平山夢明 06


ダイナー


2009/10/31

 ポプラ社といえば児童書の出版社というイメージが強い。そんなポプラ社から、平山夢明さんの約2年ぶりの小説の新刊が出るという。何を血迷ったのかポプラ社…。

 あの平山さんの作品だけに、もちろんよい子には読ませられない。こんなもん読み聞かせたらトラウマ必至。映画でいえばR-15、いやR-18か? それでも思う。本作を書いた平山さん、そして刊行したポプラ社には、心から拍手を送りたい。

 奇妙なバイトを引き受けたばかりに、客はすべて殺し屋という会員制の定食屋(ダイナー)「CANTEEN」でウェイトレスをする羽目になったオオバカナコ。超凶悪な客たちの気に障ったら命はない。カナコはいつまで生き延びられるのか…。

 前作『他人事』は、理不尽な暴力に対する理由づけを廃したという点で注目される作品集だった。本作も序盤から拷問描写がかなりきつい。しかし、そこを突破して読み進めれば、極悪非道な殺し屋たちの悲哀を描いていることがわかるだろう。殺し屋としてしか生きられない異形の者たち。ささやかな食の楽しみ。店長はすべてを心得ている。

 店長のボンベロの渋いキャラクターがかっこいい。店長に就いた経緯など謎が多い。あとがきによると、『独白するユニバーサル横メルカトル』が2007年版『このミス』で第1位になったとき、「これはミステリーではない」という声が多かったという(文句は宝島社に言え)。そうした声を意識したのか、ミステリーとしても読める作品になっている。

 人使いが荒いボンベロだが、料理の腕は確か。ああ食べてみたい。カナコも戦場のような「CANTEEN」に徐々に馴染んでいく。時には殺し屋に情が入る。カナコにもまた辛い過去があったのだった。いつしか生まれたボンベロとカナコの絆。そしてボンベロと愛犬菊千代の絆。終盤は怒濤のクライマックスに一気になだれ込む。

 毎度ながらのスプラッターな残虐描写。交錯する愛と死。ピカレスク小説であり、任侠物のような側面もある。本作は優れたエンターテイメントであると同時に、ジャンルという枠にはめてしまう愚に対する痛烈なアンチテーゼではないか。



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