東野圭吾 64


流星の絆


2008/03/14

 もっとドロドロした嫌な展開なのかと思っていたのだが…。

 両親を惨殺された三兄妹。流星群を見るため、犯行時刻に家を抜け出していた長男の功一、二男の泰輔、末っ子の静奈は、両親の仇討ちを誓う。このような設定であるから、もちろん嫌な話ではある。しかし後味は悪くない。キーワードがキーワードだからか、単純なドロドロ味に仕上げない料理法は、いかにも東野圭吾らしい。

 頼れる親戚もいないため施設に入らざるを得ない三兄妹。そして物語は急に14年後に飛ぶ。詳細は明かせないが、三兄妹は生き馬の目を抜く現代を逞しく生きていた。ここに至るまで様々な苦労を味わったに違いないが、敢えて触れないのが東野流。

 三兄妹は両親の仇に遭遇する。偶然に頼りすぎな感はあるものの、三人が奴こそ仇だと確信するに至った理由は…読んでください。この理由こそが本作のポイントであり、彼らの復讐計画とも密接に関わってくるのだ。ありそうでなかったパターンではないか。

 三兄妹のブレーンである功一が復讐計画を立案するが、正直作為の臭いがぷんぷんするし、鮮やかとは言えない。それでも功一なりの必死さは伝わってくる。あまりに緻密な計画では、むしろ読者の感情移入を妨げたかもしれない。実際、功一はもっと緻密で直截的な計画も立てられただろう。しかし、功一にはできない。理由は言わぬが花。

 帯にでかでかと書いてあるように、静奈は仇の息子に惚れてしまった。いわゆるストックホルム症候群とはシチュエーションが異なるが、これまたありそうでないパターンかもしれない。復讐計画の最後の仕上げから、結末に至る展開はやや予想外だが、14年後に明らかになる真相はちょっといただけない。三兄妹はつくづく生真面目だ。

 本作に『百夜行』のような精巧さはない。帯にあるような「すべての東野作品を超えた」というのは言いすぎだと思う。しかし、本作には人間臭さがある。三兄妹とその仇とその息子、その他脇を固める人物たち。誰もが人間臭い。『容疑者Xの献身』以降、ぱっとしなかった東野作品に何が欠けていたのか。その答えが本作にあるように思う。

 最後にこんなデザートが。結末が甘すぎると言いたければ言え。これこそ東野作品の王道だ。年末ランキングで上位に入るかどうかなど関係ないのである。



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