東川篤哉 12 | ||
はやく名探偵になりたい |
ブームは衰えを見せず、ますます絶好調な東川篤哉さんの新刊は、烏賊川市シリーズとしては初の短編集である。『謎解きはディナーのあとで』や鯉ケ窪学園探偵部シリーズ『放課後はミステリーとともに』を手に取ったものの、長編は敷居が高いという読者もいるだろう。本作を入口に烏賊川市シリーズへ導こうという計算なのか?
全5編、警察は登場しない。過去の長編作品は、鵜飼と砂川警部ら烏賊川市警察がお互いの推理を補完し合っていたが、今回は鵜飼と流平のコンビだけで事件に挑む。
「藤枝邸の完全なる密室」。渾身の(というのはかなりちゃちな)トリックで密室に見せかけるはずが、そこに鵜飼と流平がやってきた。鵜飼が指摘した動かぬ証拠とは…って、読者はその情報知らないんだからアンフェアだろっ!!!!!
「時速四十キロの密室」。移動中のトラックの荷台で死んでいた被害者。乗せたときには確かに生きていたのに…。うーむ、偶然に頼りすぎな感があるが、マナーは守りましょうね。というか、よく生きていたな流平…。その方が驚いた。
本作の一押し、「七つのビールケースの問題」。なるほど、あの夜の不可解な状況がすべて説明されている。冴え渡る鵜飼の推理。って、なんだか名探偵みたいでらしくないぞ。というか、2人ともよく生きていたな…。その方が驚いた。
「雀の森の異常な夜」。なるほど、あの夜の不可解な状況がすべて説明され…って、そりゃアンフェアだろっ!!!!! 発想の飛躍という点では本作中No.1だが、深夜とはいえちょっと苦しいんではないかい? 嗚呼、解決編がびしっと決まらない鵜飼…。
ラストを飾る「宝石泥棒と母の悲しみ」。この手法には多くの先行例があるが、こういう応用は前代未聞。読者はそんな情報知るわけないんだからアンフェアだろっ!!!!! などと言わずに笑うが吉。これからも仲睦まじく暮らしてちょうだい。
烏賊川市シリーズの長編は、軽い乗りとは裏腹に極めて真面目な本格だが、本作には短編ならではのお遊びもあり、鵜飼と流平のコンビを前面に出すなら短編の方がいいのかなという気もする。でも、また長編で大暴れしてほしいな。