東野圭吾 04 | ||
学生街の殺人 |
久しぶりに再読してみた本作は、『放課後』『卒業―雪月花殺人ゲーム』と合わせ、学園三部作と呼ばれることが多い。現在でも学園物は多いが、『放課後』『卒業』が文字通り学園を舞台にしているのに対し、本作は学生街が舞台である点が一風変わっている。
しかも、寂れた旧学生街である点が興味深い。大学の正門の位置が90度変わり、学生たちはあっさりと新学生街に流れた。わざわざ旧学生街に足を運ぶ律儀な学生などいない。店の数が最盛期の四分の一にまで減った旧学生街に居残る、津村光平。
光平と同じ店で働く、かつてはメーカーに勤務していたという松木が殺害された。さらに、第二の殺人の犠牲者は光平の恋人広美だった。現場は密室状態。矢継ぎ早の連続殺人に、読者も衝撃を受ける。広美をいかに知らなかったか、打ちのめされる光平。
主人公の光平は、大学の工学部を卒業したが、定職に就いていない。親には大学院に進学したと嘘をついている。いわゆる「自分探し君」である。本作刊行当時といえば、バブル経済真っ盛り。なぜ旧学生街に留まっているのか、光平自身もわかっていない。
こういう甘ちゃんな主人公に感情移入するのは正直難しい。それでも、一見無気力そうな光平が、広美の死の真相を追究すべく動き出す。光平を応援したいというより、読者も真相を知りたくなる。それが読み進めるエネルギーになったように思う。
二重三重に張り巡らされた謎は、現在でも十分に通用するだろう。知りなくない真相を光平は次々に暴く。その結果、誰もが不幸になってしまった。彼を駆り立てたのは、若者らしい潔癖さなのか。再読して改めて感じた。そう、これはあの作品を彷彿とさせる。
東野さんが作家を志すきっかけになったという、故小峰元さんの第19回江戸川乱歩賞受賞作『アルキメデスは手を汚さない』。若者らしい青臭い正義感は、理解に苦しむと同時に眩しくもあった。現代だからこそ新鮮にも映る。本作もまた然り。
旧学生街に残る者たちの、旧学生街への愛着が数少ない救いかもしれない。