平山夢明 05 | ||
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平山夢明さんご自身のブログ(2007年10月22日参照)によると、本作中には校正の偉い人が「いったい、この話に何の意味があるんだ?」と怒り出したものも含まれているという。具体的にどれなのかは明記されていない。あれかなあこれかなあ…。
というわけで、「読者を選ぶ」短編集第3弾が到着した。これまでの2作『独白するユニバーサル横メルカトル』『ミサイルマン』を読むと、平山さんの作品は単なるグロではなく、根底には優しさを感じさせるものも少なくない。ところが今回はどうだ。
ここには愛もなければ優しさもない。ただ絶望があるだけ。理不尽な暴力のオンパレード。こういうのが実録怪談の雄たる平山夢明の本性なのだろうか。
新聞の片隅にも載らない交通事故など「他人事」。「引きこもり」や「ニート」など社会問題に鋭く迫る「倅解体」。グルメなんぞけったくそ悪い、その結末は読めなかった「たったひとくちで……」。暴力・暴力・暴力、だけど愛を感じないこともない「おふくろと歯車」。
タイトルといい内容といい何の意味があんねん「仔猫と天然ガス」。これが超高齢化社会の行く末か「定年忌」。核兵器より邪悪な究極兵器とは、「恐怖症召還」。伝書鳩ならぬ「伝書猫」が運んできたとんだ物。飼い主の行動がやけに冷静…。
きっとバーベキューに行きたくなる「しょっぱいBBQ」。現実に起きても驚かない、匿名の時代を斬る「れざれはおそろしい」。「キューティーハニー」に何の意味があんねん「クレイジーハニー」。タイトルはともかく結末はビターだぜ「ダーウィンとべとなむの西瓜」。
太宰治の作品名をパクるとは、でも本当に「人間失格」…。最後の最後はとびきり難解だ、敢えて言うなら青春記か「虎の肉球は消音器」。
校正の偉い人はわかっていなかった。意味とかオチがないとか考えてはいけない。帯には「恐怖とは何かと考えていた」という一文がある。それに対する平山夢明の答えがこれらの作品群なのだ。恐怖とは理屈じゃない。つくづくあなたは人が悪い…。なお、サイン会でお会いした平山さんは笑顔が素敵なナイスミドルでした。