいすい読み進むし、初期作品のような懐かしい香りが満ちている。

 作家の鹿谷門実は、容貌がよく似た友人の代理で、奇面館で行われる奇妙な集まりに出席することになった。「表情」恐怖症だという主人・影山逸史の前では全員がマスクを着用し、面談に臨む。ところが翌朝になると首なし死体が発見され…。

 現場は大雪に閉ざされ、すべての電話は破壊されていた。鹿谷を含む6人の招待客は、マスクを施錠され外せない。ベタすぎる設定に嬉しくなってくるねえ。なお、本作の時代設定は1993年4月で、携帯電話の普及率は3%。現代でも圏外のような気がするが。

 死体には首がないことだけでなく、もう1つ異様な特徴があるのだが、触れずにおく。なるほど、説明されれば真犯人の行動は極めて合理的だし、鮮やかなひねりに膝を打つ。何気ない言動はしっかり伏線になっていた。これぞパズラーの醍醐味。

 …なのだが、アンフェアな部分も多々ある。支障がない程度に書くと(あるかも…)、鹿谷の推理の前提と出発点は、ここが中村青司が手がけた館であるということ。帰納的ではなく演繹的である。ファンなら当然考慮すべきと指摘されれば返す言葉がないけれど。

 とはいえ、ロジックの明快さはさすがと言うしかない。推理が進むほど「傍点」を多用し、そんなのありかと思いながらにやけてくる。ファンには言うまでもなく、この妄想の強さと、エピローグに至るまでの遊び心こそ、館シリーズなのだ。



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