原 りょう 01


そして夜は甦る


2001/02/25

 原りょうさんは、30歳頃から翻訳ミステリーに没頭し始め、特にレイモンド・チャンドラーに心酔したそうである。本作は、そのチャンドラーを意識して書かれたという原りょうさんの長編デビュー作である。

 僕は翻訳物をほとんど読んでいないので、原さんの作品をチャンドラーの作品と比較することも、沢崎とフィリップ・マーロウを比較することもできない。しかし、そんな僕でも本作の面白さはよくわかる。

 行方不明になったルポ・ライター、佐伯の捜索依頼を受けた私立探偵沢崎。調査が進むにつれて、事件は過去の東京都知事狙撃事件の全貌へと繋がっていく…。

 てのひらを返すようだが、僕は『私が殺した少女』よりもこちらを推したい。原さんの作品世界の、沢崎という男の魅力が、ずっと際立っているように思うからだ。先に本作を読んでいたら、『私が殺した少女』に対する見方も変わっていたかもしれない。臭すぎるくらい臭い沢崎の台詞の数々が、決して嫌味ではなく心地良く響く。くー、渋いねえ。

 脇を固める人物の中では、警視庁新宿署の錦織(にしごり)警部が特にいい味を出している。沢崎と錦織の憎まれ口の応酬は、本作の読みどころの一つとして是非挙げておきたい。二人とも、何だかんだでお互いを認めているのだろう。

 大胆なストーリー展開にも注目だ。大胆すぎると言ってもいい。しかし、登場人物の存在感を考えればこのくらいで丁度いいんじゃないかとも思える。終盤の二転三転する展開は、ちょっと凝りすぎかな…という気もするが。どーですか、この皮肉なラストは。

 すっかりただのミーハーになって楽しませてもらった。それにしても、偶然とはいえ、本作に登場する東京都知事の向坂晨哉(さきさかしんや)と、現東京都知事の石原慎太郎氏に色々と共通点があるのには苦笑してしまう。



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