伊坂幸太郎 12


陽気なギャングの日常と襲撃


2006/05/13

 のっけから更新遅れの言い訳のようだが、立て続けに長くて重厚な作品を読むのはかなりしんどい。ただでさえ僕は読むのが遅いのだ。某作品の上巻をやっと読み終えたところで小休止し、伊坂幸太郎さんの新刊を読むことにした。

 本作は、近日映画公開―って今日からだよ―の『陽気なギャングが地球を回す』の続編である。読み始めて、ああ何て読みやすいんだろうと心底ほっとした。『終末のフール』にはやや辛辣な感想を書いたが、本作には伊坂幸太郎のよさが満載だ。

 あとがきによると、当初は、愛すべき(?)四人のギャングたちを主人公とした短編を8本ほど書く予定だったそうである。ところが4編書いたところで長編にすることになり、前半部は雑誌掲載済の4編に手を入れて組み込み、後半部を書き下ろして刊行された。

 全体としては長編だが、前半部の4編はそれぞれ完結している部分もある。伊坂さんの方針転換は、短編集の要素を持つ長編という味わい深い作品を生んだのだった。しかも、例によって例のごとく人と事件が巧みにリンクしているのだから、堪えられませんぜ。

 台詞回しのテンポのよさは前作と同様だが、変にひねらずすっきりしている印象を受ける。今回は構成力で勝負か。僕はこの点を成長と受け止めたい。ただ、前作の方がキャラが立っていたとも思うので、前作を未読ならば是非読んでおいてほしい。

 ふとしたことから、銀行強盗という本業(?)ではない事件に首を突っ込んだ面々。このシリーズの魅力は、どんな冷酷非道な敵にも陽気に明るく立ち向かうことにある。うわあっ、このピンチの切り抜け方意味わからねー! でも見てみたいぞその光景。それでいて、悪の親玉にはきつーいお仕置きが待っているのだった。嗚呼お気の毒様…。

 伊坂さんにこれだけはお願いしたい。今後ともこの読みやすさを失わず、大長編は書かないでください。さて、下巻を読むとするか。ふう…。



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