東川篤哉 04 | ||
学ばない探偵たちの学園 |
東川篤哉ブームに乗じて、鯉ケ窪学園探偵部シリーズも順調に売り上げを伸ばしているという。最新刊の『放課後はミステリーとともに』はもちろん、『殺意は必ず三度ある』も。カバーを一新した効果だろうか。ま、売れるときに売っておくのが商売のセオリーだ。
さて、本作は鯉ケ窪学園探偵部シリーズの記念すべき第1作である。光文社以外から刊行された初の作品でもある。ところが、版元の実業之日本社が文庫のレーベルを持っていなかったため、文庫版は光文社から刊行されたのだった。
私立鯉ケ窪学園の探偵部に入部してしまった、転校生の赤坂通。部長の多摩川、部員の八橋とともに部活動に励む中、放課後の学園で密室殺人事件が発生! 被害者は芸能クラスに所属するアイドルを盗撮しようとしたカメラマンだった。さらに…。
死体発見現場を、どうやって密室状態にしたのかが争点である。東川作品らしく登場人物たちは騒々しいが、シンプルかつ極めて正統的な本格だ。僕の読書経験を振り返る限り、密室トリックは実が抜け穴がありましたというものがほとんど。作中の探偵部員たちも、当然抜け穴の可能性を検証するし、読者である僕もそういう目で読んでいた。
ところが、本作の密室トリックは、明かされてがっかりすると同時に腹が立つ「抜け穴」タイプではない。これぞ物理トリックの王道。古いって? 温故知新と言いなさい。2つの現場とも、偶然に頼りすぎな感は正直ある。特に第1の現場は。でもね、突っ込む楽しみも本格の魅力だと思うのである。完全無欠な本格って僕は読んだことがない。
動機の面もちゃんと説明できているのだが、さらっと流している。殺人事件が起きるのに、気楽に読ませるのが東川流なのである。学園ミステリーといえば美男か美女が探偵役というのが定番だが、探偵部の3人を道化役にしているのも特徴だろう。とはいえ、彼らも事件の解決に少なからず貢献していることは、探偵部の名誉のため触れておきたい。
本作の文庫化時点で、実業之日本社も光文社も、これほどまでの大ブームを予想していなかっただろう。実業之日本社文庫が創刊された現在、実業之日本社としては本作をラインナップに加えたがっているに違いない。