遠藤武文 05 | ||
炎上 |
警察庁情報分析支援第二室〈裏店〉 |
装丁とタイトルだけ見れば、何だか今野敏さんの警察小説のようだ。だが、著者名を見ると、遠藤武文とあるではないか。長いサブタイトルがついているが、通称〈裏店〉とは、迷宮入りした事件の資料が全国の警察から送られてくる、いわば警察庁内の吹き溜まり。
そんな無用の部署の室長代理である安孫子警視正。実は『トリック・シアター』に登場していた。警察庁のキャリアなのに自ら現場に出るという点では、今野敏さんの『隠蔽捜査』シリーズに登場する竜崎を彷彿とさせるが、我孫子は竜崎を上回る変人だ。
「消失」。長野県警安曇野署管内で発見された遺体は、迷宮入りした殺人事件の被疑者だった。当時の資料は〈裏店〉送りにされていたため、捜査員2人が警察庁まで出向くことになった。すると、我孫子警視正は資料だけからズバリ真相を解き明かしたっ!!!
うーむ…すっきりしない真相の典型例だが、まあ掴みとしては悪くはないか。ところが、迷宮入りした事件を扱っているのは、実は4編中最初の1編だけ。早々にコンセプトが崩れたではないか。いや、そもそもコンセプトなんてあったのか。
「黒猫」。オカルトに傾倒した夫を、気分転換に旅行に連れ出すと、そこにはクレーマーがいた。その男こそ我孫子であった。クレームは理不尽だが推理は極めて合理的。「窃盗犯」。家電量販店内で多数の窃盗被害が確認された。翌朝、店内に男の死体が…。「消失」で我孫子と知り合った捜査員が電話すると、彼はぶっきらぼうに言った。
「炎上」。文字通りとだけ書いておく。民間人の誘いでわざわざ松本まで出向く我孫子。それはともかく、旅先で事件が起きるのはお約束。我孫子が描き出した事件の姿とは。東電に関するくだりは必要なかった気がするが、考えさせられる1編である。
せっかくの我孫子というキャラクターと、〈裏店〉というシチュエーションが、さほど生かされていないか。クラシック通だったり、情に厚かったり、意外な一面もあるのだが。このシリーズが継続するのかわからないが、魅力的なシリーズになるポテンシャルは感じられた。