東野圭吾 73


麒麟の翼


2011/03/08

 東野圭吾さんの新刊は、待望の加賀恭一郎シリーズ最新刊である。東野さん曰く、『新参者』と『赤い指』の融合を目指したという。講談社はシリーズ最高傑作を謳っており、東野さんご自身が看板に偽りなしと自信を示している。

 胸にナイフを刺された男性が、日本橋の欄干にもたれかかったまま死亡しているのを、巡査が発見した。地下道で刺された後、ここまで移動してきたらしい。ほぼ同時刻、不審な人物が現場近くで車にはねられ、意識不明の重体となっていた。

 事故に遭う前、その不審人物は恋人に言葉を残していた。捜査が進むと、生死をさまよう容疑者と被害者の間に接点が浮かんだ。一応動機の説明もつく。背景にあるのは昨今よく聞くキーワードとだけ書いておこう。警視庁としてはその線で決着を図りたいところだが、容疑者の意識は戻らないし、決定的な証拠も出てこない。

 日本橋署の加賀恭一郎が本庁の松宮と組むのは、『赤い指』以来である(前回は練馬署所属だった)。加賀の目には違う筋書きが見えているらしいが、秘密主義の加賀は松宮にもすべてを明かさない。日本橋界隈を何度も歩き回る辺りは、人形町を舞台にした『新参者』のテイストを感じさせる。時には人形町まで足を延ばす。

 一方、急に一家の大黒柱を失った家族。周りは最初は同情的だった。しかし、事件の背景が面白おかしく報道され、父が「首謀者」扱いされると、掌を返したように冷たくなる。あまりにありがちな構図。家族の苦悩にスポットを当てている辺りは、『赤い指』のテイストを感じさせる。テーマの重さという点でも共通している。

 事件発生までの被害者、容疑者の足取りを、執念深く追う加賀。やがて至った真相とは。あの有名スポットのもう一つの意味は、僕も初めて知った。なるほど、確かに意外な真相だったけれども…そんなのあり? 加賀がここまで執念を燃やしたのは、彼自身の辛い過去と無関係ではないのだろう。加賀が真に許せなかったのは、犯人ではなく…。

 十分堪能はしたけれど、『新参者』の完成度を超えたとは言えないと思う。



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