福井晴敏 07


戦国自衛隊1549


2005/06/13

 故半村良氏原作のオリジナル版を読んだことはないが、映画版はテレビで観た記憶がある。内容はかなり忘れているが、こんな話ではなかったのは確かだ。薬師丸ひろ子がちょい役で出演していたという、どうでもいいことを覚えていたりするが…。

 本作は、自衛隊が戦国時代へタイムスリップするという設定のみを借りた、実質的には福井晴敏さんのオリジナル作品である。と同時に、『亡国のイージス』や『終戦のローレライ』よりも映画の原作であることをより強く意識しているように思う。

 映画のパンフレットに掲載されたインタビューによれば、これでも当初の予定より膨らんでしまい、「普通の長編」一冊分のボリュームになったそうだが、過去の作品を考えれば破格と言っていい短さ。よくこれで我慢(?)したなと思わずにはいられない。

 内容はSF色が旧作よりずっと強い。ある実験中のトラブルで、戦国時代に飛ばされた的場一佐ら陸上自衛隊第三特別混成団。彼らが消失して2年後に日本各地に現れた「ホール」は、着実に現代を侵食していた。それは歴史に干渉した第三混成団の、過去からの攻撃だった。的場一佐たちを現代へ連れ戻すべく、回収部隊「ロメオ」が結成された。

 いわゆる「タイムパラドックス」ものである。福井さんも挙げていた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、積極的にネタ化することで成功した娯楽大作だが、本作のルールは厳密だ。後続のロメオ隊は、第三混成団より前の時代には飛べない。6年後に過去に飛べば、現地時間でも6年が経過している。その間にしっかりと過去に拠点を築く的場。そこがミソ。

 自衛隊を題材にするのが好きだなあ…と思わないでもないが、現代社会の存亡が懸かっている割には基本構造はシンプル。映画版では人間ドラマという面をより前面に出していたように思う。原作とは微妙に設定が違うのがまたミソ。そもそも、原作と映画は補間し合う関係にある。映画の説明不足を原作が補い、原作でピンとこない部分は映像が補う。

 元々、原作と映画を同時に売り込むのは角川書店の得意とするところ。両方セットで楽しむことを前提として作られており、どちらか一方だけだと何となく物足りない。どちらかに手を出したあなたは、既に角川書店の掌の上。あ、僕も?



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